ワンターポール
ワンターポール・ワフビーアイ……犬のインターポールとFBI。
「実は私こういうものでして……」
ネコンボは走りながらケーブに名刺を渡した。
「……『ワフビーアイ』?」
「ええ。別名『ワンターポール』……つきましたよ」
「これがか……?」
林の中に隠された歪な車両。
ナンバープレートが血で汚れていた。
「私もまだ調査の途中なのですが……ニャン識が言うには例の事故車両で間違いないと……ちょっとこれを見てください」
「ニャン識……ん?」
ネコンボに色々と説明された。
車内に複数つけられているミラーに、見えぬよう隠されたナンバープレート。
そして……犬の物か猫の物かわからない動物の毛だ。
「あなたはなぜこの事件が動物のせいだと犬猫の間で噂になっているかご存知ですか?」
「……むろんだ」
犬も猫も事故の目撃者がいた。
そして全員が口をそろえてこう言ったのだ。
『車には誰も乗っていなかった……と』
これで犯人は動物なのではと噂がたち始めた。
「ケーブさん……ちょっと運転席に乗ってみてくださいよ」
「どれ……うむむ!」
「気づきましたか?」
「……ああ」
複数のミラーの謎が解けた。
ハンドルの少し上につけられたミラーから前が見える。
「これなら動物が三匹入れば車を運転できるな……ハンドル役とアクセル役とブレーキ役……」
「ですね。この動物の毛は私がニャン識にまわしておきましょう」
「ワフビーアイといいワンターポールといいニャン識といい……一体なんなんだ?」
「あなたには必ずご説明しますよ。うちのカミュさんがね? 言ってましたよ『焦るんじゃない。決めつけるんじゃない』ってね」
「げっ!?」
「どうしました?」
「逃げろ! ネコンボ!」
帰り道。
二匹は偶然にも悪目に出くわしてしまった。
悪目は今日は特別に機嫌が悪いらしく目がギラギラとしていた。
「彼は!?」
「鈴ニャンの悪目だ! 動物を虐待することでストレスを晴らす最低な奴だ! 走れ! 走れ!」
「まて! 猫! 犬! 毛を刈らせろ!」
「嘘だろ!? バリカンを持ってやがる!」
「まいったなぁ!」
二匹は悪目を完全にまくまで全力で走った。
ケーブはその後、ニャン識に急ぐというネコンボと別れて小さな脳みそをフル回転させていた。
(動物の毛が落ちていたという事は犯人はやはり動物……)
「これはマズい」
犬にしろ猫にしろこの事が洩れたら『犬猫大戦争(キャッツ&ドッグス)』は避けられない。
ここで悪目のことを思い出し、少しブルッと震えた。
(先ほどは……危なかった。しかし俺が犠牲になったほうがよかったのかもな。もしかしたら奴は今頃、新しいターゲットを……)
ここでケーブの脳みそに電流が走った。
「待てよ!?」
体の小さくて……猫や犬に悪意を持った人間がいればそいつが犯人ということもありえるのではないだろうかとケーブは考えた。
「……って! まさにそれは悪目そのものじゃないか!」
あの男が屈んで運転したなら正面からでは運転席に誰も乗っていないかのように見えるのではないか?
これをマットドックスとクレイジーキャッツに報告すれば最悪の事態は避けられるかもしれない。
「まずはどちらかのたまり場に……いや、悪目が先か!?」
(今頃奴は誰かをひき殺そうとしているかもしれない……)
「ケーブ!」
「わっ! びっくりした!」
マットドックスのメンバーだ。
近づかれても気がつかないとは俺はずいぶん参ってるとケーブは反省した。
「どうした?」
「どうしたじゃないですよ! 自然公園で……自然公園で今にも『犬猫大戦争』が始まりそうなんです!」
「なんだと!?」
(遅かったか……まだ間に合う!)
「あっ!……ケーブ!」
ケーブは自然公園に走った。
この戦争を止められるのは自分しかいない……なぜかそう確信していた。