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世界が滅びても君が好き  作者: motomaru
7/7

一条和

 健介は明陽が待っているだろうと思いつつも、そのまま教室に戻って来てしまった。

九条に言われた事が頭から離れず、林へ行く気にはなれなかったのだ。

 健介は自分の席に着くと、持っていたサイドバッグから弁当と水筒を取り出して食べ始めた。

 考えてみれば、九条と話している間ずっと弁当を持ったままだった。

それを思うと何だか自分が間抜けに思えて少し落ち込んでしまった。

「あれ?珍しいね、お昼に小日向君が教室に居るなんて」

 学食から戻って来た一条和が、健介が教室に居るのを見つけて声を掛けてきた。

「一条君……」

「今日は明陽兄さんと一緒じゃないんだ?」

 一条は穏やかな顔で尋ねながら、健介の前の席の椅子を引いて向かい合わせに座った。

「あ、うん……」

健介は短く答えた。

(この雰囲気……やっぱり明陽さんと似てるな……)

 そんな事を思っていると、一条が唐突に

「鬼頭さんが来てたでしょ?九条さんに呼ばれた?」

何の遠慮も無く聞いてきた。

 この一条和は一年生であるにも拘らず、鬼頭やビジルのメンバーズを先輩付けでは呼ばないし、九条のことも九条様とは言わない。

それは明陽の従兄弟という事もあるが、それだけ九条と立ち位置が近い事を示している。

「え、あ、まぁ……」

 健介は言葉を濁した。

「何か言われたの?」

一条は健介の様子を探るように、それでいて優しく微笑むようにじっと見詰めている。

「別に、ただ……少し生意気だから自重しろって……」

 健介は咄嗟に誤魔化した。

九条に言われた事を明陽に近い一条に話すのはやはり憚られたのだ。

「そう、何か有ったら僕に言ってね、相談に乗るから」

 一条は屈託無く笑ってそう言った。

「うん、有難う」

健介はそう答えて弁当の残りを食べ始めたが、何故か一条はその後も微笑んだままじっと見詰めている。

(う……き、気不味い……)

 食べているところをじっと見られているのは、あまり心地の良いものではない。

「あの……」

居心地の悪さに我慢しきれなくなった健介がそう言い出したのと同時に一条が口を開いた。

「ねぇ、明陽兄さんみたいに健介って呼んでも良い?」

「え、あ、うん良いよ」

 言葉を遮られてしまった健介は気を悪くするでもなく、一条の問い掛けが唐突だったものの、断る理由も無いのですんなり承諾した。

「良かった。じゃあ、僕の事も和って呼んでよ」

一条がそう言ってニッコリ笑う。

「分かった」

昼休みの時間も残り少なくなっていた事もあり、健介は短く答えてまた弁当を搔き込み始めた。

そんな健介を一条は尚もじっと見詰めている。

(どうしてこんなに見てるんだろ……?)

 そう思っていると、一条が不意にスッと手を伸ばして

「ご飯付いてるよ」

健介の口許に付いていたご飯粒を取ったかと思うと、そのまま自分の口に運んでパクリと食べてしまった。

「え……」

 健介は驚いて一条の顔を見直った。

赤の他人にこんな事をされたのは初めてだった。

母親でさえ小学校の低学年以来そんな事はしたことがない。

「どうしたの?舐めれば良かった?」

 一条がそう言った後で少し小首を傾げて小さくニヤリと笑った。

「グフッ!」

 その途端、健介はむせそうになって咄嗟に口を押さえた。

すると一条は平然とした顔で、当たり前のように水筒のお茶をコップに注いで差し出した。

健介はそれを受け取ると、一気に飲み干した。

「有難う……」

 一応に礼は言ったが、恥ずかしさで耳が真っ赤になっている。

そんな様子を見た一条は

「健介面白〜い。じゃあ、またね」

何食わぬ顔で自分の席に戻って行った。

(絶対からかわれてる……)

 健介は一条の後姿を見ながらそう思った。

これまで一条の雰囲気や立ち居振る舞いが明陽と似ている事から同じような人間だと思っていた。

が、全然違っていたようだ。

「はぁ〜」

 健介は溜め息を吐くと弁当の残りを掻き込んだ。

 それからこの日を境に、何故か一条は健介に付いて回るようになった。 

別段、話しをするわけでもなく、ただ健介に張り付いている。

 数日が過ぎた頃、健介はとうとう我慢出来なくなって

「一条君、どうして僕に付き纏うの?

と言ってしまった。

「じゃあ訊くけど、最近健介はどうして明陽兄さんと一緒にいないの?」

「それは……」

 逆に問い詰められて健介は口籠った。

「やっぱり九条さんに何か言われたんだね?」

健介の様子に一条がまた問い掛けた。

「九条先輩は関係ない……」

 健介は唇を噛んで俯いた。

確かに九条に言われたのは事実だ、しかしそれが原因では無い。

自分が明陽と釣り合わないことは健介自身が一番よく分かっているからだ。

だから、尚さら他人に言われて明陽から離れたと思われたくなかった。

「それなら明陽兄さんと一緒にいてあげてよ」

「…………」

 健介は俯いたまま何も答えなかった。

「明陽兄さんは……今までずっと九条さんに配慮して“お気に入り”を持たなかった、それどころか他の生徒に興味を示す事さえ無かったんだ……その兄さんが用も無いのに声を掛けるなんて、よっぽど健介の事気に入ってるんだよ?皆んな兄さんのお気に入りになりたがってるのに……」

「悪いけど、僕はお気に入りになった憶えも無いし、そんなの……荷が重過ぎる……」

 一条を見直った健介の表情は暗い。

「分かった。もういいよ、健介にはガッカリだ……」

 一条は静かにそう言うと健介から離れて行った。

そしてそれ以降、健介の後を付け回すことは無かった。







 

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