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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第5章 豺狼の城
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第88話

ガンアクション(中国武術)

 綾目(あやめ)留奈(るな)はカービンを手に三階へ突入した。階段で遭遇した敵を撃ち倒し、上がり切る。

 守っていたヤクザがトカレフを撃ってくるが、曲がり角でやり過ごしてから、カービンを撃ち返して仕留めた。

 三階は広い空間だった。おそらく、患者がリハビリを行うための施設だろう。壁にある手摺りや、撤去し忘れたか、あえてしなかったのか分からない朽ちた運動器具とかからルナはそう見当を付けた。

「む!」

 ルナは、自分が失敗したことを悟る。まんまと罠にはめられたのだ。囲んでいる敵達の殺気が、自信の皮膚をチリチリと焼く。

 飛び出してきた影があった。一人は素手、他は中国武術の兵器を持っている。

 素手の男について、ルナは情報を持っていた。ギン・ロウ――黄鱗(おうりん)会に所属する殺し屋達の幹部だ。

 ルナはG36Cを向け発砲するが、その時には射線上の敵数人が跳躍していた。そのうち一人の手から、こちらに向け投擲物があった。咄嗟に地面を転がって避けるが、そのうちの一つが袖に掠って切り裂く。

 一人が、着地すると真っ直ぐルナへ向かって駆けた。

 自分に向かってくるロウは素手のまま、手刀を振りかぶった。ルナはG36Cを盾にして受け止めようとする。

 ロウの腕が振り下ろされた。

 G36Cで受けた瞬間、ただの手刀とは思えない程の衝撃が銃から伝わってきた。思わずルナの身体が後方に泳ぐ。

 今度はロウが逆の腕を水平に振り回してきた。横殴りの掌底波か。

 ルナは嫌な予感がし、今度は受け止めるのを止めて、わざと床に身を投げた。顔面すれすれを腕が通過するが、恐ろしい程の風圧を感じる。背中から受け身を取りつつ、ロウに蹴りを放った。ロウは腕でその蹴りを受けながら後方に跳ぶ。

 そいつにG36Cを向け直そうとしたところで、持っているカービン銃が変形していることに気付く。まるで巨大な金槌で殴ったように、ポリマー製のボディが歪んでいる。

「キェッ!」

 ここで別の男がルナに仕掛けた。男の手から放たれたのは、先端に爪の付いた縄だった。その縄は蛇のようにルナの右腕に巻き付く。G36Cの銃床を巻き込み、爪がポリマーのボディに刺さった。ルナは銃を手放せなくなってしまう。

 男が縄を引っ張ってきた。ルナは姿勢が崩されないように踏ん張るので精一杯だ。

 ルナを、男達が囲んだ。さっと周囲を見渡して位置を把握する。

 ここで、ロウの腕に鉄製のリングがはめられているのに気付いた。中国武術の暗器の一つ、鉄環手だ。これをはめた状態で打撃を繰り出せば、リングの重さで威力が倍増する。

 ――くそっ、どうする?

 ルナは左手でナイフを抜いた。

 だが、相手は中国武術の達人だ。左手一本の状態で適うわけがない。

「しゃぁっ!」

 背後から、掛け声。

 ルナが頭を下げると、そこを梢子棍が通過する。反応が遅かったら、頭をかち割られていた。

 ルナは左足で背後の梢子棍持ちの男の足を払った。

 男がルナを飛び越え、受け身を取りながら転がりつつ立ち上がる。

 そこ目掛け、ルナはナイフを投擲した。まさか、抜いたばかりの武器を投げるとは想定していなかったらしい。ワンテンポ遅れて梢子棍が振り上げられるが、弾かれる前に男の目にナイフが刺さった。 

 今度は、瓜錘(かすい)を二刀流で構えた男が打ち掛かってくる。

 ルナは空いた左手で再度右手のライフルを掴み、無理矢理自分の前面まで引っ張った。飛爪(ひそう)を持った男が抵抗して引く力を強めたが、何とか瓜錘の一撃目の盾にすることが出来た。

