第123話
――三年前。横浜港近くの倉庫街にて――
三人組のチンピラ達が、辺りを見渡しながら歩いていた。明らかに堅気ではないギラついた目つきで、見る者が見れば懐に拳銃を隠し持っていることが分かる。
その三人が積み上がったパレットの近くを通り過ぎた瞬間、一人の男が背後から襲いかかった。
手に持っているOKC-35銃剣で一人目の喉を掻き斬り、振り向いた二人目の首に切っ先を突き立てる。
三人目が慌てて距離を取り、拳銃を抜く。
だが、引き金を絞り切る前に、男の眉間が撃ち抜かれた。
「おいおい、しっかりしてくれよ、大将」
銃口にサプレッサーを装着したSIG P226を持つ男がダメ出しをする。
「うるせぇよ。お前が撃たなくても、片付いてたんだよ、ユーミ」
止めを刺した男から銃剣を抜き取った、治谷洋が口を尖らせる。
「どうだかな」
勇海新は笑って返す。
『二人とも、喧嘩はそのくらいにして』
通信機から咎める声。
「マドカ。そっちの首尾は?」
『もう片付いたわ。合流、よろしく』
「了解」
二人は言い争いを止め、合流地点に向かった。
ある倉庫の入り口近くに置かれたコンテナの裏で、他のメンバーと合流する。
「なんで貴方達はすぐに喧嘩するのよ」
結城まどかは呆れていた。
「いや」
「こいつが」
勇海と治谷が同時に互いを指して罪を擦り付け合った。その様子にまどかは溜息を吐く。
「まぁ、喧嘩する程仲がいい、ってことにしておこうか」
そんなやり取りを見て、雲早柊が笑って済まそうとする。
それは四人にとって、いつものありふれた光景であった。
勇海新は同期の雲早柊、結城まどか、そして治谷洋と共に任務に就いた。
内容は、日本への麻薬ルート開拓を企み進出してきた、南米マフィアの拠点殲滅。
このマフィアが持ち込もうとした薬物がかなり厄介な代物だった。俗に言う危険ドラッグ――規制されていないのに、規制されている薬物と同等の成分を持つ薬物だった。
麻薬の摘発は、日本ではいたちごっこ、海外ではモグラ叩きなどと揶揄される。一つを規制しても、成分や効果が酷似したものがすぐ出回るのだ。
今回、すでに先見隊が持ち込んだものをMDSIが押収し、医療科学班が調査した。ヘロインと同等の効果を持つ上に、中身の配合に掛かる費用が格段に安く済んでしまうという検証結果が出た。こんなものが世に放たれれば、瞬く間にこの薬物に汚染される。
つまり、世に出る前に製造法含め完全に破棄する必要性が出てきたのだ。
あいにく、勝連や太刀掛といった主要な幹部や隊員達が手を離せない状況であった。そんな中、偶然にもそれぞれの任務を片付けたばかりのこの四人に、白羽の矢が立ったのだった。
四人が隠れているコンテナから見える倉庫の一つが、敵の拠点であった。情報では、あの中には持ち込まれた薬物はもちろんのこと、製造設備も持ち込まれた疑いも持たれていた。
「で、堂々と正面から行くの?」
まどかの疑問に、勇海は「あぁ」と応え、
「こっちは人数が少ないんだ。むしろ分けた方がこちらの分が悪くなる」
「なら、一気に攻め込んで、逃げられる前に一気に殲滅しちまおうって腹か」
「そういうことだ」
と、途中で口を挟む治谷に相槌しつつ説明した。
「何でこういうところは意見が合うの?」
まどかが指で眉間を押さえるが、
「まぁ、そういう奴らだし」
と、雲早が慰めた。声には諦めが滲んでいる。
四人は武装を整えた。
勇海はSG552カービンを主武器とし、サイドアームには先程使ったP226と合わせ、愛用の回転式拳銃を装備している。
治谷はナイツ・アーマメント製アサルトライフル、SR-16の銃口下に銃剣を取り付けた。バックアップにM1911もショルダーホルスターに納める。
雲早はスリングでロシア製の散弾銃、サイガ12Kを背負った。この銃はロシアのAKアサルトライフルシリーズを基に開発され、堅牢な作りをしている。さらに、HK416カービンを所持。サイドアームにはチェコ製の自動拳銃Cz75二丁をホルスターに納めていた。
まどかはミニミ軽機関銃を持つ。ホルスターには、愛銃であるSIG GSRが納まっている。
とにかく待ち構えているであろう敵に対して人数が少ない。そのため、自然と重装備になった。
「よし、行こうか」
勇海が、さらにMGL-140リボルビング・グレネードランチャーを構えた。回転式の弾倉に、六発の榴弾が装填されている。
「じゃ、いつもの通り、俺がポイントマン、か?」
と治谷。
「狙撃銃はないが、援護は任せろ」
と雲早。
「バックアップは任せて」
とまどか。
それぞれが役割を確認し、勇海が倉庫のシャッターに狙いを点け、引き金を絞った。放たれた榴弾が、放物線を描きながら命中し、爆発を起こす。
四人はシャッターに開いた穴から、内部に突入した。