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2話 お昼休みの約束


「百合宮くん!」


 授業が始まった週の昼休み、麗央が教室を出ようとした時、耀がクラスメイト2人を連れて、早歩きをしながらこちらにきた。


「百合宮くん、一緒に食堂でお昼を食べませんか?柿本さんも中村くんも一緒です!」


 淡い光を帯びた瞳が、まっすぐ彼を見つめている。


「ああ。わかった」

「私達は先に行って席取ってるから、美澄さんと百合宮くんは、ゆっくり話しててね!」

「柿本さん…。ありがとうございます!」


 2人は並んで食堂に向かって歩き出す。耀は口を開いた。


「実はね、ひとつ作りたいものがあるんです。『投資同好会』を考えていてーー経済を、数字じゃなくて、現実の息づかい”として学ぶ場所」


 麗央はいつも通りの無表情だったが、少し驚いたような声を出した。


「高校で、そういうのやるのか?」

「うん。頭で覚えるだけじゃなく、自分たちなりに考えたいんです。例えば学校の購買の仕組みとか、地域のお金の流れとか。将来この街を支える仕組みを、少しずつ理解していきたくて」


 耀は笑った。春の光が窓から射し込み、髪が天使の輪のように輝いている。

「まだ、顧問になってくれそうな先生からの条件のメンバー数に届いてないし、正式な部活にもできないけど……百合宮くん、興味あります?」


「…本気なんだな」

「うん、本気だよ」


 耀が鞄から取り出したノートの隅に小さく書かれた文字——『投資同好会(仮)』


 二人の前で、それはまだ芽吹いたばかりの夢のようにかすかに揺れていた。



「正直なところ、百合宮くんを誘うの、少し緊張しました」


 Bランチを受け取り席に着いた耀は、穏やかな目で言った。机の向かいには、すでに2人が座っている。

 美澄と一緒なら、学べる事が多そうだから入る事にしたと言う中村くんと、ボランティア部と掛け持ち希望の柿本さんだ。


「2人には昨日声をかけたんです。だから、もし百合宮くんが入ってくれたら4人になります!」


「俺が4人目、ね」


 麗央は少しだけ視線を逸らした。


 彼はこの町の資産家一家——百合宮家の長男。

 土地も会社も代々受け継ぐ家に生まれ、責任の重さは、幼いころから影のようについてきた。

 「投資」や「経済」という言葉は、彼にとって勉強というより現実そのものだ。


「正直、俺に向いてるのかは分からない」

「でも、見てみたいと思ったでしょう?」


 耀の言葉は、まっすぐだった。


「この地域の“お金の流れ”を変えていくのは、きっと誰かじゃなくて、ここにいる私たちの世代だと思うんです。百合宮くんみたいに、実際の現場を知ってる人がいてくれたら、すごく心強い」


 その一言で、麗央の胸の奥に何かが動いた。パラパラと雨の音が聞こえる。

 耀は新しいノートを開き、ページの最初に「投資同好会(仮)」と書いて麗央へ手渡した。


「お金の“温度”を感じる場所にしたいんです。…入ってくれますか?」

「……分かった。やってみる」


「ありがとうございます!4人揃えば残りのメンバー勧誘は早そうです!」

「俺、購買マイスターの佐藤先輩に声かけてみますね」

「私も、ボランティア部からも紹介してもらえないか、聞いてみるよ」

「…1週間で条件に届くのか?」

「絶対集めます!百合宮くん、一緒に…?」

「…ああ」


 その時購買コーナーの辺りで1人の女生徒が一瞬立ち止まり、複雑な表情をしながら立ち去った。


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