第5話 新パイロット、禁忌と共に着任
波乱万丈な昨日を乗り越え、翌日。
全身包帯だらけで明楽と一緒に整備科の校舎に向かっていた。
「ねぇ…大丈夫かい零亜」
「何がだ?」
「いや…はたから見たら完全にミイラ男だよ?しかも昨日の出血で今は普通に歩けるって怖いよ。傷は?出血は?」
「なんか…治ってた」
「治ってた?嘘はつかなくてもいいんだよ?」
「本当だって」
昨日の出来事を明楽に話す。
保健室に寄り、待たせるわけにもいかないから明楽を先に帰らせた。
んで、保健室の先生に言って俺の傷やらなんやらの検査が始まったんだが…。
『…これは』
『どうしました?』
『目立った外傷はないのはわかるけど…内側にも傷が一つもない…?本当に出血したの?』
『は、はい。明楽に手当てしてもらった後ですから身体に血はついてませんけど…』
『んー??と、とにかく傷が一つも見当たらないけど動いたりして傷がまた出来上がる可能性があるから、明楽君に手当てされた所をもう一度手当てしておくわ』
『分かりました』
ってことがあった。
いや血が出たってことは何かしらの傷はあったんだが見つからないんじゃ意味ない。
それで明楽が手当てしたところと同じ個所の手当てをしてもらった。
その結果ミイラ男になったというわけだ。
「えぇ…?」
「信用してないなその顔」
「当たり前だ、あんな血だらけで帰ってきて傷がありませんって言った方が嘘だろう」
「でも事実だし」
「…それと、取らないのそれ?」
明楽が指をさしたのは俺の両手首、両足、首に着けられた黒い輪。
「取れないんだよこれ、外し方が分からない」
「自分でつけたの?」
「いやファフニールに乗った際につけられた。鍵穴とか取り外せそうな隙間もないし…もしかしたら一生このままの可能性もあるしな」
「大丈夫それ…」
「わからん」
そもそもこの黒い輪が何なのかすらもわかってないしな。
変に取り外そうとして怪我したりとかなったら嫌なのでね。それに今はそこまで邪魔じゃない。
なんて歩いていると。
――ピンポンパンポーン。
『整備科1年2組、鴉羽零亜さん、至急学園長室にお越しください。繰り返します整備科――』
放送で俺の名前が読み上げられ、学園長室に来てくれというわけらしい。
昨日のことか、編入の話か…。
どちらにせよ、行かなきゃならないか。
「編入の事かな」
「さぁな、行ってみないとわからないし行ってくるか」
「…もしかしたらこの会話が最後かもね、このままパイロット科に行くかもしれないし」
「最後でも何でもないだろ、俺たちは友達なんだし」
「!」
「別に俺がパイロット科に行こうが行かないが明楽とは友達だしな」
「そ、そうか…」
「んじゃ至急って言ってたし行ってくる」
「いってらっしゃい」
そう言って俺は整備科の校舎に向かっていた足を止めて、学園長室がある『中央校舎』に向かって走った。
「…人の気も知らないで…でも友達と言ってくれるだけ嬉しいな…」
ーーー
5分くらい走って何とかついた中央校舎。
整備科校舎とパイロット校舎の境目にあるおかげで…まぁまぁ遠い。
少し息切れしつつ学園長室の扉をノックする。
「整備科、鴉羽零亜です。入ってもよろしいでしょうか」
『あぁ、いいぞ』
「失礼します」
扉の反対側で入っていいと聞こえたので扉を開けて中に入る。
そこにはいかにも高級そうな椅子に腰かける東雲学園長とソフィー生徒会長が鎮座していた。
「待っていたぞ、零亜」
「…えっと、何か御用でしたか」
「あぁ、編入の件ともう一つ聞きたいことがあってな」
「もう一つ?」
「過去を覚えて居ないそうだがこれっぽっちも覚えていないのか?」
東雲学園長は俺に対して過去の話を聞いてきた。
だが語れることは何もない、記憶の断片すらも俺の頭の中には残っていないのだから。
「断片すらですね、本当に何一つ覚えていないんです」
