ニャ・サール高校
ニャ・サール高校……『猫の進学校』代表的な卒業生は『ニャサール石井』
「答え合わせといこう」
マイクロネコは僕を公園の水道でよく洗ったあとそう呟いた。
「暗黒の家の?」
水に濡れてすっかりほっそりした僕は訊ねた。
「そうさ。気づいたかニャーロック? 『溶けた死体』の一人はアパートによく来るアクセサリーの男だったことに」
「えっ!?……あっ、そういえば……」
思い当たるふしがある。
あの部屋の机の上に翡翠の指輪が乗っていたような……
そうか。
「不倫の恋のいく末は案外にこんなもんだ」
ん? 不倫の恋?
「ちょっとまてよ。不倫の恋とはどういうことだ?」
「おいおいニャーロック! まだ気がついていなかったのか!? やはりお前はニャーバード大学へ行くべきだ!」
「話を逸らすな! 最初から説明しろよ!」
もうプライドもへったくれもない。
とにかく全てを知りたかったのだ。
「ニャーバード大学へいけ。約束したら教えよう。お前がわざと劣等生のフリをしているのに私が気がつかないと思ったか?」
「うっ……」
バレていたか……ニャンキーなのに優等生……それを恥だと思ったヤングキャットの僕は仲間に合わせてわざとビリニャルを演じていた。
「今からでも遅くはない。ニャ・サール高校に編入して大学へいけ」
ニャ・サール高校はこの辺では一番の進学校だ。
マイクロネコの目は本気だ。
仕方がない。
「わかった……わかったよ。だから教えてくれ」
「……よし。どこから知りたい?」
「不倫の恋とは?」
「簡単なことさ! 指輪の男は普段はトロトロと動くくせにアパートにやって来るときは早歩き。その時だけ彼は翡翠の指輪を外している……翡翠の指輪は彼のどの指にはめられていたか覚えているか?」
「……いや、さっぱり」
そんな所までマイクロネコは見ているのか。
そんなことはそもそも知らない。
「本当に仕方がないな! 左手の薬指だ! 彼は薬指の指輪を外し、一目を避けるようにコソコソとアパートにやってきていた……この事から婚約者、もしくは妻のいる彼がアパートにいる不倫相手に会いに来ていたことは明白だ!」
「へー」
本当はこの頃『薬指の指輪は婚約の証』などというのは知らなかったが、これ以上バカにされたくないので黙っていた。
「一緒に死んでいたのは……不倫相手の女性だろな。心中だな。もっと方法もあったろうに……」
「はー……」
森の奥のロッジで二人は自殺したということか。
「しかしお前は危なかったぞニャーロック。ガブリエルをたまたま目にして私が後を付けてきたからよかったものの……」
「なあマイクロネコ。ガブリエルはそもそも何者なんだ?」
「彼か? 彼は天使……いや、濁すのはやめよう。彼はね……『清掃業者』だ。『清掃業』といっても特殊な『悲惨な殺害、自殺現場の清掃』を得意とする『便利屋』に近いけどね」
「『現場の清掃』!?」
彼の体から発せられる得体の知れない異臭は『死の匂い』だったのか!
「彼は猫の死骸だろうが、人の死体だろうが分け隔てなく愛を持って接する。丁寧に丁寧に部屋を清める……彼を天使と言わず誰を天使と呼ぶのだろうか?」