パオ
「……うわっ! 本当だ……なんですか? これ?」
私は表にでて猫極に家の屋根についた巨大なフックのようなものと地面についた四つの穴をみせた。
「これがまだらの紐の正体です」
「……だから何なんです!? これらは!?」
「ふむ……」
ニャームズが推理中に時折私に見せる呆れ顔の謎がとけた。
あの顔は『なぜこんなこともわからないのか?』という気持ちと『わからないなら黙ってきいていろ』という意味だったのだろう。
私はきわめて穏やかな表情を意識しつつ説明した。
「『まだらの紐』が『家を』持ち上げたのです。縦揺れの大地震の正体と大猿さんが殺されたトリックはこういうことです。大猿さんは床板のトリックで一階に落とされ……『家に潰されて死んだ』のです」
「……えぇーー!?」
「大猿さんは床にめり込んで死んでいたのではなく、下から盛り上がって死んでいたのですな」
「……なんて途方もない話だ!……ということは? まだらの紐の化け物はとんでもなく巨大な蛇なのですね!? 恐ろしい! 家ごと持ち上げてしまうとは! 先生?」
「……失礼」
私はまた『わかってないなぁ君は』という顔をしてしまっていたのだろう。
「猫極さん。注目してください。床板のトリックに家に取り付けられたフック。この家はまだらの紐にとって都合よく出来過ぎている。これがどういうことだかわかりますか?」
「……さっぱりわかりません」
とうとう考えるのをやめてしまった。
ニャームズは私がこういうとやはりあの呆れ顔をしていたなと思い出した。
「この四つの穴……これは足跡です」
「足跡!? こんな巨大な!?」
「そう。大雨が降っても消えないような巨大な足跡です。なにか気がつきませんか?」
「……」
猫極は辺りをキョロキョロみてハッとした。
どうやら気づいたようだ。
よろしい。
「……先生! 足跡だなんてありえませんよ! だって四つの穴はここにしかありません。足跡だったらもっとたくさん……歩いてきた先にないと説明がつかない!」
惜しい! 頭が少しかたい! こらニャトソン。
ここで私も自分で推理したのではなく、ニャームズに説明を聞いただけだと思い出し、少し自惚れた自分を恥じた。
「足跡がここにしかないなら……ここからでてきたってことですよ!……いきますよ! しっかり掴まって!」
私は草陰に隠れていたレバーを引いた。
地面がゴゴゴと音を立ててゆっくりと降下していく。
「……あわわ」
「……」
ここから先は私にとっても初めての場所だ。
ドスン……10メートルほど降下しただろうか?
私たちは薄暗い地下にたどり着いた。
「ほら、猫極さん。足跡が先まで続いている。奴はここからきたのですね」
「……先生! なんですか!? ここは!?」
「危険ではない場所だと保証しましょう。それじゃあ行きましょう」
「先生!」
無視して私は歩き出した。
なんだか私はどんどんニャームズに似てきた。
しばらく歩くと道が二つに分かれていた。
左のプレートには『zoo』。
右のプレートには『goal』と書かれている。
zooにいくのも悪くないがここはゴールといこう。
「……」
猫極はもう驚くのにも疲れたのか喋らなくなった。
いい子だ。
私たちの前に巨大な鉄の扉が立ちはだかった。
「……先生。行き止まりですか?」
「行き止まりならそれでもいいです。でもまぁ……声をかければ向こう側から招き入れてくれるでしょう。……いきますよ!」
私は大きな声で叫んだ。
「北方先生! 皆さん! ここを開けてください!」
「……えーー!?」
地響きならしながら巨大な扉が開く。
その先にいたのは……
『北方ワンぞう』
『大猿アリマサ』
『オリス川オリス』
『トリノナツオ』
『牛村キョウタロウ』
そして……
「……なんで!? みんな殺されたはずじゃ……? 他の先生も!」
北方ワンぞうが口を開いた。
「優勝おめでとう! ニャトソン先生! 猫極先生も惜しかった!」
「『優勝』ですか……悪趣味が過ぎますよワンぞう先生。猫極さん。あの方の紹介がまだでしたね。ご紹介しましょう!」
私は山のように大きな動物を肉きゅうで指した。
「『ミステリー界の巨匠』であり、今回の犯人を演じてくれた『まだらの紐』こと……『島田象司』先生です!」
「どうもパオ」
島田氏は『長い鼻』を軽く上げた。