「そうか…見つかるといいな、過去を」
「はい」
「話を戻そう。君の編入の事だ、まずそもそもの話をするがパイロット科及びARMOR’sに男性が鳴ること自体異例だ、理由はわかるな?」
「オールイーターの感染率が影響するんですよね?」
「その通り。理由は不明だが男性への感染率は異様なほど高く、逆に女性に対しては異様なほど低い。戦いを考えると女性が前線に出る方が色々と都合がいいので女性が出ている。知っているな?」
「まぁ…」
それが影響してARMORに乗れなかったんだけどな俺。
「それを考慮すると零亜の編入はかなりリスクが伴う。他のパイロットに比べるとな…どうしてもオールイーターの被害を受けやすく、最悪死ぬ可能性もある」
「…」
「これが編入への最終確認だ。本当に…パイロット科に入るのか、ARMOR’sになる勇気はあるのか」
そんなの、決まってる。
「勿論です。理由は前にも話した通りですが…今、ARMORに乗れるチャンスが俺に転がってきたんです。チャンスを、見逃したくないですよ」
「…その心意気、しかと受け取ったぞ。鴉羽零亜、お前のパイロット科への編入を認めよう」
「ありがとうございます」
「次にこれを」
すると今度は東雲学園長からアタッシュケースを二つ受け取った。
「これは?」
「片方にはパイロット科の制服、教科書、授業説明諸々が入っておる。もう片方にはARMOR’s専用のスーツやARMORのスペック…そして鴉羽零亜専用に私が集めておいた禁忌機体の情報だ」
「!!」
禁忌機体の情報!
ある意味、一番欲しかったものだ。俺はこれから乗り続ける機体の事を本当の意味では知らない。スペックとかその辺は頭の中に刻み込まれているからいいが…問題はそれ以外。
昨日の話が本当なら、俺の身体に何かしらの異常が出る可能性も十分にある。
俺が一番知るべきだろう、禁忌機体の事を。
「悪用は、せんようにな?」
「ありがとうございます!」
正直、感謝しかない。
ただでさえ情報が少ないと言われる禁忌機体の情報を集めるなんて。
「では、ソフィー生徒会長。零亜の案内を」
「お任せを」
と一礼しソフィー生徒会長が俺に歩み寄る。
「え…生徒会長が案内をするんですか?」
「不満ですの?」
「い、いや…そんな大物に案内されるのも…」
「十分だ。確かにソフィー生徒会長も大物だが、お前も大概だぞ」
「そ、そうなんですか?」
「とにかく、行きますわよ」
「は、はい!あ、あぁえっと失礼しました!」
「うむ」
そうして部屋から退出していくソフィー生徒会長を追いかけて俺も学園長室から退出した。
「…本当に何も覚えて居なさそうだな…」
ーーー
それから俺はソフィー生徒会長の後をついていき、様々な場所を見て回った。
体育館、訓練場、パイロット科校舎などなど。
整備科の校舎と遜色変わりなかったが、多少はパイロット科の方が設備が色々と綺麗かもしれない。まぁ…命がかかっているのならこれくらいないとフェアじゃないかもな。
「次が最後になりますわ」
「最後…?」
「先に見えますわね?」
「…!」
ソフィー生徒会長が立ち止まり指をさす。
そこには…体育館以上の広さを誇るドームのような施設があった。
「ここは?」
「そうですわね…簡単に言うなら訓練場とは違うARMOR同士の決闘場ですわ」
「ARMOR同士の?何故ですか?」
「あら何故なのかを問いかけますの?」
「い、いや…ARMORはオールイーターと戦うための物ですよね?なのになぜ」
「なるほど、整備科らしい質問ですわね」
「…む」
ソフィー生徒会長の反応に一瞬カチンときたが…黙っておこう。
「確かにオールイーターと戦う装備同士で戦うのは無意味かもしれませんわ。ですが、訓練だけで戦場を知らないものが最前線に立つとどうなるかわかりますか?」
「…心構えとかが無くて死ぬ?」
