暗黒の家の話
『暗黒の家』とは『この世とあの世の間』ではないか?
とケントは言った。、
「まず『宙に浮く首』の話をしよう。これはとある猫…Aとしようか? こいつがある家に迷い込んだとこから始まる」
「ふむ」
「その家はおかしな家で、広いのに極端に物が少なく、Aはなにやら異臭と異音のする部屋にたどり着いた……そこで彼が何をみたと思う?」
「だから宙に浮く首だろう?」
「そうさ。月明かりに照らされた4つの首だ」
「むむっ!」
ますます胡散臭くなってきた。
宙に浮く4つの首? これは作り話にしても盛り過ぎだろうと思った。
「Aはたまげて外にでた。家の入り口には死臭ただよう上下つなぎを着た男が立っていた。Aは男は死神だと思ったそうだ。『このままでは自分も連れて行かれる!』Aは命からがら逃げ切った」
「ん? 上下つなぎ……?」
ガブリエルのことが頭に浮かんだが話を最後まで聞こう。
「Aは次の日仲間達と暗黒の家にいった……首のあった部屋にはなにもなかったそうだ……どうだ? 恐ろしい話だろ?」
「……まあね」
事実ならそれは恐ろしいが所詮は作り話。
僕はその後もケントの話をうんうんと聞いた。
「次は『真っ黒な人間』の話だ。主人公はB。とある家に迷い込み、異音と異臭のする部屋にたどり着くまではAと同じだ」
「ほー?」
創作の創作ということか?
「それでそこにはなにがあった?」
「……月明かりに照らされた影のように真っ黒な人間……Bは恐る恐る黒い人間に触れると二チャリとした感触にゾッとしたそうだ。Bは逃げた。そして死神……つなぎの男とすれ違った」
「またつなぎの男かい?」
「そうさ。死神さ。Bは走りながらも暗黒の家をみた! 黒い影がバンバンとBを追いかけようとするように窓を叩いていた。なんとか逃げ切ったBもまた次の日暗黒の家にいくと……」
「部屋にはなにもなかった?」
「その通り!」
「……」
創作とわかっていてもなぜか惹かれる話だと思った。
気づけば僕も猫背の辺りがなにやらゾワゾワとしてきた。
「最後は『動き回る心臓』の話だ。主人公はC。部屋に入るとこまで省くぜ?」
「うん」
「Cが部屋に入ると……椅子に座る老婆がいた……彼女は首から血をダラダラと流し、ピクリとも動かない。死んでいたんだ。そこでCはみた」
「動き回る心臓?」
「ああ……ドクドクと脈打ちながら地面を心臓が動き回っていたのさ……Cは死神に会い、以下略さ」
「……」
この世とあの世の境目『暗黒の家か……』と僕が暗黒の家について思いを巡らせているとケントが僕の頭をパンクさせるようなことを言った。
「話にはオチがつきもんだ。暗黒の家を見てしまったA、B、Cは……『全員身体が腐って死んでしまった』らしいぜ」
「はぁ!?」
一瞬でも事実かもしれないと思った僕がバカだった。
最後のオチはいらないだろう。
これによって全てが作り話だとネタばらししているようなものだ。
「『暗黒の家』……お前みたいな好奇心の強い猫が見つけやすいらしいぜ? いいか? 暗黒の家にたどり着いても決して中には入るなよ?」
「ご忠告ありがとよ」
この数日後、僕は暗黒の家に迷い込んでしまうことになるとは夢にも思わなかった。




