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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第5章 豺狼の城
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第92話

 明智(あけち)(いぬい)が戦っている頃、太刀掛(たちかけ)も激闘を強いられていた。

 銃を手放していた太刀掛を襲ったのは、蒼狼(そうろう)会若頭補佐の竹中(たけなか)黒田(くろだ)の二人だった。

 小太刀で迎え討つ太刀掛に対し、二人ともに右手に打刀、左手に脇差しの二刀流で斬り掛かってきた。二人の戦闘スタイルが酷似していることから、同じ流派かと太刀掛は見当を付ける。

 太刀掛は、黒田の打刀による一撃を小太刀で逸らし、脇差しを切っ先が触れるスレスレで回避した。

 そこを狙い、時間差で迫る竹中の斬撃。

 今度は、竹中の右腕を太刀掛の左手が掴んだ。白刃が、太刀掛の首に届く前に止まる。竹中が脇差しで刺そうとしたが、太刀掛の小太刀がそれを押さえ込む。

 そこへ、黒田が再度斬り掛かった。

 太刀掛は左手で握った竹中の刀で、その振り下ろしを止めた。刃同士がぶつかり火花が散る。

「もらった!」

 黒田が、左手の脇差しを突き出す。

 太刀掛の右手は竹中の脇差しを押さえており、左手は竹中の腕を掴みながら黒田の打刀を受け止めている――無防備だと判断したのだろう。

 しかし、相手は太刀掛を侮り過ぎた。

 太刀掛は小太刀を握った右手を動かす。竹中の脇差しを弾き、黒田の脇差しの切っ先を小太刀の柄頭(・・)で強打した。

 突然の重い衝撃で、黒田の手から脇差しが落ちる。

 太刀掛の右手は止まらず、握られた刃が、竹中の右腕を斬り裂いた。竹中の手から、打刀が放れる。

 太刀掛は左手で打刀の柄を掴み、黒田の刀を逸らすと、上段に振り上げた。竹中が残った脇差しで応戦しようとするが、遅い。

 左手一本で振り下ろされた刀が、竹中の眉間を両断した。

「おのれ!」

 黒田が、残った打刀を両手で構え、打ち掛かってきた。

 太刀掛は、左手の打刀と右手の小太刀を交差させ、その斬撃を受け止める。

「ふっ!」

 短い気合いと共に、両腕に一瞬力を込め、太刀掛は相手の刀をあっさりと押し戻す。

 黒田が後退し、再度仕掛けようとするが――

「ぐぬぅっ!」

 黒田が、苦悶の声を漏らした。その胸には、刀の切っ先が突き刺さっている。

 太刀掛は、先程竹中を倒した際に奪った打刀で黒田の鳩尾を突き刺し、止めに右手の小太刀で黒田の首を掻っ斬る。

 黒田が倒れた。その近くには、竹中が虚ろな目で息絶えている。

「あとは、組長の(いぬい)か――」

「そいつは倒しました」

 太刀掛が声に振り向くと、先程別れた明智が、こちらに駆け寄るところだった。

「大丈夫か?」

 太刀掛は思わず尋ねた。

 明智の身体の所々が切り裂かれ、血が滲んで布が変色している。

「掠り傷です」

「いや、そうは見えんのだが」

 そこへ、勝連(かつら)勇海(ゆうみ)が声を張り上げて近付いてきた。

「おいマコト、ボロボロだぞ!」

「大したことない」

「……とりあえず、勇海、明智に応急処置してやれ」

 勝連が命じ、勇海が応急キットを取り出して明智の治療を行う。

 その間、勝連と太刀掛が向かい合い、情報を共有する。

「先程、雲早(くもはや)綾目(あやめ)杏橋(きょうはし)から連絡が入った。上の階の敵は掃討した」

「こちらも、明智から乾を討ち取ったと報せてもらったところです」

「ふむ……勇海、明智の具合は?」

 勝連が問う。

 明智の防弾ベストから砕けたセラミックプレートを抜いたり、傷を消毒・止血をしていた勇海が「大丈夫です」と答えた。

「本人の言う通り、内臓や骨には異常ないですね。防弾装備がもう役に立たないことを除けば、戦えるでしょう。まぁ、俺は専門じゃないんで、戻ったらメディカルチェックをした方がいいでしょう」

 そう言い、最後に服の上から包帯を巻き付けて止血を済ませてしまう。

 勝連は報告を受けた後、無線で別の班とやり取りした。少し考えると、

「よし、ならば中央棟に向かう。まだウェンと黄鱗(おうりん)会が残っている。油断するな!」



 中央棟の二階と三階を繋ぐ階段では、銃撃戦が行われていた。

 レイモンドと(たくみ)が拳銃を連射し、黄鱗会の構成員達が上ってくるのを防ぐ。

 まとめていた中国軍崩れが、一気に突入することを命じようとした。その時、別の方向から銃声と弾丸が飛んできた。

 勝連のスプリングフィールドM1911と、太刀掛のS&W M10が次々と撃ち抜いていく。

 中国軍崩れが慌てて勝連達に95式自動歩槍を向けた瞬間、階段から匠の投擲したナイフが、首を貫いた。動きが止まったところを狙ったように、匠のFNハイパワーから放たれた9mmパラベラム弾が、胸と頭を撃ち抜く。

 もう一人がライフルを階段に向け直すが、ちょうどライフルに勝連の弾丸が命中した。拳銃を抜こうとした男の顔面に、階段から跳び降りたレイモンドが跳び膝蹴りを叩き込む。

「龍村、弦間、間宮(まみや)は?」

 合流して早々、勝連は尋ねる。

「三階で拘束しています」

 レイモンドが答えると、

「あれ、お二人だけ? 他の面々は?」

 と、勝連と太刀掛しかいないことを訝しむ。

「雲早と綾目は念のため外来棟に生き残りが居ないか捜索。勇海と明智は――」

 一度、勝連は切り、二階の廊下の奥を睨む。

「――ウェンを始末しに行った」

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