ニャームズの帰還?
いい忘れてましたが例のゾウガメ脱走事件とはなんの関係もありません。
「いや、全く意味がわかりませんよ」
ニャンダイチが混乱するのも無理もない。
散々捜したゾウガメに懸賞金がつけられた次の日、鈴木親子が15分捜しただけでルパンは見つかったのだ。
「あの辺りは捜したはずなんだけどな……」
紅茶を飲むニャンダイチ。
「あの親子がかくまっていたんじゃないかと思うぐらいですよ……」
「無事動物園に戻ったんだからいいじゃ……」
「……リフォーム前なら……その可能性はあったかもしれんがねぇ……」
「タマさん……どういう意味です?」
「あの家では昔ゾウガメを飼っていたみたいだったから」
《……えっ!?》
あのときはそんなことは一言も……ああ。
私が遮って無理やり温泉に連れてったんだった。
「広すぎるバスルームがありましたね?」
「ええ」
思いだそう。
タマはなにに疑問を持っていた?
浴槽、天井、芝、糞、照明……。
ニャンダイチが首をかしげていたのであのバスルームについて説明してやった。
「まず……じゃが……ありゃバスルームでなく、ゾウガメを飼育する部屋だったと思うんです」
「ゾウガメを!?」
「うむ……あれは浴槽でなくゾウガメ用プールだと。芝は人工芝と天然芝。照明の跡とエアコンの設置跡……ゾウガメは熱に弱い。25度前後に設定するために設置していたんじゃなかろうかと……この町の図書館の本によるとゾウガメを一般家庭で飼う場合1フロア丸々ゾウガメのために使うらしいですよ。あの部屋はまさにゾウガメ飼育用のそれだったと思うんじゃ」
「……ははぁ」
驚いた。
あのときそんなことを考えていたとは。
お風呂が好きな人間が住んでたんだなぁとか思ってた私がバカみたいだ。
「まぁ決定打は浴槽に落ちていた乾燥した糞だったのですがね」
「タマさん! なぜそれを教えてくれなかったのです。まてよ……? 確かあの親子はルパンをみつけて懸賞金を受け取ったはず……まさか自分たちで誘拐して自分達で!? 卑怯な!」
「まーまーまー」
タマが招き猫のように手をふると不思議なことでニャンダイチの興奮は治まり、彼は深呼吸をして、椅子に座り直した。
「リフォーム前ならと言ったじゃろ? あの家の調査はワシもしましたが……一階はぶち抜きのガレージになってました。あの環境でルパンを、ましてや素人が飼育するのは無理だったと思いますね」
「タマさん……あなたは……?」
なんと……アルバイトしながら彼は調査なんてしていたのか。
私は……おそらくニャンダイチもその時タマに「ニャームズ」を感じていた。
懐かしい感覚だ。
まるでニャームズがここに帰ってきたかのような錯覚におそわれる。
「素人がよけいな真似を……口に出してプロに笑われるのが恥ずかしくてな……どうにもワシは知りたがりのようだ。ところでニャトソンさん」
「なんだい?」
「ニャームズさんの部屋に私をいれてくれませんか? あの家の歴史について調べたいのじゃが……」
「……」
ニャームズの部屋には鰹が丘の住人たちのデータが保存してある。
そのことは世間話の流れで彼に話したことがある。
たしかに部屋を調べればあの廃墟の元の住人のこともわかるだろう。
そして……タマがそれを知れば全ての謎が解き明かされるかもしれない……。
ルパンはなぜ逃げたのか?
ルパンはどこに潜伏していたのか?
そしてなぜ懸賞金がでたとたんに鈴木親子はルパンをあっさり捕まえることができたのか……。
どうする?
もう解決したんだ……別にいいじゃないか……いや。
「……いいでしょう」
「えー。ニャトソンさん。いいんですか?」
いいのだニャンダイチ。
私もいつまでもニャームズの死を引きずったままではいけない。
過去に立ち向かおう。
そして乗り越えよう。
格好つけたが、結局私も知りたがりということか……。
……
……ギィ。
扉を開けて久しぶりにニャームズの部屋にはいった。
私とニャンダイチはしばし懐かしさにボゥっとした。
思い出が甦る……なんというか。
意外と平気だ。
むしろ懐かしく心地よい。
なぜ私はウジウジとしていたのかと後悔までしている。
右目から涙がツーと垂れた。
私がそれを拭くとタマがちょうど書類を見つけたようだ。
「ありました! いやぁ。よーく。整理されてる。簡単に見つかりました。「二十年前の鈴木家」のデータです」
そうかそうか……二十年前の鈴木……えっ?
「二十年前にあそこにすんでいたのも……鈴木?」
日本には山ほどいる名字だが……偶然なのか?
つづく。