第44話
明智が瞳を送りに行ったのを確認すると、
「さて、喜三枝さん、二次会の会場はどこです?」
レイモンドが美妃に尋ねる。
「今、悟道さんからメールで来ました。今、全員に転送しますね」
勇海達の携帯に、一斉にメールが届く。
そこに書かれていたのは、先程のヤクザ達の事務所の住所だ。悟道が尾行の末に突き止めたのだ。
「しかし、喜三枝さんも鬼ですね……金払っておいて、結果として潰すんですか?」
匠が笑みを浮かべながら聞く。
「ヤクザにあんな大金渡ったところで、碌な使われ方をされないでしょう? それに、渥美さんにまた纏わりつかないとも限りません。ヤクザの口約束なんて、信用ありませんからね」
「ある意味下手なヤクザより怖ぇや」
レイモンドが肩をすくめる。
「まぁ、さっき暴れ足りない分やらせてもらうわぁ」
駿河はやる気満々のようだ。
「武器は?」
「車の中に入ってるわ。拳銃なら、全員分あるはずよ」
「用意いいですね」
あれこれ言いながら、MDSIの面々は準備をし始める。
「で、どういうつもりなんです、美妃さん?」
「なんのことでしょう?」
盛り上がっている彼らから少し離れたところで、勇海は美妃に問う。
「とぼけないでくださいよ。貴女なら知っているはずだ。マコトと……あの渥美瞳って娘との関係をな」
美妃が完全に口を紡ぐのを確認し、さらに続ける。
「皮肉なもんだな……自分を助けてくれた人間が、まさか自分の恋人を殺したとは、彼女は夢にも思うまい……一体、いつの間に出会ったんだ?」
「私の訓練受ける前だそうよ。彼が婚約者の墓参りに行った際に、同じ墓地で彼女の恋人は眠っていた。彼女は『真智明』が死刑になったことを墓前に報告しようとしていたそうよ」
「そして、『明智真』になったあいつが目の前に現れたわけだ……くそ、笑えねぇ……」
勇海は真智明をMDSIにスカウトするにあたって、生まれからこれまでの経歴を調べていた。
当然、彼が死刑になる切掛けとなった事件も。
死亡した沖鉄也についての情報はほとんど集まらなかったが、渥美瞳という恋人がいることが分かった。
「彼女を会社に入れるのは、まだ分かる……だが、マコトの連絡先を教えたのはどういうことです?」
「どういうことと言われましても……彼なら彼女と面識あるのですから、連絡の敷居も低いでしょう?」
一瞬、本気で言っているのか、と勇海は美妃の正気を疑った。
彼女と関われば関わるほど、明智の精神は罪悪感に責められる。根が真面目なだけに、その消耗は激しいものになるに決まっていた。
「だが、あいつは……」
「彼は『明智真』よ」
勇海は絶句する。
「渥美さんの恋人を殺したのは、この前死刑になった『真智明』ではなかったかしら?」
「あ、あんたは……」
勇海の声が震える。
あくまでも、明智と真智は別人であると言い張るつもりか。確かに、データ上はそうだ。しかし、その心は別人に為り切れるわけがない。
「こんなことで追い詰められているようでは、この先思いやられるだけですよ?」
反論を必死で考える勇海に、美妃が止めを刺す。その眼は冷め切っていて、まるで家畜を見ているようだ。
その様に、勇海は戦慄を覚える。
「おい、ユーミぃ、行くぞ!」
「あ、あぁ……」
レイモンドに呼ばれ、勇海は車に乗り込む。
車が出る前に見た美妃は、すでに関心を失っていたようだった。