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冥府の剣  作者: 梅院 暁
第2章 同じ顔の女
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第107話

 約二時間の移動で、目的地に到着した。

「お待たせ」

 望月(もちづき)が、見張っていたルナと(くすの)の二人に声を掛ける。

「姐さん」

「お疲れさまです」

 二人も気付き、返事をする。

「他の支部からの人員はまだみたいだな」

 太刀掛(たちかけ)明智(あけち)も現れた。

「今回、どれぐらいの人員を導入するんですか?」

 明智が、疑問を口にする。

「かなり急だったから、各支部につき二、三人程来れるかどうか、ってところだな……精々十人が限界か」

「……大分、厳しいですね」

「少数精鋭の辛いところね」

 明智の言葉にルナが口を挟む。

「――数が多いと、どうしても変なのが混ざってしまう」

 突然の第三者の声に、一同が驚く。

名雪(なゆき)、せめてちゃんと姿を現してから喋ってくれ」

「……失礼しました」

 暗がりから、一人の女性隊員が現れる。諜報部の、名雪(なゆき)琴音(ことね)だ。一切の足音も出さずに歩くため、太刀掛の視線を追ってようやく登場に気付く。

「驚いたわ。いつから?」

「……ついさっき。トレーラーの後で別の車が出ていったのを付けていた。そうしたら、ここに着いた」

 望月の質問に名雪は答える。

「今は、バレない程度に近付いて、敷地周りの様子を探っていた」

「無茶――じゃあないか、あんたの能力なら」

 望月は名雪の回答に嘆息する。

「君が追っていた車両も、この施設に入ったのか?」

「はい」

 名雪が頷く。

「……セダンタイプだったから、荷物を運んだ、とは考えにくい。運んだのは、おそらく人間」

「トレーラーが先行していることを考えれば、そうだろうな」

「幹部でしょうか?」

 名雪の報告と太刀掛の言葉を受け、楠が疑問を呈する。

「かも、な。とりあえず、他の人員が到着しないことには手が出せん。警戒しつつ、増援を待つ」

 太刀掛の言葉で、ひとまず方針が決まった。


 一時間後――

「お待たせ!」

 到着早々陽気に挨拶してきたのは、東海支部の支部長、駿河(するが)(しん)だ。直属の部下である清水(しみず)(せい)子桃園(こももぞの)(まい)も同行している。

「すまんな。東海支部に引き返して早々に援軍を頼んで」

「お気になさらず」

 駿河が応える。

 一方で、望月が子桃園に尋ねた。

「で、実際のところどうだったの?」

「移動中、ずっと奥さんに弁明してたヨー。まぁ、あんまり出張多いと浮気を疑われても仕方ないネー」

「あ、やっぱり」

 駿河がそんな問答を聞きつけ、

「ゴラァ、モモ! 何を勝手に暴露している!」

 と、怒鳴った。

 そんな上司を「隊長、落ち着いてください」と清水が宥める。

「本当にすまんことをしたな……」

 太刀掛が謝る。

「いえ、任務も大切ですから」

 駿河はしっかりと切り替えていた。

 幹部を務めるだけあってそういった精神は流石だな、と明智は思う。


 さらに二〇分近く経って、関西支部からの増援が到着した。

「さすがに、一人が限界だったか……」

 思わず、太刀掛が呟く。

 関西から来たのは、一人の女性隊員だ。一六〇センチ越えの長身に、明るく染めた茶色のセミロングが特徴。

「申し訳ありません。関西でも緊急の案件があり、大半の隊員も手が放せず、支部長の吉弘(よしひろ)もそちらの指揮に掛かっております」

 その女性隊員は堅い口調で応える。

「まぁ、優秀な副官である君を派遣したのは、ジョージなりの誠意か」

 太刀掛はあまり残念そうな様子を見せないようにしている。

「いえ、まだまだ若輩者です」

 太刀掛の世辞にも態度を崩さない。

 それを見た子桃園が、

「リッちゃん、相変わらず堅っ苦しいネー」

 と、言う。

「リッちゃん呼びは止めて」

「いやぁ、リッちゃんはリッちゃんだし。ネー、姐さん」

「そうね、リッちゃん」

「姐さんも止めてください……」

 リッちゃんと呼ばれ続ける女性隊員は頭を抱える。

「ユッキーさん」

「……何、クッス?」

「私、あの人と会うの初めて何ですが……」

 楠が「ねぇ?」と、ルナと明智に振り、二人とも頷く。

「……あぁ、ルーキー組は初めてね」

 その様子に名雪は納得する。

「……彼女は、貴水(たかみ)立帆(りつほ)。関西支部の副長。隊内ではそこそこの古株よ」

 名雪が、彼女にしては丁寧に説明してくれる。

「なんか、渾名嫌がってますね?」

「最初、彼女は『タカ』とでも呼んでと言った……」

 ここで、一度名雪は言葉を切り、

「……イズミが、女の子っぽくない、という理由で、勝手に『リッちゃん』って呼んだ。それを、リオやトッさん、レイモンド……他にも女性陣が中心となって積極的に呼んでいたら、すっかり皆に定着した。本人は今でも不本意みたいだけど」

