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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第3章 悪意の蠢動
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第116話

 千葉県内に位置するMDSI本部にて――

 扉が乱暴に開かれたかと思えば、「太刀掛(たちかけ)さん!」と入ってきた男が呼ぶ。

「やぁ、勝連(かつら)さん。しばらくぶり」

「そちらも、我々が不在の内に大変なことが起きていたようですね」

 太刀掛(たちかけ)(ひとし)勝連(かつら)(たけし)が言い合う。

 さらに開いている扉から、勇海(ゆうみ)(あらた)雲早(くもはや)(しゅう)英賀(あが)(あつし)といった主立った面々が入ってくる。

「あぁ。ひとまず、ユーラシアのテロリストどもは片付けたが、今一つ、別勢力が介入して来ようとしている。邑楽(おうら)、説明を頼んでもいいかな?」

 太刀掛は同室内にいた諜報部の長である邑楽(おうら)(みやび)に話を振る。

「えぇ。まず、太刀掛さんが持ち帰ったタグですが――」

 机の上に、QRコードの書かれた認識標を置く。

「これは、アメリカの民間軍事会社で使用されているID管理用タグです」

「アメリカだと?」

 勇海が思わず叫ぶが、勝連は無視して先を促す。

「傭兵、か。雇い主は?」

「この会社の商売相手は多岐に渡りますが、ここ最近アメリカからの仕事が多いですね」

「軍、ですか?」

 雲早の質問に、邑楽は黙って首を横に振る。

「アメリカ中央情報局――CIAよ」

「よくそこまで調べられましたね」

 英賀が驚く。

「一見頑丈な防壁も、思いも寄らないところに穴があるものよ――まぁ、ここからは企業秘密だけど」

 邑楽が最後は茶化して言う。

「あれ? 今回僕達が中東に行ったのは、CIAからの情報提供があったからですよね? 何故そのCIAが邪魔を?」

 英賀が疑問を呈する。

「あっちも一枚岩じゃない、ってことだろ?」

 邑楽に代わり、勇海が答えた。

「えぇ……今、まどかが情報提供者にコンタクトを取ろうとしているわ」

 どうやら、すでに司令官の秘書である結城(ゆうき)まどかが行動を開始しているようだ。

「なら、まどかが仕入れてきた情報次第で、これからの方針が決まる、ってことかな?」

「そうなるだろう」

 勝連が答えたところに、「失礼します」の声が掛かった。

名雪(なゆき)。どうしたの?」

「セーフハウスから救援要請です」

 名雪が顔色を変えず、淡々と報告する。

「何だと!」

 驚きの声が上がった。

「いくらなんでも早すぎる」

 太刀掛が呻く。件の女性科学者の身柄を確保してから、まだ一日くらいしか経っていない。

「状況」

「すでに敵に囲まれています。明智(あけち)綾目(あやめ)の二人で隠し通路から対象を待避、残り四人で時間を稼ぐ模様」

「敵は?」

「ユーラシアか別勢力かはまだ判断が付かない模様」

 邑楽の質問に、名雪が答えていく。

「どうします?」

「決まっている。出撃準備! 私から司令官に話を通す。ヘリの準備をしろ!」

「了解!」

 勇海達が慌ただしく部屋を出ていく。

「私も付いて行きましょうか?」

「いいのか?」

「貴方達は戻ったばかりでしょ? なるべく戦える人間は多いに越したことはないわ。うちの忍坂(おしざか)がヘリを動かせる。それに、名雪と花和泉(はないずみ)の技術もあった方が対処しやすいんじゃなくて?」

 邑楽の提案に勝連は少し考え込み、

「分かった。その言葉に甘えよう」

 勝連が今度は太刀掛に向き合い、

「タチさん、すまないが貴方は待機していてくれ」

 と、珍しく渾名で呼んで頼み込む。

「どういうことだ?」

 太刀掛が疑問符を浮かべる。一緒に行くつもりだったようだ。

「敵の規模が分からない以上、全ての戦力を一カ所に集中するわけにはいかない。いざというとき、タチさんが居てくれれば、大抵の状況を任せられます」

 勝連の言葉に、太刀掛が息を吐き、

「お前の言葉じゃなければ、何か体よく遠ざけられていると感じるところだ」

 と、苦言を言う。

「すみません」

「言うな。安心しろ、信頼には応える。それが私の役割であり、責任だ」

「ありがとうございます」

 勝連が頭を下げる。

「よせ。若い隊員達が見ていたら示しが付かんぞ。それよりも、今は隊長としての責務を果たすべきだ」

「はい」

 再度頭を下げ、勝連も動き出す。



 一方、セーフハウスでは新たな動きがあった。

 ユーラシア人民解放軍とは別の部隊――勝連達が想定した通り、民間軍事会社の面々が行動を起こす。

 セーフハウス玄関からちょうど真逆の、すでに一度侵入された後にシャッターの閉まった窓に近付く。

 シャッターの近くには、侵入を援護した後、シャッターに阻まれて次にどうするか迷う男達がうろうろしていた。

 PMCの男達が、相手に気付かれる前にM4カービンを発砲し、片付ける。銃口には減音器(サプレッサー)が付いているため、音ですぐにバレることはない。

「よし、吹っ飛ばせ」

 隊長が命じると、隊員の一人が、対戦車砲のFFV AT4を構えた。

 対戦車榴弾が発射され、シャッターに命中して爆発した。

「A班は突入。B班、C班はユーラシアの妨害をしろ。全滅させる必要はない。対象確保までの間、A班に意識が向かないようにしろ」

 隊員達が「了解」と応え、散っていく。

 隊長を含めたA班に分けられた男達が、先程の爆撃で開いた大穴から室内に侵入した。

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