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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第4章 罠の凶音
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第70話

 ホテルの非常口に、黄鱗(おうりん)会の構成員達が集まっていた。

 その中のリーダー格の男が、携帯で会話をしている。

「よし、対象は問題なく確保だ。ここも撤収準備を始めるぞ」

 携帯を切り、指示を飛ばす。彼らは、確保対象の女スパイが非常口に逃げてきたときに備え、裏口を固めていた。実際には部屋の中だけで終わり、出番はなかったが。男達の近くには、不運にもサボって煙草を吸いに来ていた従業員の死体が転がっている。

 男達が動こうとしたときだった。

 足下に、缶がコロコロと転がってきた。

 男の一人の足に当たり、「ん?」と下を見た瞬間――

 缶が破裂し、大量の煙が発生した。男達の視界が煙幕で一時的に塞がれる。

「うわっ!」

「何だ?」

 何とか腕を振り回したりして煙を振り払う。

 そこへ――

 明智(あけち)(まこと)が、脇差しを右手に構え、襲いかかった。

 一太刀目で、男の頸動脈を切断し、返す太刀が二人目の首を跳ねる。

 男の一人が、ようやく拳銃を抜き、明智に向けたが、距離が近過ぎた。明智の左手が動き、折り畳み警棒が展開した。警棒が拳銃を弾き飛ばし、脇差しが男の胴を薙ぐ。

 別の男の手が、拳銃を握ったまま斬り飛ばされ、警棒の先端が顎を強打する。

「おのれぇ!」

 少し離れていたリーダー格の男が、トカレフの引き金を引こうとするが――

 トカレフ弾が発射される前に、ライフル弾が男の腕と頭を貫く。

 最後に残った男を袈裟に斬り裂いたところで、一方的な戦闘が終わった。

「ありがとうございます、花和泉(はないずみ)さん」

 明智は、脇差しに付いた血を振り落としながら、援護してくれた人物に礼を述べる。

「イズミ、でいいわ。皆、そう呼ぶ」

 花和泉(はないずみ)(みゆき)がライフルの銃口を下ろしながら微笑む。彼女が構えているのは、葉桐(はぎり)から借りたシュタイアーAUGのロングバレルモデル。このブルパップ式ライフルは、銃身を短いものと長いもので工具なしで簡単に交換できる。

 明智は脇差しと警棒を納め、B(ブッルガー)&T(トーメ) MP9短機関銃を構えた。これまで自身の戦い方を踏まえ、トリガーは左指で引き、右手をボディと一体化したフォアグリップに持ってくる。これで、咄嗟の接近戦の際に、左手で銃を保持しながら、右手を脇差しと特殊警棒のどちらかにすぐ伸ばすことが出来る。

 二人は、非常口からホテルに踏み込んだ。



 一方、正面入り口では、勇海(ゆうみ)(あらた)名雪(なゆき)琴音(ことね)が黄鱗会と撃ち合っていた。

 勇海は清水(しみず)から借りたH(ヘッケラー)&K(コッホ) G36Cカービンを、名雪はB&T MP9短機関銃を装備。

 トカレフやマカレフ拳銃を中心に装備している黄鱗会のチンピラ達を、火力の差で撃ち倒していく。

『ユーミさん』

 通信が入る。

「クッスか。どうした?」

 勇海が応える。通信機越しに、銃声が聞こえる。

『アユさんはすでに連れ去れているわ。代わりに、ジー・イーシャンの身柄を確保。アユさんはまだこのホテル内を移動させられている最中かも……』

「でかした」

 勇海は全員に通信機を繋ぎ直し、

「皆、アユは部屋にはいなかったが、ルナとクッスが幹部の身柄を抑えた。アユを連れ去った奴らがまだホテル内を移動しているかもしれん。捜索しつつ、邪魔者は排除。特に非常口は警戒してくれ」

『了解』

 と、勇海の指示へ返答が来る。

「……ユーミ、新手よ」

 勇海に、名雪が警告を送ってきた。

 しかも、今度の敵はこれまでと違った。黄鱗会の構成員は当然中国系なのだが、現れたのは日に焼けたような褐色肌の東南アジア系の男達だった。

 男達が撃ち始めた。先程までと違い、拳銃による単発射撃ではなく、フルオート火器による弾幕。しかも、銃声が減音器(サプレッサー)で抑えられている。

「……サプレッサーによる抑制……フルオートの連射速度……弾丸によるソニックブームなし、亜音速弾……」

 名雪が敵の火器について分析を始めた。

「……32口径、あるいは38ショート弾のフルオート。おそらく、イングラムM11」

「相変わらずよくもまぁそこまで特定できるなぁ……」

 敵の使っている銃の種類を音から特定してしまう名雪に驚きつつ、

「しっかし、あいつら、黄鱗会か? 人種が明らかに違うぞ?」

「……おそらく、手を組んでいる東南アジアのマフィアの人間」

「あぁ、なんかそんな通達があったなぁ」

 さらに言えば、英賀(あが)達を襲撃したのは、ロシアンマフィアとも聞いている。これは、犯罪組織やテロリスト達が本格的に手を組み合いだしたと言えた。

「噂だけで済んでくれりゃあいいのに、世知辛い世の中だぜ!」

 勇海は愚痴りながら、持っていたG36Cカービンを、敵に向け、床の上を滑らせるように投げた。

 一見、降伏とも受け取れる勇海の行動に敵は困惑し、銃撃が一瞬止む。

 勇海はその隙を突いて飛び出した。両手には、二丁の拳銃。左手には、愛用のM686リボルバー。右手には、結城(ゆうき)まどかが貸してくれた自動拳銃が握られている。

 SIG GSR――SIG社によるM1911ガバメントのクローンモデル。一世紀以上使われ続けた実績のある銃を、SIG社らしい角張った意匠のスライドやアクセサリ用レールでリデザインしたモデル。

 勇海が宙を飛びながら、両手の拳銃が立て続けに火を噴いた。45口径の弾丸が胸に穴を開け、マグナム弾が頭を貫通する。

 イングラムM11短機関銃を構えた三人の殺し屋達が、瞬く間に絶命した。

「……よくもまぁ」

 呆れる名雪を余所に、拳銃を納め、投げたライフルを拾った。

「さて、油断は禁物だ。慎重に、かつ素早く片付けるとしよう」

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