私、泉の女神。「斧はいらないからあなたがほしい!」と言われて困っているの。
私は、泉の女神です。
水の中にものを落とした人の前に現れて、「あなたが落としたのは、金の斧ですか? 銀の斧ですか?」と聞くのを仕事にしています。なぜこんなことをしているのかの理由は、私からは申し上げられませんが。
泉の女神と名乗っておりますが、私はいつも同じ森の中の泉にいるのではなくて、深い水のある場所にならどこにでも登場できます。
この前は海でボールを落とした子どもの前に現れたし、その前は滝壺にバッグを落としたご老人の前に現れました。そうして、「あなたが落としたのは~」の質問を投げかけるのです。
ちなみにどのような返答をしたとしても、私と出会ったことを人間はすぐに忘れてしまいます。「水にものを落としたら女神が現れる」なんて噂になって、海や川に不法投棄する人間が増えてはたまりませんからね。
だからあなたも案外、私と会ったことがあるけれど忘れているだけかもしれませんよ、ふふふ。
さて、私はいつものように神域にこもってゆったりと過ごしていました。
ここは私だけの部屋なので、邪魔する者もおりません――が、神域の壁がぶるぶる震えました。これは、私のお仕事要請がかかった――つまり、この世界のどこかで誰かが水の中にものを落としたという合図です。
今回の赴任先は……ふむ、某王国内にある森の中ですね。神域の結界越しに見えたのは、泉の前で頭を抱えて座り込む若い男性の姿。
金色の髪に、いかにも木こりらしい服装をしていますが……おや、木こりにしては肌がきれいですね。さては、いいところのおぼっちゃんでしょうか。なぜ木こり姿で斧を持っているのかはわかりませんが……それはいいとして。
しばらくすると、私の頭の上から鉄の斧が降ってきました。キャッチしたそれは、特にこれといった特徴のない古びた斧でした。でも刃の部分は丁寧に手入れを施されているのがわかり、大切に使われてきたことが見て取れます。
これをなくして、あの男性はさぞ困っていることでしょう。
「さて、お仕事お仕事ー」
一旦鉄の斧を脇に置いた私は魔術を展開して、右手に金色の斧、左手に銀色の斧を作り出しました。これは本物の斧じゃなくて、私が魔術で作った幻影です。
私はそれを手に、とんっと床を蹴って結界の外に出て――
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか。それとも銀の斧ですか」
ざばっと泉から現れるなりそう言ったので、目の前にいた男性がぎょっとしたように私を見てきました。
近くで見ると、なかなか整った顔立ちをしていることがわかります。なんとなく、町で女の子をナンパするのが好きそうな雰囲気です。私は女神だから、そういうことも知ってるの。
男性は、いきなり現れた私を見て呆然としています。まあ、そうですよね。
とはいえ私ももう百回近くこのやりとりをしてきたのですし、びっくりされるのには慣れています。
私は男性ににっこり微笑みかけて、両手に持つ斧を見せます。
「さあ、あなたが落としたのはどちらですか?」
「……た」
「はい?」
「斧はいらないからあなたがほしい!」
男性が秀麗な顔を真っ赤にして、そう叫ぶものだから。
今度は私のほうが、呆然としてしまいました。
木こりが選んだのは金の斧でも銀の斧でも、ましてや鉄の斧でもなくて、泉の女神でした。
……って、ちょっと待てーい。
「あ、あの。私の質問にちゃんと答えてくださいね?」
「答えました! 俺は、あなたに一目惚れした。だから結婚してください!」
あれー? プロポーズまでされちゃいましたよ?
男性は真っ赤な顔を満面の笑みで染めて、その場に跪きました。
「女神様……これもきっと運命でしょう。どうか、俺と結婚してください! 一生大切にします!」
「いえ、あの、ちょっと待って?」
「いくらでも待ちます!」
「いや、そういう意味じゃなくて」
いかん、女神ともあろう私が人間相手に後れを取るわけには。
私は深呼吸してから、なるべく愛想よく見えるよう努力しつつ微笑みかけました――が、それを見た男性が「ウッ!」とうめいて胸を押さえました。
「そ、その微笑みは卑怯です! 俺を心不全にするつもりですか!?」
「そういうわけでは……じゃなくって。あの、人間さん」
「俺のことはエリックとお呼びください! なんなら『ダーリン』や『あなた♡』でも!」
なんで結婚する前提の呼び方なんですか。あと、♡は必要ですか?