 ――確かに、あの三人ってそういったことに悪乗りしそうだな。

 ルーキー組はほとんど似たことを頭に浮かべる。里緒(りお)登崎(とさき)、レイモンドの三人は、どうしてもそういったイメージから抜け出せない。

「……ちなみに、私の『ユッキー』も、イズミが勝手につけた」

「まぁ、そうでしょうね」

 ルナが相槌を打つ。

「……基本、本人が呼ばれるのを嫌がる渾名は、イズミがつけることが多い」

「……えっ、ユッキーさんは嫌なんですか?」

 明智が思わず聞く。記憶の限り、渾名で呼ばれて普通に応答していることが多かったからだ。

「別に」

 と、名雪は素っ気なく返してくる。ちらっとこちらの様子を見て、少し考えるような素振りを見せ、

「……私は、むしろ気に入っている」

 と、表情も変えずに言う。

「そ、そうですか」

 明智はこの組織の人間関係というものに疎いため、未だに先輩隊員達の言動に振り回されてしまう。そんな自分の有様に対し、深く溜息を吐いた。


 立帆と合流後、一時間程で新しい隊員が加わった。

「お待たせしましたぁ!」

 開口一番、大声が飛ぶ。

「いやぁ、申し訳ありません! いつでも動けるようにスタンバイはしていたんですが! 全力で駆けつけたんですが! 距離だけはいかんし難く――」

「分かった。分かったから、少し落ち着け」

 太刀掛がその男性隊員の威勢良い掛け声に押されつつも、「どうどう」と宥めようとする。

「はっ! 失礼しましたぁ! この三十刈(みとがり)(わたる)、増援として来た以上は全力で――」

黙れ(シャラップ)

 一緒に来た女性隊員が、背後から手刀を落とす。

 三十刈が、頭を押さえてうずくまった。

「申し訳ありません、タチさん」

「いや……君も大変だな……」

「本当ね。ユズも、ウルサい相方を持つと苦労するでしょう」

 駿河が同情するが、

「いえ、慣れました」

 と、一息入れる。

「報告、遅れました。柚嵜(ゆざき)(りん)、三十刈渡、ただいま四国支部より到着しました」

 そう言って敬礼し、立ち直った三十刈も柚嵜に習う。

 四国支部――ということは、登崎(とさき)(がく)(さつき)里緒(りお)と同じ部隊か、と明智は見当を付けた。

「相変わらず何ですね」

「お元気そうで」

 楠とルナが声を掛ける。

「えぇ、そうでしょうとも! 元気だけが、取り柄ですから!」

「あ、はい」

 ルナがたじろぐ。毒舌家のルナのことだから皮肉のつもりで言ったんだろうが、三十刈は意に介した様子がない。ある意味だな――と明智は思う。

「さぁ、タチさん、これで全員ですか? 敵は? 規模は?」

止まれ(ストップ)

 再度グイグイ行こうとした三十刈の頭を、柚嵜が叩く。

 中々痛い音がしていることを考えると、柚嵜は望月達のような近接戦が得意なのだろうと見当が付く。

「いや、あとは東北支部から二人、狙撃要員が来る予定だが――」

 ここで、太刀掛が携帯を取り出す。

「太刀掛だ」

 どうやら、着信があったようだ。

「――分かった。監視を続けてくれ。こちらも整い次第、次の指示を出す」

 そう言って、携帯を切った。

「東北からの増援は、すでに狙撃ポイントに着いた」

「あら、顔合わせもなしでですか?」

 ルナが驚く。

「あぁ。現在、件の廃工場を見渡せる位置で、狙撃の態勢を取りつつ相手の動きを視ている」

 楠や三十刈、子桃園が辺りを確認した。

「一体どこに……」

「狙撃手が簡単にバレる位置に陣取ってどうするのよ」

 キョロキョロしている隊員達に、駿河が指摘する。

「さぁ、お喋りは終わりだ! 総員配置に付くぞ!」

 太刀掛が指示を出し、集まった隊員達は慌ただしく戦闘準備を開始した。

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