チャーン!
ネコネコニャンニャン……猫のニコニコニヤニヤ。
ねこねこにー。
「その後、大学を卒業した鱒男と穴子は……多分『役者』になった」
「役者?」
「役者と言ってもサーカスのね。断片的にしか聞こえなかったが、おそらくそうだろう」
「虎をなだめるのは大変だった」
「綱渡りはヒヤヒヤものだった」
「穴子のバク転やバク宙は芸術的だった」
「虎が暴れ出したときは慌てたね。脚本になかったもの」
「……と言っているのが聞こえたな。なっ? サーカス団員だろう?」
「話だけきくとそうだね。その頃、笹絵は?」
「うーん……なにやら色々言っていたが……何年かして舞台で鱒男と穴子を見て再開したとかなんとか……」
「サーカス公演中に憧れのマドンナと再会か。驚いて綱渡りを失敗したら大変だ」
おや? と思った。
ニャームズは何やらネコネコニャンニャンしている。
この顔は私が何か勘違いをしているときに私を小馬鹿にする顔だ。
……腹の立つ顔だ。
よーし。
この顔を驚きの表情に変えてやろうじゃないか。
「そして……ある大事件が起きる」
「吹田くぅん。やるんだぁ! ショットガンをうてぇ! このままじゃステージが台無しさぁ。観客がしらけちゃうよぉ! 僕はMVPにならないといけないんだよぉ!」
「くそっ! どうなってもしらないよぅ!」
「ある日、大暴れするトラを鱒男はショットガンで撃った」
「……随分話が飛躍するね」
「そして……ショットガンの弾はトラではなく穴子に当たり……穴子は死んだ」
「死んだ!?」
……してやったり! ニャームズは目を大きく開き、口を歪めた。
たまには私が彼を驚かせるのも悪くない。
「……だけどまあ。このあたりで鱒男は大分酔っていたからホラ話だろう。観客の前でトラでなく人を撃ち殺したなら大事件だ。それに本当の話なら今頃、鱒男は刑務所だしね」
「ふむ……ホラだとも言いきれないよ?」
「おいおい。君まで酔っているのか?」
なにを言っているのだこのオスは?
「ニャームズ。ならば君はこの話が真実であると?」
「考えられる」
「バカな!」
意外と子供っぽいな。
私に驚かされたのが癪で少し混乱しているのだろう。
要するに見栄っ張りなのだ。
「トラではなく人を撃ち殺しても罪にならぬこともあるよ」
「少しは私もわかる。正当防衛? それとも虎と人間を間違えた? そんなバカがいるわけないだろう?」
「ニャトソン。君は『銀だら町の英雄』事件でトラと人間を間違えたことを忘れてはいけないよ?」
「……」
そういえばそんなこともあったな……
元気かなぁ? イケは……
「しかし人間がトラと人間を間違えるか?」
「チッチッチッ! ニャトソン。鱒男は間違えてないんだよ。『トラが穴子』だったんだよ!」
「トラが穴子ぉ?」
トラが穴子……トラが穴子……そうか!
「穴子はトラの着ぐるみを着ていた! そうだな!?」
「違うよ」
「ですよねー」
それじゃあ鱒男は穴子がトラだと知った上でショットガンを撃ったことになる。
「やはりホラ話だ」
「いやいやいや……面白くなってきたね!」
ニャームズは肉きゅうを重ねてモミモミし出した。
ワクワクしてきたときの彼の癖だ。
「おいおいニャームズくぅん。まさか鱒男が穴子を撃ち殺した話を信じるんじゃなーかろーうねぇ?」
「ふざけてないで続けたまえ」
「……」
いくらが食べたい。
たいこの音を聞きながら。
ちゃーんと椅子に座って。