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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第4章 無銘の刀
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第23話

 あけましておめでとうございます。

 今年も『冥府の剣』をどうかよろしくお願いいたします。

「テロリストの幹部を捕えたそうだな?」

 東京都千代田区霞が関にある警察庁の一室における、警視総監からの第一声がこれである。

「さて、それは……」

「そうなのだろ、(いわお)君」

「念のために言っておくが、広域指定暴力団霧生(きりゅう)組組長霧生利彰(きりゅうとしあき)の別邸が襲撃を受けたという情報が入っている」

 MDSI司令官、(いわお)峰高(みねたか)の弁明を、千葉県警本部長が遮る。

「まさか我々の仕業とでも?」

「ハハハ、そこまでは言わないよ。前回のときに()を刺したばかりだしな」

 あくまでもにこやかに話を進めてくる。

「で、実際はどうなのかね? その……ナインテラーだったかな、幹部を捕えたというのは?」

 巌は溜息を吐き、

「確かに捕えましたが、それが何か?」

「いや、我々警察の役割は国民の安全な生活を守ることだ」

「知っていますが?」

 相手の意図が分からず、巌は困惑する。

「治安維持のためにも、テロ組織ナインテラーの全容を知らねばなるまい……そうではないか?」

「知らないと、唯一対処できる我々が勝手に倉庫を爆破したりするからですか?」

「いやいや、これは我々の使命だよ。だからこそ、その幹部に尋問しなければな」

 どの口が言うか、と思いつつ、

「その内容が欲しいのなら、防衛省を通してくれれば差し上げますが?」

「ほぅ、順調、ということかな?」

 随分と痛いところをネチネチと指摘してくる。

「残念ながら、難航しています。ゆえに差し上げられる調書がありません」

「まだ聞き出せていないのか?」

 それには言外に「遅いのではないか」というニュアンスが含まれているように感じる。

「えぇ、ですが必ず……」

「いや、君達にそれ以上の労力を使わせるわけにもいかないだろう。我々が聞き出す。公安の者を向かわせよう。移送の準備を頼もうか」

「お待ちください。トレスの身柄を差し出せと言われるので?」

「直接聞き出した方が早いだろう?」

 これが今日の本題か、と巌は思いつつ、

「お言葉ですが、トレスを捕える際にこちらにも被害が出ています。我々にも面子があるのです」

 すると、警視総監は勝ち誇った笑みを浮かべ、

(いわお)君、すでに防衛省からの許可は得ているのだよ」

「その通り。早急な対応をお願いしたいものだねぇ」

「くだらん面子など、邪魔なだけだ。捨ててしまいたまえ」

 周りの幹部たちが口々に巌を糾弾する。

 ――くだらん面子に囚われているのは、貴様らの方だろうが。

 彼らは、結局警察の威信のために、トレスの身柄を要求しているのだ。

 本音を言えば、トレスを渡したところで、彼らが聞き出せる可能性は低い。

 だが、防衛省上層部の許可がある以上、渡さねばならない。もし拒めば警察側からのMDSIへの協力を望めなくなるだろう。



 都内にある巨大な屋敷。

 襖を開けることで数部屋分広く取った空間に、男達が顔を揃えていた。

 男達は、上座に座る一人の男を注視している。

 霧生利彰(きりゅうとしあき)

 関東広域指定暴力団、霧生(きりゅう)組の組長――ここに揃ったヤクザ達の長であり、霧生組を広域指定暴力団まで押し上げた張本人だ。

 配下が崇拝にも似た目を向けている中、一人頭を下げ沈思している男がいた。

 霧生組若頭補佐、牛頭(ごず)隆輔(りゅうすけ)である。レスラー上がりの、強靭な筋肉に覆われた巨体が、プレッシャーに潰され、今は小さく見える。

「牛頭」

 利彰がその名を呼んだ。冷淡な声だった。

「組長……」

 逆に、牛頭の声は震えている。

「今回の失敗、目に余る」

 その一言で、牛頭は自分の運命が決まったことを悟った。

 利彰が立ち上がり、左手で拳銃を抜く。

 ワルサーP38――第二次大戦時にドイツで開発された自動拳銃。表面仕上げの色合いからアメリカ軍からは『灰色の幽霊(グレイゴースト)』の別称で恐れられるとともに羨望の的とされていた。

 利彰がスライドを引き、初弾が装填された。牛頭の額に、銃口が当てられる。

「お待ちいただけませんか?」

 引き金が引かれる前に、声が上がる。

 声の主は、この場の雰囲気に合わぬ、アングロサクソン系のヨーロッパ人だった。

「ナインテラー……これは俺の組の問題だ。協力関係があるとはいえ、余所者が口を挿むな」

「それは分かっていますとも。ただ、簡単に始末してしまうのも惜しい話と考えましたのでね」

 ナインテラーの九人の幹部の一人、No.5サンクは退かず、むしろ不敵な笑みを浮かべる。

「どうでしょう。彼の処分、我々に任せていただけませんか?」

「どうしようというのだ」

「先程、同士トレスが警察庁に護送されるという情報を手にしました」

「……ほぉ」

 利彰はP38に安全装置を掛けると、銃を懐に戻した。

「つまりは、兵力が欲しい、ということかな?」

「ご明察の通りで……無論、我々ナインテラーの部隊が先頭に立ちますが、お貸しいただければどれほど心強いことか……」

「正直なのはいいことだな」

 利彰は上座に戻り、

「牛頭、最後の機会だ。金牛会の残りの戦力でナインテラーを援護しろ」

 と、命じる。

 牛頭は低頭したままその命令を聞くしかなかった。それしか、彼が生き延びる道はないのだ。

「……仰せのままに」



 こうして、それぞれの思惑が水面下で蠢いていく。

 最新話は主人公パワーアップ回を予定していたのに、結局うまくまとまらずにこの内容……そして、4か月かかってこの短さである。


 どうしてこうなった! どうしてこうなった!

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