第2の事件
「……まだらの紐ですか?」
「バカやないの?」
私は昨夜のまだらの紐について二匹に話した。
「じゃあ毒蛇が……ワンぞうさんを?」
「うん……あれは大蛇だったね」
「馬鹿らしい! 私も部屋に帰るわ! こんな死骸のある部屋にいられないわ」
「あっ!待って!オリスさん!」
これで死亡フラグが二本もたってしまった。
「……犯人は通り魔かもしれませんね」
「……!?」
猫極のその一言は私を大いに落ち着かせた。
そうだ。
通りすがりの犯行かもしれない。
それならば私もこの館にいる三匹を疑わずに済む。
しかし『いきなりそんなこと言い出すなんてこいつか犯人なんじゃないのか?』とか『あの二匹も怪しい。怯えすぎだ』などと邪推が頭に浮かぶ。
「さて……私たちはどうしましょう?」
「どうしますか……私はワンぞう氏の部屋にいってみようと思います。無礼ですが事態が事態ですから」
「なるほど!……さすがニャトソン先生。いや、ニャームズ先生だ。実は僕。ニャーロッキアンなんです」
「……そうですか。是非本人にそう伝えてください。きっと喜びます」
「……だから今伝えてます」
「……」
疲れる。
本当に疲れるこいつは。
ニャームズからの連絡は……まだない。
幸いにもワンぞう氏の部屋は鍵が開いていた。
まるでワンぞう氏の幽霊に招かれているかのように感じられ、ゾッとしたが、私たちは調査に乗り出した。
「……」
「……」
どれぐらい調査しただろうか? 私たちは気がついたことを報告しあった。
『床は一面フローリング』
『ベッドは床に固定されている』
私の部屋も猫極の部屋もそうだったのでこれはきっと全フロア共通なのだろう。
こんなことがわかったところでどうしようもないが。
「あの天井のシャンデリア……気になりませんか?」
「シャンデリア?」
中心の棒が釣り針のような形をしている。
変わった形だが……とくに気にすることではないだろう。
「それとこれ……」
ワンぞう氏のマホゴニーの机の上に置かれた原稿……『命を喰ふ家』というタイトルと『スイッチをさがそうと私は……』という書き出しだけ書かれている。
ワンぞう氏の新作だったのだろうか?
この続きは一生読めないのだから残念でならない。
「風が……益々強くなってきた……」
ガタガタと建物全体が揺れる。
「揺れるなぁ」
ガタガタ……グラグラ……
ん?
「違う! 風じゃない! 地震だ!」
大きい!
窓から見える景色がグワングワンと上下に激しく揺れる。
「うわーー!」
ズガーンという音が鳴り、それで地震が収まった。
嵐に地震……勘弁してくれ。
背筋がゾワワとしたぞ。
「……散々ですね……」
「はい……なんだ!?」
オリスの悲鳴が聞こえた。
「……行きましょう!」
「……はい!」
やれやれ……すっかり私はニャームズ役じゃないか。
「う……あ……」
言葉がうまく出てこない。
一階ではオリスが失神しており、オリスの部屋では……
大猿が死んでいた。
「なんだっていうのだ!?」
なぜ五階にいたはずの大猿が一階で……
『床にめり込んで死んでいる』
……のだ!?
続く