タナカ
「……で、これがその資料なわけだが……」
ニャームズにマナブから預かった資料を渡した。
肉きゅうから肉きゅうへ。
なんで肉きゅうに紙が吸い付くのかは私たちにもわからない。
「……ふ~ん」
さて私からこの奇妙な出来事について説明しよう。
あるチューガクセーたちがなにやら重い空気漂う空き地で野球の練習をしていた。
空き地はかなり広く、いくつかのグループが存在した。
暴行をうけたのはその内の……「タナカ」グループだ。
タナカグループの野球の実力は他のグループの遥か先にいた。
地面が揺れるようなピッチャー「タナカ」の「プレイボール!」の叫びをきっかけに練習を開始する。
背の低い「トミー」意外は惚れ惚れするような動きを見せていたという。
タナカグループのメンバーは他のグループのメンバーが「……いいねぇ」「……いやぁ。よくないよぉ」とボソボソ呟きながら練習するなか、よく声を出し、よく動いた。
「……ははぁ。これはまた……」
「おっ? どこまで読んだ?」
「うむ。突然数人の男たちが現れてバットでタナカグループを暴行するところまでだ」
「奇妙だろう」
「奇妙だねぇ……。短いバットと長いバットを腰にぶら下げた男たちが皆短い方のバットでタナカグループを襲っている」
「えっ? そこ?」
私としては「他のグループとタナカグループのタナカだけ暴行を免れた」という所に注目してほしいのだが……。
「名前が曖昧な登場人物が二人いる」
「うむ」
タナカとトミーだ。
タナカは謎の男たちから「フガクセンセイ」と呼ばれトミーは「フガク」と呼ばれた。
私のなかでタナカは「タナカフガク(変な名前だ)」でトミーは「トミー・フガク」というハーフなんだろうと自己完結していた。
「タナカはチームメイトが暴行されているのをグッとこらえて見ていた」
「あと……」
当時も正義感の強い猫はいた。
暴行を止めようとしたがすぐに首の皮を掴まれてペイっとされたと記録されている。
彼らの名誉のために一応付け加えておく。
「夕日か……確かにドンコ辺りから見える夕日は綺麗だね」
そう。
タナカグループはどれだけ暴行されようが、最後はグラウンド整備をし、グラウンドの中心に座って並び夕日を眺めたという。
グラウンドの中心とは今のドンコ辺りだ。
殴られても夕日か……メンタルの強いチューガクセーたちだ。
「こんなこともあったのだろうね。噂には聞いていたが……」
ニャームズは意味深な事を呟き資料をまた読み返し始めた。
「おいおい。最後の方も読めよ」
一番なんとも言えないシーンだ。
それからしばらくの時はたち、その空き地での重い空気はなくなり皆それぞれレジャーやスポーツを楽しんでいた。
そして夕方になり人気もなくなってくるとタナカがフラリとやってきてあの場所に座り、夕日を見たという。
たった一人で。
空き地が整備されても公園になってもタナカは一人でここに来て夕日を眺めた。
「オレモイケバヨカッタナァ」
と呟きながら。
そしてタナカたちが野球をしていた空き地は駐車場になり、本屋になり、ドンコになった。
タナカは空き地が工事中になった時を境に姿を見せなくなった。
「ニャームズ。これは一体どういうことなんだろうね?」
「……」
まーたマグロブツブツと一人言をいっている。
こうなったら話しかけても無駄だ。
ブツブツが終わるとニャーボードを叩き、どこかのデータベースにアクセスしだした。
またハッキングかもしれない。
知らぬが仏。
私は携帯ゲーム機を取りだし「モンスターパンダー」略して「モンパン」をプレイしだした。
思えばここからゲームをちょくちょくしだしたような?
「ニャトソン」
「見ろニャームズ。お肉が上手に焼けたぞ」
「……モンパンはいいんだ。君にちょっと調べてほしいことがある」
「……私に?」
珍しいことだ。
彼はいつも自分の脚で調査をするのだが……。
私はクエストをこなしながら彼の話を聞いた。
「タナカは一人ぼっちじゃないかもしれないぜ?余計なお世話ができるかもしれない」
言うまでもなく私はまたチンチラカンプンだ。
つづく。




