イケ
この日の夜もニャームズとは別行動である。
今思えばニャームズはニャー探偵として忙しかったのだと思う。
「さて……今日は銀だら山へと向かうとしよう」
【銀だら山】は自然の残るなかなか大きな山で、私は野性を失わぬようにこの山でトレーニングをよくしていた。
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「む……?」
銀だら山の入口、私はいつもと違う不穏な空気を感じていた。
「なんだろう? 鳥たちが……いや、山全体が怯えているような?」
人間が失ってしまった野性の危機察知能力……私は【絶対的な強者】がこの山にいることを確信した。
「き……今日は帰ろうかな? ……肌寒いし」
誤解しないでほしい。強者は強者を知る……私は無駄な争いを好まない。
私とこの突然の来訪者が一戦交えたらお互いただでは済まない。
決して臆したわけではないのだ。
「誰だか知らぬが命拾いしたな……ぎにゃ! にゃにゃ! にゃにゃ!?」
「うがぁぁ!!」
突然草むらから現れた大きな動物が私を懐に抱いた!
「にゃーー!!!!」
「うがーー!!!!」
「にゃーー!!!!!! にゃーー!!!! にゃーー!!!!!!」
声が渇れるほど叫んだ後、私は彼が危害を加える気がない事を悟った。
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それは白い毛皮の男だった。猫耳があることから猫科の動物だということはわかるのだが言葉が通じない。
「まいったな」
「ウガガ……」
舌っ足らずなうなり声……きっと体は大きいが年齢は私より幼いのであろう。
「グウゥ……」
「ふむ……名前ぐらいわからないと不便で仕方ないな」
「イケ……イケ……」
「【イケ】?もしかしてそれは君の名前かい?」
「ここはイケの縄張り……でもお前はよさげなやつだからきてもいい。小さくてかわいいからだ。また遊びにこい。イケはまっているぞ……」
「あっ!待ちなさい!」
イケは素早い動きであっという間に山奥へと消えた。
「イケか……」
これが私とイケの出会いである。
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「ニャームズさん。どう思われますか?」
「ははぁ……なるほどね」
動物版の警察……【ドーサツ】のケーブと玉ねぎをくわえたニャームズが公園の土管の中で会議をしていた。
「難しい問題なんですニャームズさん。生きるために獲物を獲ることを否定することは当然できませんが……なにしろ量が多い。このままではこの辺りの生態系が乱れます」
「早急な解決が求められますね。それで彼氏の住みかの目安はついているので?」
「はい。銀だら町の銀だら山です。奴は夜になると狩りに出るようです」
「銀だら山の付近に人気はありませんね?」
「はい。しかし人里に下りてくるのは時間の問題でしょう。ニャームズさん。奴が何者だか検討がつきますか?」
「目撃証言から推理するに……【虎】でしょうな」
「虎?」
「えぇ。猫科の動物です。大きさは我々とは比べものになりませんがね。しかも彼氏は珍しい【ホワイトタイガー】だ」
「【ホワイトタイガー】?……そいつはいったい……?」