第86話
勇海はSG552カービンを手に外来棟のロビー内を駆け回る。
こちらを狙う中国軍崩れの一人の頭にライフル弾を撃ち込むと、瞬時に照準を変更、隣で銃口を向けている二人目の頭に集弾させた。
柱に飛び込みながら、弾丸をばらまいて三人目を撃破。四人目の射撃を柱でやり過ごし、攻撃が止んだ瞬間に右腕と右目だけ柱から覗かせ、胸に三発叩き込む。
ここで、弾倉を交換した。SG552の弾倉は、アダプターやテープを用いずとも二個以上の弾倉を連結させる――俗に言うジャングルスタイルを可能としている。わざわざ予備弾倉を取り出さなくても、連結した弾倉をずらして挿し直せば、交換完了だ。こうすることで、最も無防備な弾倉交換の時間を短縮することが出来る。勇海は三個の弾倉を連結して使用していた。
交換を終え、再度遮蔽物から飛び出す。この時には、敵に蒼狼会が合流していた。
勇海はフルオートで弾をばらまき、UZI短機関銃を持ったヤクザ二人を穴だらけにする。MP5による射撃を床を転がって回避し、お返しにそのヤクザの頭を狙撃した。立ち上がりながら、さらにSG552を連射。拳銃や短機関銃を装備したヤクザ達を次々と撃ち抜く。
別の柱まで移動したところで、今まで勇海が通った場所で三点バーストのライフル弾が弾け、コンクリート片を撒き散らした。着弾の角度から、二階からアサルトライフルで狙っている。
勇海は、弾切れを起こしているSG552を右手に握ったまま、左手で回転式拳銃、S&W M686を抜いた。二階でM16A2ライフルを構えている敵に向けて発砲。.357マグナム弾が、ライフルを構えたヤクザを貫く。
「どけ! 役立たずども!」
突然の怒鳴り声とともに、右耳に止血用ガーゼを付けた男が現れた。
蒼狼会若頭の鷹見が、二階から拳銃を連射する。二丁のデザートイーグルから、四四口径のマグナム弾が次々と発射される。
熊をも一撃で仕留める.44マグナム弾が、勇海が隠れる柱に当たり、ガリガリと削っていく。それに勢いを付けたか、他のヤクザ達も形振り構わず撃ちまくってきた。大量の弾丸が、勇海の周囲で弾ける。
勇海はリボルバーをホルスターに収め、カービン銃の弾倉を交換。さらに、M79グレネードランチャーに、二発目の擲弾を装填する。
「離れろ! こいつで吹っ飛ばす!」
M79の薬室を閉じたところで、鷹見が叫ぶ。
嫌な予感がし、そっと様子を窺うと、鷹見はデザートイーグルによる射撃を止め、ロケット砲のRPG-7を構えていた。
――柱ごと吹き飛ばす算段か!
すでに、鷹見は狙いを点け始めている。
勇海は咄嗟に左手にM79を持ち、鷹見に向けた。
M79とRPG-7、両方のトリガーが絞られたのはほぼ同時だった。
勇海の撃ったグレネード弾と鷹見の撃ったロケットがぶつかり合った。その衝撃で、互いの弾頭の信管が作動、大爆発を起こす。
勇海は柱の陰に伏せた。
空中での爆圧で、鷹見のいたスロープが耐え切れずに崩落した。周囲にいた蒼狼会や黄鱗会の構成員達も、爆発の余波に耐え切れず吹っ飛ぶか、崩れる二階の瓦礫に巻き込まれる。
――やったか?
勇海は自分の身体に積もった破片や瓦礫をどかしながら立ち上がる。
相手の生死を確認するため近付こうとした時、背後から風切り音がした。
勇海は風切り音のする方へライフルを撃つ。
飛んできていた金属製の暗器に命中し、落とした。漁師が使用する三つ叉の銛の柄を短くしたような飛び道具、飛叉だ。
勇海は急いで近くの柱まで走った。隠れた柱に、飛叉が突き立つ。
勇海は飛び出しながらSG552をフルオートで水平に撃った。同じように動いていた男の投げた飛叉を撃ち落とし、男の胸に着弾する。
――まず一人!
勇海が起き上がる。
そこへ、別の男が、左手に持った梢子棍を振るった。長短二本の棍を鎖で繋いだ打撃武器で、長棍を握って短棍を振り回す。勇海の持つカービンに命中し、手から放れた。
そこへ、右手の青竜刀で斬りかかってきた。
勇海は両手で男の右腕を掴み、刃が自身に達しないように耐える。
その間も、相手の左手の梢子棍が、猛烈に回転していた。
勇海は、相手に押し込まれるフリをしながら、自ら床に身を投げる。巴投げの要領で、相手の身体を頭上から投げ飛ばした。
右手で、ホルスターのS&W M686を抜く。
相手が起き上がったが、勇海は仰向けのまま、相手目掛けて二発発砲。これが命中してなかったら、倒れたままの勇海はそのまま相手に斬られるか頭を叩き割られているだろう。
「……ごふっ」
相手は咄嗟に横に跳んでいたが、マグナム弾が腹部に命中していた。驚きと痛みで、動きが鈍る。
勇海は空いていた左手で再度SG552カービンを取ると、片手で連射した。失血で動きが遅くなっている状態で、高速のライフル弾を避けられるはずがない。相手の右肩から左肩まで一直線に弾痕が走り、両手の武器が床に落ちる。
「うおぉぉぉ!」
絶叫とともに、勇海は押し倒された。
押し倒したのは、先程二階から床ごと落ちたはずの鷹見だった。勇海を転がすと、カービン銃を奪い、右手の拳銃も蹴り飛ばす。
「死ねぇ!」
勇海の胸を踏みつけながら、鷹見が血走った目で見下ろしてきた。SG552を発砲しようとする。
「お前がな!」
勇海は咄嗟にM649ボディガードを左手で抜き、引き金を絞った。
鷹見の眉間から鮮血が弾け、バランスを崩したように鷹見が倒れる。
起き上がった勇海は安心できず、弾倉に残っている四発も鷹見に撃ち込んだ。胸と頭に二発ずつ叩き込み、確実に止めを刺す。
「化け物め……」
勇海が重い息を吐いた。さすがに、あの爆発に巻き込まれた挙げ句に落ちておいて動けるとは到底思ってなかったのだ。
「勇海!」
声を掛ける人間がいた。
勝連だ。
「何だ、今の爆発は?」
「そいつが室内でロケットぶっ放したんですよ」
勇海は鷹見の死体を指しながら簡潔に説明した。
「とりあえず、この辺は片づきましたかね?」
勇海が勝連に尋ねる。
「そのようだな。だが、太刀掛さんと明智が心配だ。外から邑楽が援護してくれている。二人の応援に行くぞ!」