マスオズシのバフンウニ
江ネッ子……猫の江戸っ子。テニャンメェッ!
ベチン!
「あいよっ!」
プニュン
「ヘイッ!」
私たちが食べたいネタを指差すようにガラスケースを肉きゅうで叩くと職人が寿司を握ってくれた。
ニャームズはベチン! と景気のいい音をたてるが私はプニュンと情けない音をだす。
彼のように格好良く注文できるようになりたいものだ。
「ヘイッ! シンコおまちっ! こちら……ウニ!」
寿司といっても正確には具だけだ。
酢飯は食べられニャい。
私が大いに気に入ったウニはキュウリの薄切りの上にチョコンと乗っている。
ベチン!
ニャームズがまたケースを叩く。
「……えっ!? こいつかい? まいったなぁ……めったに穫れない特別な一品なんだがなぁ……あんた目が高いな。江ネッ子だねぇ! 負けたよ!」
うーん……粋だねぇ。
ニャームズは魚にも詳しいらしい。
「私も早く君のような江ネッ子になりたいもんだ」
プニュン。
私はウニを頼んだ。
「……じゃあウニ以外も食べたまえ」
「ウニ!」
私はこの日、13連続でウニを注文し平らげ満足した。
ニャームズは肩に下げていたポーチから『NECOCA』を取り出して会計を済ました。
『NECOCA』はこの町でしか使えないカードで、すて猫を助けたり、猫に優しくするとポイントが貯まり、そのポイントで猫の餌や玩具など、『猫のためのもの』を買うことができるカードなのだ。
「しかしまいったなぁ……猫のためのカードを猫が使ってるんだから文句も言えないや……」
寿司の店『鱒男寿司』の店主『吹田鱒男』は苦い顔をした。
まあ店的には赤字だろうし仕方がない。
「いいじゃないの。こんな可愛い猫ちゃんが来てくれるんだから」
鱒男の妻『笹絵』が私を撫でた。
「僕も猫は好きだしな……ヘイッ! お持ち帰りおまちっ!」
ナタリーの機嫌をとるために土産まで貰った。
小さなタッパーにウニをギチギチに詰めてもらった。
「……しかし何度も言われていることだろうがよく昔の人間はウニなんて食べようと思ったんだろうな? とても食べ物には見えないのに」
だがその先人たちのおかげで私たちはこんなうまいウニを食べられる……感謝だ。
「なぜ食べたと思う? ニャトソン?」
「君は知っているのか!?」
「ああ」
本当にこのオスの知識は底がないな。
「なぜだ?」
「……お腹が減っていたのさ」
「……」
ジョークのセンスまであるのか……
「次はタラオ食べよう。フネモリでね。イササカ君はタイコ腹だが仕方がない。僕はナカジマと野球をして帰るよ」
これもジョークらしいが私にはさっぱりわからなかった。
「ニャレレー? おとさんからまた女の……今度は女の人の匂いがしましー」
「コッコ!」
「あなたって……あなたって猫は!」
家に帰るなりコッコがそんなことを言うもんだからまたややこしいことになった。
「待て! ナタリー! 誤解だ! ほら! 寿司だよ! 君のために持ってきたんだ!」
「……私のため?」
「そうさ! 私の気持ちだよ!」
「ふん……」
なんとか落ち着いてくれたようだ。
しかし子供を産むと本当にメスは強くなる。
とてもかなわない。
ナタリーはタッパーのフタを口で開けた。
あの美味いウニを食べれば機嫌もなおるだろ……
「なによ! これ!」
……う。あれ?
「ニャレレー? なんでしか? これはー? まるで馬の糞でしー! これがおとさんの答えでしか?」
「?」
なんだ!? なぜ怒る? 馬の糞……? ああ……ウニを初めて見るのか。
確かに食べ物には見えないな。
「これが……あなたの気持ち? 馬の糞みたいに私を思ってるっての!?」
「違う! 違う! 違う! それは食べ物だ!『バフンウニ』という……」
……しまった。
「やっぱり馬糞じゃない! 帰れ!」
「ひゃあ!」
私は二本足でピョンピョン跳び、二本足で頭を押さえながら慌てて逃げた。
なぜこうなるのだ?
あの名探偵コニャンめー!