「では、エリック。私はあなたのお察しのとおり、女神です。私はあなたから、どの斧を落としたのかの返事を聞くのが仕事です。それ以外の話をするつもりはございません」
「つれないところも素敵だなぁ……」
「耳にミニトマトでも詰まっているんですか?」
「耳には詰まっていないけれど、俺の心臓はあなたへの恋情のあまり、熟したトマトのように弾けそうになっていますよ」
エリックはそう言って、ウインクをひとつ。
……どうしましょう。
今回の人間はとんでもないアホの子だったみたいです。
「だから、金の斧か銀の斧かを答えてください」
「斧はあげるから、代わりにあなたをください」
「無理」
「そこをなんとか!」
「無理ですっ!」
「こんなに愛しているのに、なんで!? 俺の女神様、結婚してくださいよー!」
「無理無理無理ですってばー!」
エリックが愛を叫ぶのが恥ずかしくて、私はとうとう泉の中に逃げ帰ってしまいました。
すぐさまエリックの「女神様ぁぁぁぁぁ」という悲鳴は聞こえなくなり、神域に戻った私はぐったりと伸びてしまいます。
……ああ、そうだ。鉄の斧もここに置いたままでした。
「今度、適当に返しておけばいいわよね」
それに、エリックも既に私のことは忘れているはず。
私は、同じ人間には二度と会わないのですから。
……ということで、せめて鉄の斧だけはエリックのところに返そうと思い、私は森の中の泉にふたたび現れたのですが。
「ああっ、女神様ぁぁ!」
「きゃああっ!?」
ざばあっと登場するなり、私に飛びかからんばかりの勢いでエリックが泉に身投げをしました。私の姿は幻のようなものだから当然彼の腕はすかっと空を掻き、そのままどぼんしました。
私の足下でざばざばと泉の水が波打ち――そしてしばらくして、しんとしました。
……え?
これ、まずくない?
「ちょっ……エリック!」
私はすぐさま魔術を展開して、泉に沈んでいたエリックを引っ張り出しました。全身ずぶ濡れのまま宙に浮かんだエリックは呆然と私を見て、そしてへらりと笑いました。
「……あ、はは。俺、死んだかと思った」
「人間は、水の中では生きていけないのでしょう! 馬鹿なことをするんじゃありません!」
「女神様に叱ってもらえるなんて、嬉しいなぁ……うっ、げほっ」
この期に及んでそんなことを言うエリックをぽんっと岸に放り、ゲホゲホむせる彼を見ながら私は考えます。
これまで私が出会ってきた百人ほどの人間は皆、私の問いかけになんらかの返事をしました。そしてその返事によって、私はふたつの反応を返します。
まず、人間が正直者だった場合。そのときは水の中に落としたものを返却した上で、その人が選ばなかったものも『報酬』として渡します――が、私が水の中に戻った瞬間、その人は私のことを忘れて受け取った『報酬』も消えてなくなります。
しかしその代わりに、正直な人間にはちょっとした幸運が舞い込みます。私と出会った記憶をなくす代わりに、小さな幸運が一生寄り添う。それが正直者に渡す『報酬』の正体です。
ですがもし、欲に負けて嘘をついた場合。私はその人に落としたものを帰さず、水の中に戻ります。するとその人は私と出会ったことを忘れるし、水に落としたものも戻らず終い。これ以上は、特にペナルティは与えません。
つまり、私の問いかけにちゃんと答えてくれなかった阿呆な人間は、この人が初めてなのです。
……もしかして、この人が私のことを忘れなかったのは、あの問答が完結していなかったから? 鉄の斧も私の手元にあるし、私の今回の仕事が終わっていないということなのでは……。
……そ、それはまずいです。
「あの、エリック。私が前回あなたと出会ったのは、いつのことですか?」
私が尋ねると、最後に大きな咳をしたエリックは「昨日です」と答えた。
「あなたのことがずっと、忘れられなくて。だから意地でももう一回会うんだと決めて、森の中に張り込むつもりでした」
そう言う彼の近くを見ると、寝袋や食料の入った袋、テントなどが置かれていました。
……この人、本気で私を出待ちするつもりだったのですね。
「私のことは、誰かに言いましたか?」
「いいえ。こういうのって、誰かに言ったら泡になって消えてしまうとかいうじゃないですか。だから、誰にも言っていませんよ」
私が一番気になっていることを尋ねるとそう返したので、ほっとしました。
「それならよかったです、ありがとうございます」
