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ニャーロック・ニャームズのニャー冒険。  作者: NWニャトソン
薄濃の毒。
127/203

中島と糊助

「ねえさーん。こんなものどうするの? 若芽も心配してるよ?」  


「……」


 笹絵は『中島大学』の研究所に勤める弟のカズオから『約40年前』の青酸カリを受け取った。


「イソヤー! 研究……いや、野球やろうぜー!」


「いまいくよー! じゃあ姉さん」


「ありがとうカズオ……」


 笹絵はずっと考えていた。

『自分の人生はこんなはずじゃなかった』と。


 寿司屋なんかじゃなくもっと華やかな男と結婚したかった。

 どこで歯車が狂ったか……

そう鱒男だ。

 鱒男が穴子を殺したから……。

 穴子が生きていればプロレスMVPの妻。

 セレブとは言えずとも芸能界となにかしらの接点が持てたはずだ。

 笹絵は見栄の塊のような女だった。

 男はアクセサリー。

 『ブランド物』でなくてはダメ。

 有名な男を夫に持ち、周りにうらやまれる様な華やかな世界で生きたかった。


 しかし気づけば三十代……

妥協に妥協して鱒男と結婚した。


 そして地味な寿司屋の女将として生きていく内に殺意は薄れていった。

 仕事にやりがいを感じていた、鱒男を愛し始めていた。


 これは笹絵にとって博打だった。


 鱒男がもしこれを食べて死ななかったら……私は鱒男を許そうと。








「冗談じゃありませんよ……もしバレたら……」


「すまないね」


 鱒男は調理人の糊助からフグの卵巣の糖漬けをうけとった。

 二年半寝かせた……


「大丈夫。うちの店で寝かせなおすから……」


 『笹絵さんを頼んだ』穴子の遺言を守り鱒男はプロレスを見切り、実家の寿司屋を継ぎ笹絵と結婚した。

 結婚するとミーハーで虚栄心の強い笹絵に嫌気がさした。

 時がたつにつれて殺意がわいた。


 あの女は穴子が首を痛めていたのを知っていたに違いない。

 知った上で穴子を自分のブランド物にするために無理やり穴子をリングに立たせたのだ。

 許せない。


 しかし『時』というのは恐ろしい。

 長くいるうちに情がわいてきた。

 なれない仕事をこなす姿に愛しさすら覚えた。


 これは鱒男にとっての博打だった。

 もし笹絵がこれを食べて死ななかったら……僕は彼女を許そう。








「ちょ……ちょっと待てニャームズ!」


 私は身を乗り出した。

 ニャームズの仮説はあまりに過激すぎる。


「君の推理が当たっているなら二人は毒を食べさせあったことになる! あの夜二人はピンピンしていたぞ!」


「だから博打だったのさ」


「博打もなにも……青酸カリもふぐ毒のテトロドキシンも死に至る恐ろしい毒なのだろう?」


「そりゃ死ぬね。食べたら」


 ほらやっぱり間違いだ。

 ニャームズでも間違えることはある。


「しかし人の毒も他の毒も時間が経つと抜けるのさ。薄くて濃い濃くて薄い……薄濃の毒だね」


「回りくどい……ぞニャーム……」


 私がテーブルを叩こうとするとニャームズはナプキンで口を拭いて呟いた。


「青酸カリの毒は50年で。フグの毒は3年で毒性がなくなるのさ」


「……え?」



「君の奥さんの『毒』もそろそろ抜けてきたんじゃないのかい? 怒りもまた薄濃の毒だ。時がそれを消してくれる」






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