第一話・出逢い
私立紫苑学園シリーズ
【相愛】よりも古い年代のお話
二人の出逢いは……
ある晴れた日の昼休み
校庭から続く小さな丘の上にこんもりと茂った雑木林の中だった。
何時ものように小日向健介は弁当箱を片手に学園の敷地内にあるこんもりとした林に入り込んで、大きな木の根元に凭れて座った。
「ふぅ……」
入学してからもう一ヶ月が経つというのに、健介は未だにこのお坊ちゃま学校の雰囲気に馴染めないでいた。
親の権力や財力がこの学校生活にそっくりそのまま反映されているという現状は、普通のサラリーマン家庭に産まれ育った健介にとってあまり有り難く無い……というより迷惑な話だ。
そんな健介がこの私立紫苑学園のなかで唯一安らげる場所がここなのだ。
そして、昼休みにここでノンビリと昼食を摂る事が、今では日課になっている。
健介は弁当箱を開いて膝の上に乗せると、さっそくご飯と玉子焼きを口の中へ放り込んだ。
(あ〜今日も良い天気だなぁ……)
モグモグと口を動かしながら何気なく右手に目を遣ると、黒い靴の先が……見えた。
「え!?足……?」
健介は慌てた。
誰も居ないと思っていた林に誰か居る……
今まで気付かなかったが、背の低い小さな茂みの陰から足先だけが覗いているのだ。
そのままじっと息を殺して暫く様子を伺ったが、何時まで経っても一向に動く気配が無い。
健介は弁当箱を脇へ退けると、四つん這いになって音を立てないよう静かに茂みを回り込み、その人物の顔を確かめた。
(ゲッ!!久我明陽!!)
そこに倒れていたのはビジルの会副会長の久我明陽だった。
ビジルの会は名目上、社交クラブという事になっているが、その実この私立紫苑学園を牛耳るエリートの集まりだ。
この時、健介は何故か明陽が倒れていると思い込んでしまっていた。
開けた制服の上着も、乱れた髪の毛も、どこをどう見ても倒れているとしか思えない有り様だったからだ。
「まさか……死んでるんじゃ……」
健介は慌てて明陽の脇へ回り、先ず胸に耳を当てて心臓が動いているかどうかを確かめた。
「良かった、動いてる」
次に息をしているか確認しようと顔を上げた時……明陽と目が合った。
「うわぁッ!!」
途端に健介は驚いて後に手を着き、そのまま這いずった。
「何……?してるの……?」
顔だけを起こした明陽がのほほんとした様子で尋ねた。
「何って……死んでるんじゃないかと思って……」
健介はオズオズと答えた。
「ふふっ、昼寝してただけだよ。どうして死んでるなんて思ったの?変な事考えるんだね」
上体を起こした明陽が柔らかな笑顔でそう言ったので、健介は自分の言った事が恥ずかしくなって俯いてしまった。
「君、一年の小日向健介君だよね?」
「え……あ、はい。僕のことご存知なんてすか?」
健介は改めて明陽の顔を見て尋ねた。
「有名だよ、やんちゃな一年生が居るって」
「やんちゃって……」
健介は
(やんちゃというより浮いていると言ったほうが正しいのではないか……?)
と思って苦笑した。
「君もここが好きなの?」
「あ、はい。ここに来ると何となく落ち着くんです……」
「そう……僕もここは好きだよ、独りになりたい時はここが良い……」
明陽は黒目勝ちで大きな目を細めて言った。
春の陽射しのように柔らかな雰囲気と優しい人柄に、皆、敬意を込めてこの人を『明陽様』と呼ぶ。
健介は今、それが何となく分かるような気がした。




