タマーバケーション
略してタマバケ。
「……」
ボーッとしていた。
麦わら帽子をかぶり、サングラスをかけて地面にパラソルをたてて、ビニールプールにただプカプカ浮いている。
最高に贅沢な時間だ。
たまに猫がボーッとしていると人間が「猫には人に見えないなにかが見えてるのよ」とかいうことがあるが、そんなことはない。
ボーッとしているだけだ。
ふとした瞬間に猫スイッチが切れてボーッとしているだけ。
「……」
パシャっ!
パシャっ!
パシャっ!
私も猫スイッチが切れた。
無表情でひたすらに木に水をかけて遊んでいる。
この夏は暑かった。
そして疲れた。
「最後のプレイボール」事件を書き上げるのに夏を使いきってしまった。
よくない。
働きすぎだ。
だから私はこうして秘密の別荘で少し遅めのタマーバケーションをニャンジョイしているのだ。
決して新しく私の担当になった自分の娘ぐらいの年齢の猫に大人なのにすごく怒られて泣きながら家出してきたわけではない。
「大人なのに……すごく怒られたな」
そりゃあ一年以上休んだのは悪かったと思うがそんなに「トガシ」「トガシ」言うことないだろう。
誰だ? トガシって?
誰だか知らないが私はきっとそのトガシより仕事している。
ここにはソーラーパネルもタブネッコもスニャホもゲームもある。
食料の蓄えがなくなったら久しぶりにゴミ捨て場でも漁ろう。
うーむ、今は遠き野良猫時代を思い出す。
スニャホでネッコサーフィンをしていたらニャちゃんねるのまとめサイトにたどり着いた。
《悲報! ニャトソン先生今回も1ヶ月もたず休載www》
「……むぅ。なんだこの記事は?」
(やっぱりね……知ってた)
(ニャトソン仕事しろ)
(持った方じゃない?)
(今頃ゲームしてんだろな……)
(ニャトソンマジトガシ)
失敬な書き込みだ。
ニャームズの助手をこなし、作家もやり、レストランのオーナーまでやっている。
もうニャン金生活してもいい年なのに……むしろ仕事させ過ぎだろう。
もういい!
ゲーム……いや、読書でもしよう!
読むのは《シャーロック・ホームズVSアルセーヌ・ルパン》。
読みはじめて5分でソシャゲのゲリライベントが気になって仕方なくなったが我慢した。
「……ルパンかぁ」
ルパン……とは少し違うがあのオスは元気だろうか?
動物界のルパンを選べと言われたらあのオスを推す。
ダジャレじゃない。
……まっ、一年ぐらい休んだらあの事件について書くのも悪くない。
ああっ……肉きゅうが勝手にスニャホに……ゲームやりたい。
ピローン。
「ん?」
カインか?
《今からそっちにいきます》
新担当からだ……ホタテ貝が怒っているスタンプなんぞ使いおって! 既読スルーしてやろうか!?
私はホッキ貝のスタンプを送り返してやろうとしたところで気がついた。
「しまった!」
なんたる凡ミス! スニャホのグーフィーエスをつけっぱなしじゃないか! これでは居場所がまるわかりだ! は……はやく逃げないと!
「……これとこれとこれと」
唐草模様の風呂敷にゲームを詰めこんで縛り、それを背中に背負った。
うーん、どうみても泥棒猫!
「先生! ニャトソン先生!」
「チッ! もうきたのか!」
私は逃げた。
まるでルパンのように。
まだまだ私のタマーバケーションは終わらせないぞ!