ミケ墓村。
「ぷふぅ……」
なんとも濃い2日間だった。
ドーサツの力によってロープウェイは修理され、私はやっとミケ墓村から脱出できる。
よく晴れた気持ちのいい朝だ。
「お疲れ様です。ニャトソン先生」
「ええ。そちらこそ」
修理完了と同時に現場検証と事情聴取のためミケ墓村にやってきた顔なじみのドーサツたちの何匹か私に挨拶をしてきたので返した。
……敬礼はやめてくれ。
「あんの~」
「はい?」
ダスキンとジュンイチロウがなぜか恐る恐る私に声をかけてきた。
大学生たちもテレビクルーもなぜか驚いた顔をしている。
「もしかしてあなたさんは『本物』の作家の……NWニャトソン先生ですか?」
「……いかにも私はNWニャトソンですが?」
そういったじゃないか……
私はまた怒鳴られるのかとビクビクしていた。
「こ……これは作家先生に大変なご無礼を!」
「すみません!すみません!許してください!」
「……いきなりどうしました!?」
昨日の巡査が頭を地面にこすりつけている。
やめてくれ!
「いえいえ職務でしょうからお気になさらず……うわっ!」
カメラマンに大量のフラッシュを焚かれた。
眩しい!
「北方ワンぞう賞受賞のミステリー作家がミケ墓村で呪いの恐怖から村猫たちを救う……これはスクープだ!」
「ああ!これはまいったぞ!」
この頃の私は自分が案外に有名なのを自覚していなかったのでなんの騒ぎかと驚いた。
「ニャトソン先生!私先生の本全部もってます!サインを!サインをください!」
「君!先生はプライベートなんだ!先生!速くロープウェイに!」
ドーサツたちが私を囲むように守ってくれた。
私は女の子が差し出した色紙を受け取った。
「えと……サインぐらいなら別にいいけど……私なんかのでよければ」
サインを書いて『仲良きことは美しきかな』と一言そえて肉きゅう形も押してあげた。
「キャーー!」
「お……おらにも!」
「私にもおねげーしますだ!」
「先生!何をしてるんです!?一匹に書いたらみんなに書かなくちゃいけなくなるでしょう!?少しはご自分の人気を考えてください!乗って!」
「ご……ごめんなさい!」
私はほとんど無理やりロープウェイに乗り込まされた。
別にみんなにサインを書いてもいいのだが……
「……やれやれ」
ロープウェイに乗りながら私はのんびりと景色を楽しんでいた。
疲れた。
なんだかゲッソリした気がする。
「……あ」
ヘネコプターに乗ったニャームズが私に肉きゅうを振って山の向こうに消えていった。
……粋な猫だ。
はて……私はなにしにここに来たのだっけ?
あっ!
家に帰り、ヘルスメーターに乗ると私は随分と痩せていた。
2016年。『ニャーランド誌』掲載。
『ミケ墓村』
完。
7月からアルファポリスミステリー大賞です。
三度目の正直狙い。
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