「どういたしまして! ……これからもこうやってあなたに会いたいなぁ」
「だめです。それに、昨日の答えももらっていません」
私は改めて、両手の中に金の斧と銀の斧を出しました。
「ほら、あなたが落としたのが何の斧なのか、早く答えてください」
「えー、でもそれを言ったらもうあなたに会えなくなるんでしょう?」
……やっぱり、ばれてしまったようです。
エリックはにやりと笑い、私を見上げてきます。
「それなら俺、ずっと言わない。それで、死ぬまでこの泉に通い詰める」
「私、そういうやり方をする人は嫌いです」
「ご、ごめん。でも……答えたら会えなくなるなんて、嫌です」
エリックは素直に謝ってから、しゅんとうなだれました。
「本当に、女神様は俺の理想の人なんです」
「はぁ」
エリックはそう言うけれど、全く信用なりません。というのも、私の見た目は『無難』なものなのですから。
見た目は、二十代半ばくらいの人間の女性を想定しています。水にものを落とすのは子どもの場合もあり、これくらいの見た目が一番警戒されにくいからです。
髪は黒で、腰までの長さがあります。顔立ちは美しくも醜くもなく、幅広い世代の人間に受け入れやすい外見であるようにと、私の上司である世界神様が意識して私をお作りになったのです。
いわゆる量産型女神な見た目だからか、私のこの外見で警戒されたり逆に惚れ込まれたりすることはありませんでした。
ですから……このアホの子もといエリックが、おかしいのです。
「俺、結婚するなら黒髪ロングのお姉さんがいいなぁって思ってたんです。本当に、女神様は俺の理想をそのまま顕したかのようで。絶対絶対、結婚したいんです!」
「それ、ただのあなたの性癖ですよね?」
「俺は正直者なんです!」
「欲に正直なだけでしょう」
「というかそもそも、女神様は人間と結婚できないんですか?」
エリックが尋ねるので、私はうなずきました。
「はい。私は世界神様が創造した、末席といえど神族に連なる者です。私はこの世界でもう百年以上もの間、この姿で仕事をしています。それに私は、深い水のある場所以外には行けません」
「じゃあやっぱり、俺がここに通い詰めます。だから、結婚しましょう」
「先ほど、あなたは私に触れられなかったでしょう? 私では、人間の男女のように指輪を交換し合ったり口づけをしたりはできません。当然ながら、あなたの子を産むこともできません」
「いいよ、それで。俺、じじいになって死ぬまでここで女神様のそばにいるから」
エリックは、冗談のかけらもない瞳でそう言います。
……この人、本気でそんなことを言っているの?
「女神様。俺、ずっと待つ。卑怯と言われても、ずっと答えを保留にする。それくらい……あなたのことが、好きなんです」
「エリック……」
……どうしたのでしょう。
人間のような臓器は、私の体にはないはずなのに……胸の辺りが、むずむずします。
エリックの顔を見ていられなくて、私は泉の中に逃げ帰りました。
いつもなら落ち着ける神域の中だというのに、人間だと心臓のある場所はずっと騒がしいままだし……隅に転がっている鉄の斧を見るたびに、それは激しくなるのでした。
宣言どおり、エリックは私がそうっと泉の様子を見に行くと、必ず近くにいました。
どうやら彼はいいところのおぼっちゃんですが、母方の祖父がこの泉のある森林を所有しており、その木を切って薪として売ることを生業とする商人だそうです。
エリックは普段は王都にいて、仕事が長期休みのときに祖父の家に帰った際にきこりの仕事を手伝わされ……そうして私と出会ったそうです。
今も私の神域に置いている斧は、取っ手の部分だけを変えながら代々使ってきたものらしく、だったら早く返してあげたいけれど、彼が「俺が落としたのは鉄の斧です」と言わない限り、返すことができなかったのです。
「はい、女神様」
エリックはそう言って、泉にぽちゃんとなにかを落としました。
私はそれを確認してから泉から出ます。
「……あなたが落としたのは、このルビーのネックレスですか? それともサファイアのネックレスですか?」
「俺が落としたのは、ルビーのネックレスです」
「……あなたは嘘つきですね。この……貝殻のネックレスは、返してあげません」
「うん、それ、女神様に似合うと思って作ったんです」
エリックはそう言って、にっこり笑います。私は幻だった二つの豪華なネックレスを消し、貝殻の――彼が私のために作ったネックレスを手の中に乗せます。
