『あれ』
「ここにもあるな……」
ニャンキチの散歩コースを辿っていくと何度も雨の日に置かれた『何か』の跡が遺されていた。
「それがどうしました? なんて事はない偶然でしょう?」
ショカツはそう言うがニャンダイチは何やらスッキリしない……不思議な感覚に襲われた。
(何かが掴めそうなとき……いつもこの感覚に襲われる……これは?)
「ショカツ。もう一度ニャンキチさんの散歩コースを見て回りますよ。先ほどの家を中心的にね」
「はい」
散々歩き回ったのにショカツはいやな顔一つしない。
完全にニャンダイチの犬だった。
私は薄暗い山道をネコネコアザラシ教の信者とケーブと共に歩いていた。
門前払いを私にくらわしたくせにホワイトは私に会いたいという。
多少の怒りは覚えたが、好奇心がこれに勝った。
ネコネコアザラシ教教祖ホワイト……いったいどんな猫だというのだろうか?
左右一列に並んだ信者猫たちが私たちを睨む……彼らにとってホワイトを疑う我々は悪しく汚れた猫なのだろう。
「ここでお待ちください」
社のある広場にでると案内役の猫がそう言った。
「お呼びしましょう……ネコネコアザラシ! ネコネコアザラシ! ホワイト様の……おなーりー!」
社の扉が開きなんとも野暮ったい目をした白いローブを着た白猫が現れた。
彼がホワイトか……教祖というより薄汚れたニャームレスに近い見た目だ。
神々しい感じはまるでしないが信者たちはみな、肉きゅうを合わせてホワイトを拝む。
「あなたたちが愚か者の猫?」
「はい?」
ホワイトは挨拶もねぎらいの言葉もなくいきなりそんな言葉を投げかけた。
「ニャトソン……気に入らないね。最近調子にのってるだろ?」
なんだ? なんなのだこの無礼な猫は?
「有名なのは、尊敬されるのは私だけでいい。それではこの世からご退場いただこう。向こうで魂を浄化されて生き返ったら信者にしてあげましょう」
「あの……ホワイトさん?」
「今日はあなたに死の宣告をしてさしあげようと思いまして……」
信者たちがざわついた。
「ふざけるなホワイト! 殺猫予告など……」
これにはケーブも噛みつこうとしたがホワイトは続けた。
「ネコネコアザラシ……ネコネコアザラシ……この恨みはらさずおくべきか!」
……
こうして私はこの物語の始まり『教祖様のご指名』にあるとおり死の宣告をされた。
ホワイトは何もない空間に星を作り出し、それを握り潰して私の寿命はあと12時間だと予言したのだ。
「そうか……」
ニャンダイチはゴミ箱から老婦人が棄てた『ある物』をみて何度もそうつぶやいた。
「猫の行動とはこのように操ることができるのか……そんなバカな……ケーブ。ニャンキチさんは人間が大変好きだった。そうですね?」
「はい」
「そうか、だからか……ゆえに彼は『猫が嫌いな人間』についても詳しかったんだ……」
「あの……ニャンダイチさん? それがどうしました? そんなものはどこにだってある……」
ショカツがそういうとニャンダイチは『それ』をショカツに投げつけた。
「『そんなもの』? とんでもない! こいつがニャンキチさんを落とし穴に導いたんだ! 重要証拠だ! ショカツ! 今すぐそれを置いた猫を探すんだ!」
「恐れながらニャンダイチさん……ニャンキチさんか死んだ日にはこの辺りには猫っこ一匹いなかったと……」
「あーもうっ!」
ニャンダイチは頭をワシャワシャとかき回した。
ノミがピョンピョンと毛から飛び出す。
「うわっ!」
「そうじゃない! 前日だ! 死亡前日にこの辺りに怪しい猫はいなかったかと聞き込みするんだ! みつかるだろよ! そして予言する! その怪しい猫はネコネコアザラシ教の信者だ!」
「彼は文章を生業としているくせに説明が下手だ。この説明じゃ事件の内容が頭に入ってこない」
(しかし大猫日本史……それにホワイト、グレイ、あれは問題だ。この話が東京の話なはずがない)
僕、ニャーロックニャームズは友人ニャトソンから受け取ったFAXを片手にフィンランドの大きな図書館にきていた。
ここなら『あの本』もあるはずだ。
「おっ? あるじゃないか。さすが○○図書館」
僕は『津軽政たか』の『何羨録』を手にとってサラリと読んだ。




