表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥府の剣  作者: 梅院 暁
第1章 餓狼の船
35/150

第32話

 ――二〇三六年二月――


 日本海を一隻の船が進んでいた。

 海上保安庁第九管区保有の巡視船「えちご」である。

『こちら「こしかぜ」、オケアノス号を補足!』

 海上保安庁の巡視艇「こしかぜ」から通信が入った。

『こちら「ゆきつばき」、同じくオケアノス号を視認しました』

 もう一隻の巡視艇からも通信が入る。

「よし、二隻共にオケアノス号へ停船信号を送るように伝えろ」

 それを受けた巡視船「えちご」の船長、長尾(ながお)保安監は通信士に命じた。

「向こうが大人しく停まってくれると思いますか?」

 長尾に同乗者から声が掛かる。

「相手は表向き貨物船ですが、実体は――」

「麻薬の密輸船」

 長尾が男に向き合った。男は、三十代後半から四十代前半、僅かに白髪の混ざった髪は短く揃えられ、いかにも軍人然として直立している。

勝連(かつら)さん、だったかな? あの密輸船の情報には感謝しているが、ここからは我々海上保安庁の管轄だ。口出しは控えてもらおう」

 そう言い、長尾は男――勝連(かつら)(たけし)を睨む。一方、相手は彫りの深い顔から鋭い眼光をもってこちらを見据えている。

 結局、先に目線を反らしたのは長尾だった。

(何なのだ、この男は)

 長尾はこの勝連という男が苦手だ。

 今から一時間程前、新潟港にてトルコ船籍の貨物船オケアノス号が降ろした荷から麻薬の原料が発見された。普通に考えれば、荷を降ろす際に査察官が気付くようなものだが、驚くべきことに、査察官の一部がグルになっていたというのだ。

 発覚した時にはオケアノス号はすでに出港していたものの、船速からまだ領海内にいるという判断の元、海上保安庁に出撃要請が来た。

 直ちに巡視艇「こしかぜ」、「ゆきつばき」および巡視船「えちご」の三隻はオケアノス号を追跡し始めた。巡視艇二隻および搭載されているヘリ「みさご」を先行させ、「えちご」も出港した直後だった。一機のヘリコプターが接近、「えちご」への着艦要請を出してきた。同時に入ってきた本部からの通信によれば、そのヘリは防衛省所属のものであり、オケアノス号追跡に加えろとのことだった。

 渋々着艦を許可したところ、そのヘリにはパイロットを除けば武装した人間四人が搭乗していた。各々特殊部隊が着るようなタクティカルベストを纏い、銃器を装備していた。

 その中の隊長格がこの勝連武という男だった。現在は隊員とパイロットをヘリに残し、操舵室に入ってきてこちらの活動に一々口出ししてくる。

「船長」

 ここで、通信士から長尾に声が掛かる。

「オケアノス号、停船信号を送っても依然止まる気配ありません」

「よし、強制捜査だ。オケアノス号に乗り込むように伝えろ」

 長尾は即座に決断した。

 通信士を通じ、長尾の指示が先行している二隻と一機に伝えられる。

『こちら「みさご」、これよりオケアノス号へ――』

 通信が、最後まで続かなかった。

「どうした?」

「分かりません、急に通信が……」

 直後、巡視艇「こしかぜ」から通信が入る。

『こちら「こしかぜ」! 「みさご」、撃墜されました!』

「は?」

 あまりにも突拍子もない報告に、長尾が一瞬呆ける。

 なおも「こしかぜ」の通信は続く。

『相手は武装を――』

 直後、通信機越しに爆発音が響く。

 その状況に船内が騒然とする中、勝連は通信機を取り出した。

「こちら勝連です。司令部、応答を願います」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