 受け止めた瞬間、ルナは左手を今度はトンファーバトンに伸ばす。男の右手が二撃目を送り込もうとするが、その前にトンファーを振るった。瓜錘を持つ手を叩き、指の骨を砕いた。

 次に、トンファーを男の首に引っかけると、横へ押し倒す。ちょうど、右腕に巻き付いた縄と、引っ張り続けている男の間に倒れるように。縄に男が乗っかったせいで、縄を引っ張り続けることが出来なくなった。手を離さなかった男が、前のめりにつんのめる。

 ルナも縄に掛かった体重分引っ張られたが、あえて縄を持っていた男の方へ向かった。倒れた男の鳩尾を踏み抜きながら、縄が巻き付いたままの右腕を振るった。近付く飛爪持ちの顔面を、G36Cで殴りつける。

「うおぉっ!」

 筆架叉持ちが、ルナへ襲いかかる。

 ルナは、咄嗟に、左手のトンファーを相手の足目掛け投げた。足にトンファーが絡み、男が踏鞴を踏む。

「おまけよ!」

 ルナは床に落ちていた瓜錘の柄と錘の付け根に爪先を引っかけると、男の顔面に向け、蹴り飛ばした。

 男は咄嗟に両手の筆架叉を眼前で交差させて防御した。確かに、投げナイフなどなら防げるだろう。

 しかし、今ルナが投げたのは、刺すのではなく質量で殴り倒すことを前提とした金属の固まりだ。筆架叉による防御をあっさりと突破し、男の顔面に命中した。明らかに骨が折れた、鈍い音がする。

 首があらぬ方向に曲がり、男が仰向けに倒れた。

 ルナはツールナイフを抜き、ワイヤーカッター部分を展開して巻き付いている縄を断ち切った。使い物にならなくなったライフルを捨て、もう一本のトンファーを構える。

 ジン・ロウが歩み寄ってきた。先程倒された筆架叉持ちに近付いたかと思ったら、トンファーを拾い、ルナに投げてきた。

 思わず、空いている方の手でもう一本のトンファーを受け取る。

「……やはり、搦め手に頼ったところで勝てんか」

 ロウが言葉を発した。

「貴様を女として見くびり、数で圧倒出来ると踏んだ浅はかな考えを詫びよう」

「どういう風の吹き回しかしら?」

「何、武人として闘おうと思った……それだけのことだ!」



 その頃、杏橋(きょうはし)(くすの)は、中央棟の屋上で待機していた。一応、周囲の警戒を担当してはいたが、持っている武器はショットガン。その上、他の棟や中庭にいた敵は別のチームやヘリからの銃撃で片っ端から蹴散らされており、正直言って手持ちぶさたな状態だ。

『聞こえるか?』

 その時、雲早(くもはや)から通信が入った。

「こちらチャーリー……の杏橋です」

『クッスか。頼まれてくれないか』

「頼み?」

 楠は首を傾げる。無線越しの声が、やけに息が荒い。

「……まさか、負傷を?」

『いや、大したことはない。防弾ベストにマグナム食らった……すぐに動けん』

「そうですか。私は何をすれば?」

 楠はホッと胸を撫で下ろしつつ、尋ねる。

『外来棟の三階にルナが突入した。援護してくれ』

「三階にルナ一人で? 了解です」

 楠は了承すると、ラペリング用のロープを取り出した。先端には、チタン製の金具が付いている。

「せぇ、の!」

 楠はロープを投げ縄のように振り回した。狙いを定め、投擲。外来棟の屋上にある鉄製の柵に当たり、金具が手摺りを噛む。何度か引っ張り、強度に問題ないことを確認した。

「さて、と」

 楠はロープを掴み、壁を踏み締め、外来棟の壁を上り始めた。

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