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世界が滅びても君が好き  作者: motomaru
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廊下と食堂と

 次の日、昼休みになるとさっそく明陽がやって来て健介のクラスを覗いた。

それだけで教室にざわめきが起こる。

つまり明陽はそれだけ皆の憧れの的ということなのだ。

「健介、用意出来てる?」

 明陽は戸口から声を掛ける。 

中まで入って来ないのは自分が近づくと教室に居る者達が下級生である為に、頭を下げなければならないからだ。

相手が明陽ならきっと誰もが喜んで頭を下げるだろうが、明陽はそういう事を配慮する人間なのだ。

「はい。出来てます」 

「じゃあ行くよ」

 健介の答えを聞いた明陽は先に歩き始めた。

健介も急いで廊下に出ると、明陽の直ぐ後に付いて行く。

暫くすると

「健介、どうして並ばないの?」

ずっと後に付いて歩く健介の方を振り向いた明陽が気さくに言った。

「えっ……どうしてって言われても……」

健介は口籠る。

(あり得ない……この人は自分の立場を、いや、僕の立場を分ってるんだろうか……?)

 健介は明陽の顔をまざまざと見た。

(明陽さんはいったい自分のことをどう思っているんだろうか?)

と思ってしまう。

 紫苑では上級生と下級生が並んで歩く事などまずあり得ない事なのだ。

並んで歩けるのは兄弟か、或いは余程親しい者でしかない。

つまりそれは“お気に入り”の“証”なのだが、健介はいまいちそういう事に馴染めない。

というよりブルジョワ的習慣が大っ嫌いだった。

 それなのに明陽は自分に並んで歩けと言っているのだ、先程のような配慮を見せるかと思えば、今の様な事を何の気無しに言ってのける。

育ちの違いなのだろうが、健介は時々明陽の考えていることが分からなくなってしまうのだ。

 とはいえ、明陽の置かれている環境を考えればそれも仕方ない事なのかもしれない。

 あれこれ考えていても仕様がないので、健介は渋々並んで歩き始めた。

それだけで嫉妬や妬みの眼差しに晒される、女のも然る事ながら男の妬みだって相当なものだ。

それが明陽と一緒に居る間中、ずっと健介に向けられているのだから堪ったものではない。

それでもやっぱり一緒に居たいと思うのは、明陽の為人ひととなりがそうさせるのだろうと、健介は明陽の横顔を見て思うのだった。


「健介は何にする?」

 食堂の入口で明陽が後ろに並んだ健介に尋ねた。

「僕は日替わりランチにします」

昼食代を貰ってはいたが、そんなに良いものを食べられる程ではない。

「そう、じゃあ僕もそれにしよう」

「え、いいんですか?」

明陽が健介に合わせてくれたのは直ぐに分かる。

明陽ならもっと良い物を頼める筈だ、それなのに明陽は健介の問いにニッコリ笑って頷いたのだ。

 チケットを買ってから10分ほど待ってランチを受け取った二人は、一番端の窓際の列に席を取って向い合せに座った。

 明陽と連れ立って入口に立った時から突き刺さるような視線が一斉に注がれている。

健介はそれを痛いほど感じながらも、しごく自然に振る舞うよう努めた。

「隣、良いかな?」

 暫くするとクラスメイトの一条和いちじょうなごむがランチを乗せたトレーを持ってやって来て健介に声を掛けた。

「どうぞ」

健介は快く返事を返した。

 クラスの者皆んなが健介を軽視する中で、この一条だけは入学当時からずっと普通に接してくれていたからだ。

 一条は健介の隣にトレーを置くと、ニッコリ笑って明陽に軽く頭を下げてから席に着いた。

「あ、こちらはクラスメイトの一条和君です」

健介は一応に一条を紹介した。

すると明陽は

「知ってるよ、久し振りだね、和」

と一条に笑い掛けた。

「え、お知り合いなんですか?」

健介が尋ねると、明陽より先に一条が

「僕達、従兄弟なんだ」

と答えた。

言われてみれば、一条はどことなく明陽と雰囲気が似ているような気もする。

「和、健介のこと頼んだよ、力になってあげて」

「任せといて」

明陽の言葉に一条は確りとした口調で答えた。

「良かった。和が側に居てくれれば安心だ」

明陽はニッコリ微笑むと、白身魚のフライをナイフで切って口に入れた。

 一条のお陰で昼休みを和やかに過ごした健介は、それから明陽と別れて一条と共に教室へ戻って行った。









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