彼が自分で作ったという貝殻のネックレスは、とても素敵でした。ルビーやサファイアのようなきらめきはないけれど、一つ一つ丁寧に紐を通していったことがわかる美しい品です。
「……私の神域はそろそろ、あなたから贈られたものでいっぱいになりそうです」
ネックレスを神域に戻してから、そう言ってやります。
エリックは私とのやりとりのコツを掴んだようで、いろいろなものをぽいぽいと投げ込んでは欲深い人間の回答をします。
花、髪飾り、口紅、靴。どれもエリックがもっと豪華なものを落としたと嘘をつくので彼に返却できず、私の神域に置いておくしかないのです。
そしてこの男は憎らしいことに、鉄の斧だけは頑として答えません。私の仕事が終わらないのはあの鉄の斧が原因なので、彼が斧についてなんらかの答えを発するまで解放してもらえないのです。
「エリック、もうこんなのやめましょう」
「迷惑ですか?」
「……ええ、迷惑です。このままでは私は、世界神様から命じられた仕事を完遂できません」
エリックを傷つけるとはわかっていても、そう答えます。
この前、とうとう世界神様に泣きついたのだけれど、「おまえがよいと思う選択をしなさい」という答えにすらなっていないようなお返事しか来ませんでした。いつもなら何でも相談に乗ってくださるのに、なぜこの一大事に助言をくださらないのでしょうか。
「エリック、あなたは人間です。見たところ若いし、あなたは家を継ぐ必要があるのでしょう? いつまでもこんな森の中におらず、王都に帰りなさい。黒髪の女性なんて、いくらでもいるでしょう」
「だめなんです。女神様じゃないと、だめです」
「……やめて。私は、あなたの愛を受け取ることはできません!」
とうとう、私は大声を上げてしまいました。
……わかっていました。
エリックと過ごし、彼と話し、贈り物をされるたびに、私の空っぽのはずの体の奥で何かがうずいていることに。
人間ならば心臓のある場所が騒がしくて、体温なんてないはずの体が温かくなることに。
エリックのことが……好きになっているということに。
「無駄なのです。どんなに頑張っても、私はあなたと一緒にはいられません!」
「女神様……」
「だから、早くあの日の答えをください。答えてくれさえすれば、あなたは私のことをすっかり忘れられます。私は、あなたに幸せになってほしいのです……」
「女神様は俺が幸せになるために、自分のことを忘れてほしいんですか?」
エリックに真剣な目で尋ねられて……もう、我慢できませんでした。
「……本当は、嫌です」
「女神様……」
「あなたのことが、好きです。……好きになってごめんなさい」
震える声で、そう言います。
辛くて悲しいけれど、私の目からは涙は零れません。私の体に、そんな機能は必要ないから。
エリックははっと息を呑んで……そうして、寂しそうに笑いました。
「女神様……。ありがとう。俺、ずっとその言葉が聞きたかった」
「エリック……」
「ごめんなさい、女神様。俺、十分報われました。……これ以上は、あなたを傷つけるだけですよね。俺は大好きなあなたに、好きと言ってもらえたから……十分です」
「エリ――」
「女神様。俺が落としたのは……祖父から託された、鉄の斧です」
エリックが、澄んだ瞳でそう言う。
ああ、と嗚咽が零れそうになった。
でも私はそれを堪えて、指を振った。すぐさま、神域に置いていた鉄の斧が手の中に現れる。ずっしりと重い――本物の斧だ。
「……あなたは、正直者ですね。正直なあなたに、この金の斧と銀の斧もあげましょう……」
「待ってください。……金の斧も銀の斧もいらないから、最後にあなたとの思い出をくれませんか?」
鉄の斧をエリックに渡したところで、彼は待ったをかけました。そうして、自分の頬をちょんと指で突きます。
「ここに……ふりでいいから、女神様からの思い出を」
「っ……」
涙なんて出ないのに、視界が潤みます。
私は泉から少し身を乗り出し、エリックの頬に顔を近づけました。
「愛しています、女神様」
エリックがそう言うので、
「私も愛しています、エリック」
私もそう答えて、彼の頬に口づけようとした――瞬間。
ぐらっと私の体が前に倒れて、エリックもろとも地面に倒れ込んでしまいました。
「きゃあっ!?」
「わあっ!」
エリックは私を抱き止めてくれたようですが……あ、あら?
