ビニル
「さて……それでは私は散歩にいってくるよ」
「うん。雨上がりだから足下には気を付けたまえ」
この日、ニャームズは客人が来るとの事でフジンには内緒の夜の散歩には出かけなかった。
私はというと多少猫見知りするところがあるので来客中は席を外すことにした。
〓
「にぁ♪にぁ〜〜♪」
雨上がりの町は空気が清らかで大変心地がよく、私は思わず鼻歌を口ずさんでいた。
「おっ? ニャトソンさん。今日は一人かい?」
「えぇ。彼は客猫と会う約束がありましてね」
この頃になると私も鰹が丘の猫たちと顔見知りになっていた。
彼の名は【ビニル】。小さなビニール袋を頭に被った野良猫だ。
彼は野良猫集団【ニャームレス】のリーダーでもあった。
「ビニルさん。最近のニャームレス事情はどうですか?」
「どうもこうもないねぇ。最近の流れ猫はマニャーを知らねぇ。ここに住み着いた流れ猫の中ではニャトソンさんが一番マニャーがいいね」
「それは光栄ですね」
誉められて悪い気はしない。
「それに比べてこの【ニャーバン】は……」
「おや? どなたですかな?」
ビニル氏の背後には赤いハンカチをターバンのように巻いた細身の猫がいた。
「おいニャーバン。ニャトソンさんにご挨拶なさい!」
「めんどくさいな……ニャす……」
「にゃ……ニャす? それはなんだい?」
若者たちに流行の挨拶だろうか?
「バカ野郎! お前は挨拶もろくに出来ないのか!?」
「怒鳴らないでくださいよ。挨拶なんか出来て野良猫になんか役に立つんすか? どーにも考え方が古いんすよね……」
「にゃ!?」
なるほど問題のありそうな猫である。
「年上に向かってなんだ!?この……ゆとりキャッツめ!!」
「たかが数ヵ月はやく生まれただけで偉そうにすんな!! この……老害キャッツ!!」
……巻き込まれてはたまらない。
「ビニルさん……私はこれで……」
「にゃー!! ギニャラー!!」
「にゃ!? にゃにゃにゃ!! シャー!!」
すでに私などいないかのように二匹は毛を逆立て罵りあう……
この段階で私はニャーバンはすぐに群れから抜け出すと思っていた。
野良猫にも礼節を重んじる気持ちは必要だし、守らなくてはいけないルールだってあるのだ。
続く。