猫パンチ!!
猫パンチ回
「イケ……パワー!!」
「ウガアアァ!!」
「すごい!」
「イケ君!! 爪攻撃に気を付けたまえ!!」
イケは虎の攻撃をサイドにかわし、首に腕を回して締め上げた。
「イケ負けないよ! 英雄になって国にかえるから!グウゥ!!」
怪力……イケが虎を垂直に持ち上げ、背中から落とすと虎はグッタリと動かなくなった。
「な……なんだあの技は!?」
「ブレーンバスターだニャトソン君。彼はやってくれたぜ! さすが【Hー1】のダークホースだ!!」
「ブレーンバスター? Hー1? わからないことばかりだ!」
「うん? 子供たちが逃げていくね。それでいい。さぁニャトソン。僕たちの弟の勝利を祝おうじゃないか」
「うぉっ!! うぉっ!! ……ウオオォ!!!!」
イケは両の拳で胸を叩きながら勝利の雄叫びをあげていた。
〓
「さて……どこから話したものかな?」
「もちろんはじめからだニャームズ」
「しゅっ!! しゅっ!!」
再び毛皮をまとったイケは少し離れた場所でシャドーボクシングに夢中になっていた。
「……イケは何者だ?」
「彼は最強を決める大会……【Hー1】に参加するためにとある国のジャングルからやって来た【イケ・グスタフ・オーブレイム】。彼が着ているのは彼のリングコスチュームさ」
「Hー1とは?」
「【HERONo.1】の略。なんでもアリの格闘大会さ。これに優勝したものは賞金と【英雄】の称号を得ることが出来る」
人間とは退屈な動物である。大会など催さなくとも生きること自体戦いだというのに。
「模様は白と黒と聞いて私はイケがホワイトタイガーだと思っていたよ……」
「ハッハッハ……君は色々と知らなすぎるね」
「ムッ……しかしホワイトタイガーとは大きいな……初めて見たよ」
「そりゃそうさ。日本に虎なんていないからね」
「……は?」
それはどういうことだ?
「今、この町の動物園にホワイトタイガーがいるらしい。しかしホワイトタイガーの公開は急遽中止になったようだがね。わかるかい?」
【ホワイトタイガーの脱走を隠していた動物園関係者逮捕】というニュースが流れてたのはその日の夜のことだった。
「ホワイトタイガーを探していたのは動物園の人間だったのさ。結果僕が先に見つけたがね」
いつか私が見た人間は動物園関係者だったのか。
「それで君はなぜニャーバンに変装して私に接触したのだ?」
「君は僕のいうことを聞かないからね。ホワイトタイガーの捜索がてら君を守るためにそうした。ニャーバン君に変装したのは君の顔見知りかつ彼はすぐにニャームレスを止めてこの町を出ていったから鉢合わせる危険がなかったからさ」
「……そうか」
私は恥ずかしくなった。計画性もなく忠告を一切聞かず暴走した私を彼は心配し、守ってくれていたのだ。
「イケはなぜこんな山奥へ……?」
「僕の調査の結果。彼は【必殺技】を身に付けるため山ごもりを……いけない!!」
「むむっ!?」
ホワイトタイガーは意識を取り戻したようだ。
フラフラと立ち上がり、こちらを睨み付けている。
「てめぇら……猫と人間の分際で虎様を舐めやがって! 頭を食いちぎってやる!!」
イケはまだ虎に気づいていない。
「ニャトソン君。ほうらちゃんと猫科の動物同士会話が出来るだろう?」
「そんなことをいってる場合か!?」
「死ねやこらあぁ!!」
「うわあぁぁ!!」
「あっ! 猫あぶない!」
虎がこちらに突進し、イケが虎に気づいた瞬間……私は信じられないものを見た。
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『二足歩行』のニャームズが走る!! ニャームズは虎のアゴの下に潜り込み、肉きゅうを突き上げた。
「ニャッパーカット!」
「が……」
糸の切れた操り人形のように倒れる虎……仁王立ちするニャームズ……私は夢でも見ていたのだろうか?
「少し騒がしいぜ? 君。猫紳士としては失格だな」
ニャームズは膝の汚れを払い、玉ねぎをくわえた。




