俺、バイト始めました。
拝啓お母様
元気にいしてますか?父とはまだラブラブですか?子離れできていますか?フリルのエプロンをまだ着ていますか?青春はもう過ぎていると自覚していますか?セーラー服をちょくちょく着ていませんか?
取り敢えず俺は元気にいています。
就職先とゆうかアルバイト先も見つかりました。ついでに住み込みなので家賃がかさむことが無いです
周りの人も優しく、特に料理長のアルバさんは優しいです。綺麗です。惚れていま...話が脱線しました。
俺はこの世界で元気にやっているので気にしないでください。仕送りしてください。きついです。
ちなみに、俺は最近小さなドラゴンなら倒せる力を身につけました。※自慢です。キリッ
まぁ、そんなこんなで楽しくやってるんで、もう二度と号泣しながら俺の名前を携帯越しに叫ばないで
下さい。
Ps. 再来月に一時帰還します。部屋を掃除しておいてください。
住所 ファルファ丘26区1610番地 アルンギルドアパート 201号室 佐藤古歌
※生物は01号室にしてください。
佐藤 古歌
「パパ、ちょっと見て!こーくんってば楽しくやってるみたいよ!再来月に帰ってくるって!」
「なんだい?ママ。こーたが再来月に帰ってくるって?そりゃあ楽しみだな。」
「そうねぇ、ドラゴンも狩れるようになったんだって!立派ねぇ」
「そうだねぇ」
*
俺は先月異世界に飛んだ。
いや、別に死んだりとか召喚されたりとか、偶然異世界の扉を見つけたとかじゃなくって、
アルバイト先が異世界の一ギルドだったのだ。
最近はチート系異世界トリップが流行っているようなのだが、残念ながら俺はそんなロマンチックで
ワクテカ満載なひゃっほいで異世界に飛んだわけでは無い。誠に残念だ。
俺は働くために異世界にやってきた。
あ、魔王倒したり、パーティー作ったり魔法覚えたりチートしたりドラゴン倒したりするのは俺の
仕事ではない。
そう、俺の仕事は.....
「『 雑用 』 だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「こー君、うるさいよ黙ってて」
「はい」
ちなみに仕事内容は、ギルド受付・ギルド掃除・救護・治療・料理・装備品整理・薬品整理・クエスト受付・クエスト注文先探し・ギルド隊員及びハンターの宴会準備etc...
まぁ、ざっと言えば『雑用』だね。
現実は甘くないのだ。チートやら、へっぽこ勇者→か、ら、の、→魔王倒し最強勇者(キリッ
とか、不思議な力を持つ、黒髪の少年現る!とかではない。断じてないのだ。
残念ながら俺は平均よりちょっと器用な家事力を持つだけ、黒髪だがそこらへんを探せば30人はいる。
不思議な力といえば、なぜだか異様に女装が似合ったりするだけで、他に何もない。
そう、何もないのだ。
この仕事を始めて早3ヶ月。
俺は一日中こき使われている。
朝6時半から、掃除やら受付やら配達プラス料理。
その分給料は高いのだが、仕事を始めた頃は死ぬかと思った。きつすぎて。
そんなこたぁどうだっていい。
俺が言いたいのは、何故異世界まで行って雑用をしなければならないのだ。
せめて、せめてハンターで戦いたかった。俺はそう思っている。
ほら、某ハンターゲームのようにねオトモ連れて密林とか砂漠とか行きたかった。
大剣とか振り回しちゃって、かっこよくシュパパパパパパッ!ってしたかった。
そして王道から離れている事はもう一つ。
異世界と現実世界を行き来できるということ。まぁ、いつでもできるわけじゃなく、
3ヶ月に一回ぐらいの確率で現実に帰れる。
ちなみに郵便や、その他届け物・ネット・電話等も普通にできるので何ら不自由はない。
ギルドは会員制という感じではなく、どこのハンターも自由にクエストを受けられる。
ランクや強さ順ではなく、自分の好きなようにクエストを受けられるので、弱くても強いモンスター
に挑むこともできる。ただ流石にそんなことをするハンターはいない。だってマジで死ぬもん。
この3ヶ月で2人ほどの死体を見た。
ちなみに死体運びは俺の範囲外の仕事だ。
たまに頭がどっか行ってたり、足がなかったり、逆に足しかなかったりするそうだ。
ゲームとは違った本当のリアルに俺は少し恐怖を覚えた。
まぁ、俺が狩りに行くわけじゃないし。
「コウタ、受付とシャワー室の掃除お願い」
「了解っす」
さぁ、今日も雑用だ。