第31話
明智や勇海達が霧生組の主力を粗方片付けていた頃――
勝連武、太刀掛仁、通津理、梓馬つかさの四人は、テロリスト集団ナインテラーと交戦を続けていた。
ナインテラー側はヘリを落され大打撃を受けたものの、幹部のNo.5サンク率いる主力部隊は健在だ。MDSI側は拳銃しか装備しておらず、突撃銃で装備したナインテラーの相手は分が悪い。さらに人数が違う。
「このままじゃジリ貧ですよ!」
通津が悲鳴を上げる。
「泣き言を言う前に撃ってくださいよ! 男でしょ!」
梓馬が怒鳴り返す。車を盾にしながら撃つが、そこまで相手の数が減ったように思えない。
「まずいな……弾薬がほとんどない」
コルト・ローマンに弾を込めながら、太刀掛が懸念を口にする。
拳銃はあくまでもライフルなどの主武器が使えなくなった時のための予備だ。武装した複数の相手と正面から撃ちあえるほどの威力も装弾数もない。
このまま押され続けたら負ける……誰もがそう思った時だった。
新たにヘリコプターのローター音が辺りに響き渡った。
「ひぃっ! まさか、ナインテラーの援軍?」
通津が再び情けない声を上げた。
「いや」
ただ一人勝連だけは理解していた。
ヘリのドアが開かれ、中から現れた人間を見て、それが確信に変わる。
「敵の、じゃない……我々の、だ」
現れた力石満が、片膝立ちでHK11E軽機関銃を撃ち始める。勝連達に集中していたナインテラー構成員達が、次々と7.62mmの弾丸に貫かれた。
ヘリからロープが垂れ、駿河申、望月香、弦間匠の三人が降下してくる。
「お待たせしました!」
開口一番に詫びながら駿河がライフルで一人撃ち倒す。
「いや、いいタイミングだ。相手が突出しすぎて混乱している」
ナインテラー構成員達が、突如参入した面子に虚を突かれ、後退と前進の判断が遅れている。
「これを使ってください」
さらに増援が持ってきた予備の武器を受け取り、MDSI側の火力が飛躍的に上がった。通津や梓馬は、これまでの鬱憤を晴らすが如く、受け取った短機関銃を撃ちまくる。
勝連も駿河からモスバーグM590ショットガンを渡され、早速近い敵へ撃ち込んだ。穴だらけになった敵が倒れるのを見ながら、銃身下にある前床を前後にスライドさせ、排莢。別の相手に鉛玉の塊をぶち込む。
「下がれ! 下がれ!」
ナインテラー側で、一際大きい声が撤退の指示を出す。声の主は、他の構成員とは異なり、ガリルではなく、シュタイアー社製ブルパップ式突撃銃AUGを構えていた。
ナインテラーの幹部、No.5サンクである。
太刀掛はその姿を視認し、遮蔽物から飛び出した。
「タチさん?」
「援護だ! タチさんを援護するんだ!」
周りが口々に叫ぶ間に、太刀掛は距離を詰める。
太刀掛の右手が、ジャケットに隠していた小太刀の柄に伸びた。
「貴様ぁ!」
突撃してきた太刀掛に気付いた敵が、銃口を太刀掛に向けた。
しかし、すでに太刀掛の間合いに入っていた。
太刀掛が小太刀を抜き放つ。切っ先が弧を描き、首筋を斬り裂く。
相手は引き金を引く前に絶命した。
さらに返す太刀で、もう一人の頸動脈が断たれる。
太刀掛はサンクに向け、小太刀を投擲した。高速で回転しながら、サンクに小太刀が迫る。
サンクは咄嗟にAUGを盾にした。プラスチック製のボディに小太刀が突き立つ。
サンクが向かってくる太刀掛にライフルを投げた。
太刀掛は手刀でライフルを払い除ける。
その瞬間を狙い、サンクがナイフを抜いた。ナイフが突き出され、太刀掛の頬を掠る。
だが、ナイフを握った手が引く前に、太刀掛はその手を掴んだ。脇に挟み込んで、肘の関節を極める。やがて、右腕から骨の折れる音。
サンクが悲鳴を上げる間も与えず、コンパクトな蹴りを放つ。膝の関節が破壊され、サンクの体勢が崩れた。
太刀掛はそれだけで安心せず、左肩の関節も外してしまう。
「安心しろ、殺しはしない。もっとも、殺してくれ、と懇願するようになるかもしれないがな」
指揮を執っていたサンクが捕まったことで、ナインテラー側は総崩れとなった。統率がなくなったテロリスト達が我先へと逃げていく。
「別働隊は?」
「先程配置に着きました。一人たりとも市街には逃がしません」
勝連は追撃を掛けながら、駿河に尋ねる。
「ここが正念場だ! 残りを一気に殲滅しろ!」
逃げ出した敵は、MDSI側の別働隊に阻まれてしまう。橋という方向が限られた地形も相まって、完全に囲まれた形となった。必死の抵抗も虚しく、次々と撃ち倒されていく。
最後の一人が倒れた時、所々でMDSI隊員による勝鬨が上がった。
――霧生組およびナインテラー混成部隊は、防衛省特殊介入部隊の介入によって幹部トレスの奪還に失敗、同じく幹部のサンクを始めとした多くの戦力を失ったのであった。