第66話
明智真達は敵の包囲を逃れた後、市内のセーフハウスに退避していた。
勝連武、太刀掛仁、吉弘丈二、幟大呉の幹部達は報告のため、本部に戻った。セーフハウス内にいるのは、ほとんどが一般の隊員達だ。
現在、梓馬つかさが治療を受けていた。そのために派遣されてきたのは、司令官秘書の結城まどかだった。
治療中、明智や勇海達は部屋の外で思い思いに過ごしていた。形ばかりコーヒーを入れたものの、一切口に付けずに結果を待っていた。
やがて、まどかが部屋から出てきた。
「どうだった?」
一同を代表して勇海がまどかに尋ねる。
「安心して。命に別状はない。マグナムの衝撃で痣は出来ていたけど、幸い急所は外れていたし、触診でも骨に異常はなかった。ただ、少し安静にさせてあげた方がいいわ。念のため、精密検査も受けた方がいい」
まどかが答えたことで、一同に安堵の雰囲気が漂う。
ホッとしたのも束の間、「それにしても」とまどかが続ける。
「危なかったわね」
「あぁ。あれだけの増援……最初から包囲する目的がないと集められない」
勇海が応える。
「意図的に流された情報だったかもしれんな」
雲早柊も会話に加わった。
言い合うのを聞きながら、明智は今回の作戦を振り返る。
今回の作戦は、霧生組と黄鱗会が拠点としている五カ所を同時に攻めた。その際、他の支部からの応援があったとはいえ、一拠点に注ぎ込める戦力はどうやっても少なくなる。そこを狙っての囮を配置しての包囲――確かに、敵側はわざと情報を漏らしたと考えれば納得が行く。
ここまで考えたところで、明智の脳裏に嫌な可能性が一つ浮かんだ。それも、考え得る限り、最悪の可能性だ。
「……ところで、今回攻めた拠点の情報は、どうやって入手した?」
明智がその直感そのままに、尋ねる。
「黄鱗会に潜入している諜報部のメンバーからの情報だ」
勇海が答える。
「そのメンバー、まだ潜入中なのか?」
「え?」
一息入れていた花和泉幸や名雪琴音が惚けた声を上げる。あれだけの修羅場の後だから仕方ないとはいえ、大分緊張感に欠けていた。
「今回の敵の増援、明らかに最初から仕掛けられていた」
「あぁ。でもこっちも援軍のおかげで返り討ちに――」
「重要なのはそこじゃない」
明智はもどかしく返す。
「問題は、敵は俺達を誘い込むために、そのメンバーに偽の情報を掴ませたってことだ」
「――しまった!」
花和泉が叫んだ。どうやら、明智の危惧している内容に気付いてくれたらしい。
「……今回の敵の目的は、私達の包囲殲滅……」
「そしてもう一つ」
明智は確信を持って叫ぶ。
「潜入したスパイの炙り出しだ!」