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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
ルパンとニャームズの帰還。
182/203

不象さんと温泉と動物園と。

 その日の午後、猫民票登録をし、はれて鰹が丘の猫となったタマと不象さんと貝柱山にある廃墟にやってきた。


「ぞうですか? お客様。これだけの物件は中々ありませんよパオ」


山中というのが気になるが、一匹暮らしするには十分な家だ。


 築五十年。


 廃墟になって三十年ってとこらしい。


 二階建て、素晴らしい。


「どうですか? タマさん?」


「いいですなぁ。しかし本当にいいんですかなぁ?」


「いいんですよ。君。契約書を」


「はいパオ」


 私は契約書を受け取り素早くサインをした。

 こういう決断ははやいほうがいい。

 これだけの物件。

 モタモタしていたらすぐに売れてしまう。


 さて……次はお値段以上ネコリで家具を揃えて……ん?


 タマは一階のある部屋をウロウロしている。

 なにか気になることがあるのだろうか?


「……どうしました?」


「いやぁ……変だなぁと思いましてのぅ」


「なにが?」


 私からみたら何も変わったところはないが……。


「ほら。あそこにそこ。ほらあれも」


「……はぁ?」


 とても広いバスルームだ。


 浴槽も大きい。


 天井も高い。


 床には……あらら雑草やらがたくさん。


 ん? 浴槽もよくみれば化石のような糞が落ちている。


 そういうことか。


「まぁ長いこと廃墟だったわけですし。こんないい物件なわけだから少しの汚れはしかたありませんよ。気になるなら掃除を手伝いますよ」


「いや……そうでなく。あの壁の跡……エアコンがあったのかなぁ?ライトもかなり特殊な物だったようです。この浴槽も……地面に草が二種類。ははぁ」


「……この近くの温泉に行きましょう」


「……ほう。温泉があるのですか?」


……なんとか話をそらせた。


 今の感じはニャームズやニャンダイチ、そして我が息子コッコといるときによく感じる空気だ。


 頭のいい猫が頭のいいことを言い、頭のよくない私がそれを理解できず劣等感を感じる。


 危ない危ない。



……



「ふぅ」


「……いいですなぁ」


 マンホールほどの大きさの天然温泉に浸かる私たち。


 温泉も気持ちいいが空気がうまい。


 ああ……ニャームズが死んでからはじめて体と心がほぐれた気がする。


 忘れてたなぁ。


 この感じ。


 こういう気持ちの繰り返しで生き物は大切な人や動物の命を失った悲しみから少しずつ立ち直っていくのだろうなと思った。



「気持ちいいですが……ほてってきましたな……」


「でましょう」


 すっかりびしょ濡れになってホッソリした私たちは温泉から出た。


……見栄を張った。


 私はほーーんの少しポッチャリだ。


「ん? あの建物はなんです?」


 タマが肉きゅうを差した場所は……ああ。


「貝柱山動物園ですな」


「動物園ですか」


 タマは動物園に嫌悪感を感じないタイプのようだ。


 動物によっては人間が動物を檻に入れる動物園を嫌う者もいる。


「わりとアットホームな動物園です」


「ほーう?」


 動物好きな兄ちゃんおっちゃんたちが経営するこじんまりとした動物園だ。


 動物園か……知り合いもいるし、こんどいくかな?

 私はすっかり忘れていた遊び心も思い出しつつあった。


これも新しい友ができたおかげだな。






つづく。



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