第80話
『これより、アルファとブラボーは作戦を『陽動』から『殲滅』へ移行する!』
英賀敦は勝連からの指令を、梓馬つかさが運転する軽トラックの荷台の上で聞いた。
「皆聞きましたね? これより、ブラボーは立体駐車場に残る敵を殲滅します!」
英賀の指示に「了解」と返し、梓馬がトラックを走らせる。ブラボーの隊員を乗せたトラックが、立体駐車場の入り口に近付いた。
無論、敵は黙って通してはくれなかった。走るトラックに向かって、二階層目から銃撃が加えられる。
「邪魔だ!」
登崎岳が吼え、G36Cカービンを発砲。レーザー照準器が敵の顔を捉えた次の瞬間、ライフル弾が貫く。
力石満や皐里緒も登崎に合わせ、持っていた汎用機関銃で牽制射撃を行った。撃たれた敵の一人が、フェンスを越えて地上に落下する。
「敵が突入してくるぞ!」
立体駐車場に展開していた、ロシアンマフィア・アゴニスーシャの幹部、コワルスキーが叫ぶ。
「どうする?」
ヨーロッパ系テロリスト、ナインテラーの戦闘指揮官が尋ねる。
アゴニスーシャの構成員達は主にAK101アサルトライフルやビィチャージ短機関銃で武装。PK機関銃を持つ者や、再度の爆撃を恐れて屋上から内部に戻ったドラグノフ狙撃銃持ちもいる。
ナインテラーの構成員は、イスラエル製のアサルトライフルIMIガリルやCz61スコーピオン短機関銃を装備。
アゴニスーシャが二五人、ナインテラーが一六人の計四一人が生き残っている。
予想以上に敵は手強かった。屋上の狙撃手や機関銃手が何人かグレネードで爆殺され、外に展開した四〇人程の部隊も全滅した。
奪ったトラックで乗り込んでくる敵部隊は、目視で確認したところ五、六人か。はっきり言って化け物だ。しかも、あれで全員なのかも判断が付かない。
どう迎え撃つか考えているところに、こちら側の援軍が到着した。
「状況は?」
入院棟二階と立体駐車場二階を繋ぐ連絡通路から駆けつけたのは、蒼狼会の若頭補佐、丹羽だった。左手には鞘に納まった日本刀を持ち、十人程の部下を連れてきている。
「最悪だ。奴ら、車でここに上がってきている」
「そうか。なら好都合だ」
丹羽は後ろの部下達を見る。
彼らは、ロシアの対戦車榴弾発射器、RPG-7を持ってきていた。その数四基。
「上がってきたところを、車ごとランチャーで吹き飛ばす」
「おぉ、それは妙案!」
RPG-7の対物榴弾は、ほとんどの車両を破壊する威力を有している。いくら連中が化け物並みでも、ロケット砲に耐えられる人間がこの世に存在するはずがない。
「上がってくるぞ!」
ナインテラー構成員の一人が叫ぶ。
「構え用意!」
丹羽の指示により、蒼狼会の構成員が一斉にRPGを構える。
「一発でも当ててしまえばこちらの勝ちだ! 慌てるな! 一人ずつ、確実に当てるつもりで狙い撃て!」
丹羽はさらに細かく指示を飛ばす。あり得ないとは思うが、虎の子のRPGを一斉に撃っておいて、一発も当てることの出来ない状況は避けたい。
やがて、敵の乗ったトラックが、一階から二階へ繋ぐスロープを上がり切った。
姿を視認し、叫ぶ。
「放てぇ!」
「アズサ! RPGだ!」
運転席にいる梓馬へ、力石が警告を送った。
そのときには、スロープを上がり切ったところだった。
そこへ向け、RPG-7が放たれる。
「皆、掴まって!」
梓馬はクラッチを踏みながらレバーを操作すると、一気にアクセルを踏む。
先ほどまでトラックがいた空間を、RPGから放たれたロケットが通過する。
「二発目!」
再度の警告。
今度は、トラックの進行方向へ向けての偏差射撃。
咄嗟にハンドルを切りながらサイドブレーキを入れる。慣性でドリフトをしながら、トラックが方向転換しつつ停止。
そこへ、二発目のロケットがトラックのサイドミラーを掠めながら飛んでいった。
梓馬はトラックを再発進させる。
「今度は二発同時に来るぞ!」
言われなくても、梓馬には見えていた。
撃ち終わった男が下がり、残りの二人が僅かな時間差をおいてRPG二発を発射する。
正面から迫る二発のロケット――梓馬は臆することなくそれに向けてアクセルを踏む。ハンドルで進行方向を微調整しながら、加速していく。
一発目がトラックの左側すれすれを通り過ぎていった。それを感覚で察知しながら、ハンドルを僅かに左へ。
二発目が、梓馬のいる運転席側のサイドミラーを弾き飛ばしながら、飛んでいく。ミラーへの激突程度では、炸薬の信管は作動しなかった。
遅れて、次々と駐車場の外に落ちたロケットが爆発する。
敵は、完全に唖然としていた。
「お返しよ!」
久代が、SCARーH下部のグレネードランチャーで、最後の一発を撃った。
RPGを撃っていた男達近くの床に命中し、爆発で吹き飛ばした。
さらにリオや力石が機関銃を撃ち始める。登崎も、荷台に乗っているままのPK機関銃を乱射する。対応が遅れたロシアンマフィアやテロリストを、次々と蜂の巣にしていった。
敵が後退を始めた。遮蔽物となる車両が集中している場所まで退く。
ここで、梓馬は一端トラックを停止した。
「ここからは各個撃破していきます! リキさんとアズサは引き続きこのトラックで援護を!」
英賀が指示を出しながらトラックから降りる。
「私の機関銃、もうほとんど弾残ってないから残していくね」
「ライフル弾もグレネードも品切れだわ」
リオと久代が主武器のHK21やSCARを荷台に残す。代わりに、P90短機関銃を構えた。
「こいつは十分弾が残っている。接近されたら使え!」
登崎が力石にG36Kカービンと予備弾倉を渡す。こちらは、レーザーサイト付のMP7A2短機関銃二丁を左右の手に持った。
力石以外の面々が降りたのを確認し、再度梓馬はトラックを発進。荷台の上では、三脚のPK機関銃を力石が撃って敵を牽制する。
そこへ、英賀以下三人がそれぞれの得物を手に突撃した。