エピローグ
エピローグ
森の中にあるその館は、元々は願い事を叶える館でした。
その家に住まう少女は、とても心優しい少女でした。
ですが…
ほんの僅かな疑念。疑いを抱かれた少女は…願いを叶えるその館は、抱かれた疑いを現実のものに変えてしまいました。
始まった悲劇は、まるで坂を転げ落ちる大岩の如く、凄まじい勢いで進んで行き、誰一人止める事ができなかったのです。
コンコン。
と、軽いノック音が聞こえてきて、陽一はPC画面から目を離して部屋の扉を振り返った。
「どうぞ。…って、何だ柚果か…」
「うぅ…彼女の扱いが酷いよ陽君。」
しょんぼりと軽くうなだれつつ陽一の部屋に入る柚果。
そんな柚果の姿に、陽一は自嘲気味な笑みを浮かべた。
「…ま、そうかもな。何しろ彼女がいるのに他の女の文起こしてる位だからな。」
小馬鹿にするように告げる陽一。
だが、今度は柚果はわざとらしい反応も出来ず、ただ真剣な目をPC画面に向けた。
「これ…賽ちゃんの事…だよね。」
「あぁ…」
一通り目を通した柚果は、それ以上見ていられずに目を閉じた。
「これが本当なら…残酷すぎるよ…」
「柚果?」
「だって…何の悪気もないのに…殺されるのが唯一の救いだったなんて…そんなのっ…」
今にも泣きそうになっている柚果。
声からそれを感じ取った陽一は、そんな柚果の頭をゆっくりと撫でた。
「…俺は別に、これが真実だと思って書いた訳じゃないさ。」
「え?」
陽一の言葉に、改めて顔を上げた柚果は訳が分からないまま陽一の顔を見る。
対して、陽一は机の中から宝物のサイコロを取り出して、振る。
「もしかしたら本当に入った人を殺し続ける呪いの館だったのかもしれない。けど、もしかしたらこんな真実もあったかもしれない。現実は変えられず、真実は一つだけど…見えない場所に何があるかは分からないんだ。」
3の目が出たサイコロを指差して告げた陽一の言葉を聞いて、柚果はサイコロを手に取る。
まわしてみてみれば、1から6の面。
「現実は変えられない。でも、その現実の何処をどう見るかは、人が選べるんだ。だから、ただの呪い以外がなかったのかな…って考えてみただけさ。」
Pc画面に向けているはずの陽一の目が、何処か遠くを見つめているように感じた柚果は、陽一の左手を掴む。
「この手見て、暴力団と間違われたりとかも、何処を見てるかだよね。」
「…言うな、俺はもう諦めた。」
苦笑交じりの柚果の言葉に現実に引き戻された陽一は、ばつが悪そうに顔を逸らす。
休みが終わって唐突に指一本綺麗に切られている陽一を見て、『指詰めた』等と遠巻きに噂されていた。
オマケに、高校に入ってからは柚果と関わらないようにと鋭い空気をかもし出して人の輪から離れていた陽一の弁護をまともに出来る人間は、あまりいなかったのだ。
だが、柚果は視線を外した陽一の目の前に、サイコロをもった手を伸ばす。
視界に割って入ったそれを見た陽一が、何をするのかと柚果を見ると、柚果は少し怒っていた。
「ダメだよ、賽は投げないと目が出ないんだから。」
勇気を振り絞った告白の結果、同じ時を過ごしている柚果と陽一。
勿論、全てがいつも上手くいくわけではないけれど…以来二人は簡単に諦めを口にする事をやめていた。
柚果が手にするサイコロを受け取った陽一は、再度それを転がした。
どうか良き目が出ますように…と祈りながら。
これで完結となります。
オリジナルは初となりますがここまで見ていただいてありがとうございました。
全体のあとがきは別に分けたいと思います。