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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第3章 逆浪の百矢
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第60話

 地下の制圧を終え、地上に続く階段を上る。先頭は、明智(あけち)(まこと)綾目(あやめ)留奈(るな)の二人。

 一階に辿り着いた。地下への階段のドアをゆっくりと開ける。油断無く銃を構え続けるが、特に攻撃はなかった。

 ――待ち伏せすらしていない?

「まさかと思うけど、敵は地下の面子だけってことはないわよね?」

 ルナが通信機で尋ねる。

『そんなバカなことがあるか』

 雲早(くもはや)(しゅう)が応える。

『仮にさっきの連中が主力としても、地上に見張りを置いていないのはありえないだろ』

 勇海(ゆうみ)(あらた)も付け加えた。

「どうします?」

 明智が問う。

「ひとまず、捜索だな」

 ここで、背後から追い付いた太刀掛(たちかけ)(ひとし)が進言。

「地下を捜索した際、麻薬も見つからなかった。まさかとは思うが、この施設のどこかに隠してある可能性も考慮しなければなるまい」

 太刀掛の言う通りだった。今回の作戦は、黄鱗(おうりん)会が日本に持ち込んでいる麻薬を撲滅するために実施されているのだ。再度、明智はやる気を出す。

 一階の捜索のため、一同が地上に出た時だった。

 勝連(かつら)(たけし)の通信機に、別のチームからの通信が入った。

「何事だ?」

『勝連さん、これは罠です!』

 通信を繋げて早々、叫び声が聞こえた。

英賀(あが)か! どういうことだ!」

『施設内の敵を殲滅後、増援による攻撃を受けています! それもかなりの数です!』

 英賀の声に混ざって、銃声や破砕音が聞こえる。今も、激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。

『おそらく、敵は――』

 その通信を最後まで聞いている時間はなかった。

 この建物の入り口の方角から、ガラスが割れる音がした。そして、銃器で武装した男達が一斉になだれ込んでくる。

「散れ!」

 咄嗟に勝連が指示を飛ばす。

 九人がバラバラに散ったところに、銃撃が加えられた。危ういところで、全員が遮蔽物に隠れる。

「くそったれ!」

 毒づきながら、撃ち返す。何人か倒したが、敵は減ったように見えない。むしろ、どんどん増えている。

「はめられたぜ! 地下の奴らは囮かよ!」



「攻め込め!」

 霧生(きりゅう)組系列二次団体蒼狼(そうろう)会の組長である(いぬい)吾郎(ごろう)の指揮の下、突撃銃や短機関銃を装備した組員達がビルの中に突入した。

 描いていたシナリオと少し違うが、どうやら敵を誘い込むのには成功したようだ。

 当初は、敵がビル内に侵入し、地下へ攻撃を開始したところで待機させていた部隊を突撃させる予定だった。逃げ場の無い地下に追い込み、包囲殲滅するつもりだったのだ。

 しかし、別のビルの地下から爆薬で無理矢理進入路を確保し、地下から攻めていくなど、誰が予想できるだろうか? 念のため配置していた見張りからの連絡が途切れたこと、そして一階より先に地下の囮から攻撃を受けたことを知ってから、急遽作戦を変更した。今は、鷲尾(わしお)鷹見(たかみ)が精鋭を率いて、奴らが侵入に使用した地下通路を封鎖しに掛かっている。

「乾殿」

 横から声が掛けられる。

 彼らは、黄鱗(おうりん)会から乾に貸し出された殺し屋達だ。銃よりも武術や暗器を用いた殺しを得意とする暗殺者達。どんなに訓練を受けた人間でも、武器を持ってない相手にはどうしても油断や躊躇というものが生まれる。

「我らにも、討って出る許可を」

「もう少し待て」

 乾が言った直後、内部で変化が起きた。奥から、火の手が上がる。

「組長、敵の分断に成功しました」

「成果は?」

「火を逃れ、二人ほどが二階の階段を上っていくのを確認」

 部下の報告に乾は頷くと、

「あんた達の出番だ。非常階段から二階に行って、不運な二人ばかりをさくっと仕止めてくれ」

「御意。戦果をご期待あれ!」



 撃ち合いの最中、不意にMDSI側に投げ込まれた物があった。咄嗟に勇海が撃ち落とす。銃弾が命中すると、パリンと割れ、中の液体が飛び散った。投げられたのは瓶だ。そして、中身が瓶から出ると同時に燃え上がった。

「モロトフカクテル!」

 中の塩素酸塩と硫酸が化学反応を起こし、灼熱の炎を撒き散らす。しかも、銃撃戦の最中に全員がバラバラに動き回っていたため、炎の壁に分断されてしまう。

「マコト! ルナ!」

 勇海が炎の向こうへ叫ぶ。

 さらに、第二、第三の火炎瓶が投げ込まれ、辺りが火の海と化していく。

「ユーミ止せ! 火傷じゃ済まないぞ!」

 一緒に行動していた雲早が、勇海を引っ張って炎から離れる。

 いつの間にか、勝連達とも分断されてしまっていた。

 そして、二人目掛けて、次々と銃弾が撃ち込まれてくる。二人は奥へ奥へと追い込まれた。

 この建物の一階は潰れたバーだったらしく、退却先にはバーカウンターがあった。二人は飛び越え、身を隠す。

 そこへ、炎を避けながら追ってきた霧生組の組員達が、撃ちまくってきた。元は酒瓶を置いていたであろう棚に次々と銃弾が辺り、破片を撒き散らす。

 勇海と雲早はライフルを撃ち返すが、多勢に無勢だ。二人の腕でもこれだけの人数が一気に来ると、対処は難しい。

 そして、何度目か、撃ち返す際に顔を上げた際に、勇海は見た。

 敵の一人が、モロトフカクテルの瓶を持ってきている。

 このままこの場に居れば、投げ込まれた火炎瓶で焼き殺されるのは自明の理だ。

 ――ちくしょう、こんなところで!

 何としても投げられる前に仕止めたかったが、敵は援護のために、一気に弾幕を厚くした。顔を上げただけで穴だらけにされてしまう。

「どうする、シュウ!」

「……投げるその一瞬だけは、一度銃撃は止むはず。その時に討って出るしかない」

「だが、出て行ったら蜂の巣は確実だ」

「ここにいても燃やされるぞ!」

 二人は言い争う。一方で、この状況を打破する方法がそれ以外無いのも理解していた。

「――分かった。俺が行く」

「何?」

「俺が引き付けている間に、ちゃんと仕止めてくれよ? シュウ」

「止せ、ユーミ――」

 雲早の制止を振り払い、勇海が特攻を仕掛けようとする。

 しかし、実行まで移ることはなかった。

 次の瞬間、二人が隠れている場所の、棚が壁ごと崩れた。

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