第13話
倉庫入口近辺の物陰に潜み、勇海新達は各々の銃を構え、その時を待っていた。
勇海が持っているのは、先程狙撃に使用したM24ではなく、SG552アサルトカービン。この銃はスイスのSIG社が開発したSG550アサルトライフルの銃身を短機関銃クラスの大きさにまで切り詰めた、特殊部隊向け短縮モデルだ。ハンドガード下にフォアグリップ、上部にはダットサイトを追加してある。
「うずうずするぜ」
勇海の隣では、龍村レイモンドが小声で凶暴な台詞を吐いた。
彼は、イタリアのフランキ社製の戦闘用ショットガン、フランキスパス15を構えている。
銃声が響いた。
入口に立つ二人の見張りが「何だ?」と懐に手を伸ばす。
さらに二、三度銃声。
男達はようやく倉庫の屋根から聞こえてくることに気付いた。それと同時に、こちらへの注意が御座なりになる。
勇海は左手で、望月香と梓馬つかさに合図を送った。
二人の女は飛び出ると、それぞれの銃を男達に向ける。
望月の持つQBZ-97Bから発射された5.56mmNATO弾と、梓馬の持つFN P90から放たれた5.7mm×28弾が、男達を撃ち貫いた。
QBZ-97Bは、中国の北方工業公司社が開発したQBZ-95(中国軍採用名95式歩槍)のバリエーションモデルの一つである。ブルパップ式という、銃床の中に機関部を収めることで、銃身の長さを保ちつつ、銃全体の大きさをコンパクトにまとめた形状を持つ。さらに銃身を短くしたカービンモデルであるQBZ-95Bを輸出用に5.56mmNATO弾に対応させたのが、望月の持つQBZ-97Bである。
一方で、梓馬が使用するP90はかなり特異なシルエットを持つ短機関銃だ。元々は軍の後方支援部隊の自衛用として開発されたが、この銃のために作られた5.7×28弾の持つボディーアーマーへの貫徹力から、特殊部隊に採用されることが多い。さらに、銃身の上に平行するように設置されたこれまた独特の弾倉には、五十発という破格の装弾数を誇る。
レイモンドが、スパス15をドアノブに向けて発砲した。一粒弾がドアノブを砕く。レイモンドがドアを蹴り破り、勇海はそれに続いた。
入ってすぐにヤクザ二人に遭遇した。手には拳銃を持っている。
レイモンドのスパス15が再び火を噴き、一人の首から上を粉砕した。
勇海もSG552を向け、もう一人の胸に5.56mmNATO弾を二発叩き込む。
取引現場に踏み込むと、天井に意識を向けていた霧生組の組員達が、一斉にこちらに向け、持っている銃を撃ってきた。勇海達は倉庫内に積まれた箱や、倒した机を遮蔽物にしてやり過ごす。
彼らの使用している拳銃は、中国コピーのトカレフやマカロフが大半だ。銃撃の合間を縫って撃ち返すが、何人かの組員がAKアサルトライフルや短機関銃で、さらに激しく弾幕を張ってくる。
何度目か、勇海が組員を撃ち倒したとき、確保対象の二人が数人の部下を率い下がっていくのが見えた。
「奴ら、裏口に向かってるな」
勇海が空になったSG552の弾倉を換えながら言う。
「作戦通りだな」
勇海達とは別行動をとっていた綾目留奈達は、件の倉庫の裏口を見張っていた。すでに外に配置されていた霧生組の男達は全て片づけてある。
ルナが装備しているのは、HK MP7。H&K社がFNハースタル社のP90に対抗して開発した短機関銃である。この銃専用の4.6mm×30弾はボディーアーマーに対し優れた貫通力を持つ。さらに、P90と異なり、既存の短機関銃に近い外見をしているため、P90に比べ癖を感じにくい。
杏橋楠が持つのは、イタリアのベネリ社製ベネリM3ショットガン。セミオートとポンプアクションの切り替えが可能な戦闘用散弾銃だ。
さらに横では、姫由久代がHK G36Cアサルトカービンを構えている。Cは「Compact」の頭文字で、ドイツ連邦軍が制式採用しているG36アサルトライフルの特殊部隊向け短縮モデルだ。ダットサイトとフォアグリップが取り付けられている。
弦間匠が使うのは、イスラエルのIMI社製のブルパップ式アサルトライフル、ダボールの銃身短縮モデル、CTAR21だ。
力石満は、ドイツの傑作ライフルHK G3の簡易狙撃銃版、G3SG/1を倉庫に向け続けている。
暫定的に指揮を執っている太刀掛仁は、HK MP5K-PDWを所持している。特殊部隊に採用されることが多いMP5短機関銃の銃身を短縮したMP5Kに、折り畳み式ストックを追加したモデル。
中では、すでに激しい銃撃戦が展開されているらしく、聞こえてくる銃声がその様子を物語っている。
裏口のドアが開いた。中からナインテラー幹部のトレスと霧生組若頭補佐、松澤昌樹が出てきた。
「うまく引っかかったわね」
ターゲットの周りには、ナインテラーの構成員と思われるロングコート姿の男が六人、霧生組の組員が四人。
力石が先手を打ってナインテラー構成員を狙撃した。7.62mm弾が男の頭を貫通し、中身を弾けさせる。
さらにルナと久代が、松澤周りのヤクザに銃口を向け、掃射。瞬く間にヤクザ四人が倒れた。
「よし、まずは一人!」
楠が松澤の身柄を確保しに突っ込む。
しかし、あまりにも楠の行動は性急過ぎた。
「クッス、下がって!」
ルナが警告する。
「え?」
いつの間にか楠に近付いていたナインテラーの一人が、ロングコートから短機関銃を抜いて向けていた。
旧チェコスロバキアCZ社製、Vz61スコーピオン――小口径の.32ACP弾を一分間に七五〇発の速度で撃ち出す、コンパクトな短機関銃が火を噴く。
反射的に楠もベネリM3を男に向け発砲したが、遅かった。散弾が男を蜂の巣にすると同時に、楠も弾丸を受け、倒れる。
別の男が、Vz61を倒れた楠に向けた。
だが、引き金を引く前に、男は力石の狙撃で頭を撃ち貫かれ、楠は事なきを得る。
「ヒサ、援護!」
ルナはMP7を撃ちながら楠の傍に寄る。遮蔽物に隠れるために楠の身体を担ぐと、楠の口から苦悶の声が漏れた。
「クッス、しっかり!」
ルナが叱咤すると、
「ぼ……」
「ぼ?」
「防弾ベストがなかったら死んでた……」
「でしょうね」
楠は胸や脇腹を撃たれていたが、幸いにも防弾ベストを貫通されていなかった。Vz61に使用される.32ACP弾がそれほど貫通力に優れていないおかげだろう。
しかし、弾丸が止まっても着弾の衝撃は伝わったはずだ。肋骨にひびぐらいは入ったかもしれない。
「ところで、松澤は?」
楠の言葉に、ルナはハッとなって周囲を探る。今も応戦しているナインテラーの構成員と、射殺したばかりの死体しかない。
ふと、揺れている裏口のドアが目に入った。
「まさか、中に戻ったの?」
確かに、中にはまだ組員が大勢いるだろうが、銃撃戦が繰り広げられている中に戻るなど正気を疑ってしまう。
「どうする?」
楠の問いに、ルナは、
「決まってるでしょ、捕まえてやるのよ、私たちの手で!」
「上等!」
楠がルナの言葉に応えるように、ベネリM3のポンプアクションを作動させ、空薬莢を排出する。
二人は、倉庫内へ突入した。