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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第2幕
34/150

プロローグ

まさかの再開

 ――二〇三五年十月某日。

 警察官真智(まち)(あきら)村雨(むらさめ)彩華(さやか)と一緒に昼食を摂った後、彼女を職場に送り届けることにした。

「うーむ、見誤ったか……」

 運転席の真智が唸る。近道をしようとして、逆に渋滞にハマってしまったのだ。ここ数分、車の列が動く様子がない。

「ごめんなさい、わざわざ送ってもらって……」

「気にするなって」

 謝る彩華に、真智は笑いかける。

「でも、忙しいんでしょ?」

「今だけさ。もうちょっとすれば一段落する。そうすれば、二人の時間だって作れる。それに……」

 真智は彩華の左手に目を落とす。その薬指には、輝く指輪が嵌っている。

「いよいよ来月、だからな」

「……そうね」

 彩華が頬を赤くして俯く。

 そう、来月には二人の結婚式が待っているのだ。それまでには、今抱えている案件を片付けなければならない。

「爺ちゃんや婆ちゃんにも、見せてやりたかったな……」

 ポツリと呟く。

 両親と早くに死別した真智を引き取り、育ててくれたのが今は亡き祖父母だった。

 祖母は、自分の大学合格を入院先の病院で聞いた翌日、力尽きるように息を引き取った。

 祖父は警察学校への合格が決まった日、長年の心労が祟って倒れ、帰らぬ人となった。

 今まで散々世話を掛けたからこそ、自分達の晴れ姿を見せ、安心してもらいたかった。

「大丈夫よ」

 彩華が微笑み掛けた。

「お爺様もお婆様も、きっと見守ってくれているわ」

「……そうだな」

 真智も思わず笑い返す。

「お、ようやく動き出した」

 いつの間にか前の車両が動き始めていた。これで何とか着けるか……と思ったものの、僅か数百メートル進んだだけでまた停止する羽目に陥る。依然渋滞は解消される様子がない。

「仕方ないわ」

 と、彩華がシートベルトを外す。

「ここからは走っていくわ」

「まだ距離あるぞ? 大丈夫か?」

「全力疾走すれば間に合うわ」

 そう言って、車から降り、駆け出す彩華。その姿を窓ガラス越しに真智は見送った。

 別れた時も、彼女は笑っていた。

 ――それが真智明の見た、彼女の最後の姿となった。

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