「エリック、私……」
「……触れる?」
体を起こしたエリックは、自分の上に乗っかる私を呆然と見てきます。
私はそうっとエリックの頬に触れて――手が貫通せず、人間の温もりに触れられることを確かめました。
触れられる。
エリックの体温が、わかる。
「どういうこと……あっ」
ことんことん、と音がするので何かと思ったら、泉の周りにいろいろなものが散らばっていました。
花や、装飾品や、化粧品……どれも、エリックが私に嘘をついたために神域の中に没収していた贈り物です。
……ああ、なんということでしょう。
私は、泉から離れることができました。
エリックに、触れることができました。
彼からの贈り物も、全部持ってくることができました。
「女神様……」
「エリック……違います。私、もう女神ではありません」
彼にぎゅっと抱きしめられた私は、胸が――心臓が苦しくなりながらも告白します。
私にはもう、女神だった頃のように魔術を使うことはできません。永遠の二十代半ば(仮)でいることもできません。
私の体は、人間の女性のそれと同じです。もう、女神ではありません。
「……いいや。あなたは永遠に、俺の女神ですよ」
エリックは泣き笑いのような顔で言ってから、思い出したようにズボンのポケットのポケットに手を入れます。
「ねえ、女神様。右手の薬指と、左手の人差し指。あなたが指輪を嵌めてほしいのは、どちらの指ですか?」
そう言って彼は、シンプルな指輪をポケットから出すので――
「……いいえ。私が嵌めてほしいのは、左手の薬指です」
私が熱い涙をこぼしながらそう答えると、彼は「あなたは正直者ですね」と笑って、私の左手薬指に美しい指輪を嵌めてくれたのでした。
「ふんふんほーほー……やっぱり12号ちゃんは優秀だねぇ」
ここは、天界。
真っ白な雲のようなベッドに寝そべりぼりぼりとお菓子を食べながらモニターを見ているのは、世界神と呼ばれる者。
彼は様々な神や女神たちを創造し、自分が作った世界に派遣している。そして今回彼はとある世界の『意識調査』のために、某女神を派遣したのだった。
女神が人間に問いかけをしたのは、『意識調査』――自分が作った世界の人間について調査するためだ。今回の女神には、百人の人間を調査対象として「あなたが落としたのは~」の問いかけをして、その結果をデータとしてまとめるよう言いつけていた。
彼が12号ちゃんと呼んだ黒髪の女神は非常に優秀な個体で、よくできる子にはご褒美をあげようと思っていた。
さて、百人のデータもまとまったのでどんなご褒美にしようか……と思ってその世界の様子をモニターで見ていると、ある人間男性の姿が見えた。
森の中で斧を振るい木を切り倒す金髪の彼は、なにやら叫んでいる。
「あーあ! 木を切ったら中から黒髪ロングの尻がでっかいお姉さんが出てこないかなぁー! 俺のお嫁さんになって膝枕で甘やかしてくれないかなー!」
煩悩まみれの欲まみれの男であるが、なかなかおもしろい。
それに探ってみたところ、彼は今こそ祖父の命令で木を切っているが本当の身分は王都の貴族で、ややチャラい雰囲気のわりに一途で真面目な男らしいことがわかった。
12号ちゃんは、この男の理想にぴったりだ。仕事を終えた12号ちゃんに人間の女性の体を与えれば、きっとこの男のもとで幸せになれるだろう。
そうして世界神はすいすいっとモニターをスワイプした。すると場面が変わり、美しいドレスを着た元12号ちゃんが困ったような照れ顔で金髪の男と一緒に教会にいるシーンが映る。
もう一度スワイプすると、立派な部屋で金髪の男が跪き元12号ちゃんの大きなお腹に頬ずりしているシーンが。さらにスワイプすると、たくさんの子どもに囲まれて夫に抱きしめられる元12号ちゃんの姿が映る。
どの元12号ちゃんも、とても幸せそうに笑っていた。
「正直者には、福があるっていうもんね」
世界神はにっこり笑って、別のモニターに視線をやったのだった。
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12号ちゃんには名前がないので、旦那様がかわいい名前を一生懸命考えてくれました。