「その通りですわ。ある意味、これはARMORを使った戦闘の慣れの為に使うもの。戦場を知り、機体を知り、敵を倒す。この三拍子が無ければ早死にしますわ、もっとも自殺願望があるのなら止めませんが」
「自殺はしないですよ、俺は…」
「過去を探す為、ですわね?」
立ち止まりつつ、振り向き俺を見るソフィー生徒会長。
「…はい」
「先程、東雲学園長がおっしゃいましたけど、本当に何も覚えていないんですの?」
「本当に何一つです」
「…過去」
「ソフィー生徒会長?」
「何でもありませんわ。とにかく決闘場に入りますわよ?」
「はい」
俺は見逃さなかった。
『過去』という単語を呟いたソフィー生徒会長の表情が一瞬曇ったことを。
…この人には過去がある。それも重く、惨い物が。
そうでもしないとあの顔はできないだろう。
だがそれを指摘していい権利は俺にはない。
過去がない俺には。
「先程からじろじろと見て居ますが何か?」
「あ、あぁ…ARMOR同士の決闘ってどう戦っているのかと」
「向上心があることは認めますわ。それに…そろそろですわ」
ソフィー生徒会長の後ろをついていき歩く。
前へ前へと進むたびに先の方から大きく響いてくる鉄と鉄がぶつかり合う音。
そして…先の景色が目の前に現れた。
「こ、これは…!?」
中央にあるボクシングのリングのような中で戦うARMOR二機。
両方とも銃撃戦を仕掛けつつ接近し、腰のホルダーにつけられた小型のブレードで切り合っている。
ARMORとオールイーターが戦うのは何度も見たが…ARMOR同士が戦うのは初めてみた。
こんなにも、激しいんだな。
「どうです?ARMOR同士の決闘は」
「とにかく迫力を感じます」
「…他の生徒とは違う感想ですわね」
「そう…なんですか?」
「構いませんわ」
他の生徒と感想が違う点はいいが、何だろう…。
(ARMOR同士の決闘になんか見入ってしまう…?)
目が離せない、何でだ?
それにすごく…。
「――鴉羽零亜?」
「あぁ、はい」
ソフィー生徒会長に話しかけられハッとする。
「そんなに気に入ったのですが?私の説明を聞かず、ARMOR同士の決闘に見入っていましたが」
「まぁ…衝撃的な事ではあったので」
「…思えば整備科も見れるはずなのになぜ知らないのかと疑問に思いましたけど、貴方1年生ですわね」
「何年生だと思ってたんですか…」
「年上の風格、ありますわよ?」
「先輩にそんなこと言われても複雑な気持ちになるだけです」
「ふふっ…」
な、何というか今までソフィー生徒会長って結構お堅いイメージがあったけど意外とユーモアがある。整備科ゆえの無知だったかもな。
「これにてパイロット科付近の校舎の案内及び利用施設の説明完了ですわ」
「ありがとうございます」
「何か質問は?」
「特に何も」
と言い切ろうとした次の瞬間。
「…ッ?」
痛みと共に頭の中に流れるファフニールの声。
「どうかなさいましたか?」
「きゅ、急にファフニールの声が頭に流れて来て…」
「ファフニール…そういえば声がどうとか…何ておっしゃっていますの?」
「なんか…『来る』って」
「来る?」
「何かが来ていると俺に」
何かが来ていることを呟くファフニール。
俺に何を伝えたいのかよく分からないままでいると。
「鴉羽零亜!」
「…あぁ、そういう事か」
後ろから罵声が聞こえて振り向くとそこには鈴木副担任…いや元か。
俺は整備科じゃなくなったしな。
それにファフニールが俺に伝えたかったこともわかった。敵と見なしたんだろう、コイツを。だから俺に伝えたかったのか…というかどうやって接近を発見したんだ?
ファフニールはまだ整備科の方のARMORの整備所にあるはずなんだが…。
「整備科1年、鈴木足立副担任。パイロット科に何か御用ですの?」
ソフィー生徒会長が俺と鈴木の間に入る。
「ソフィー生徒会長…!正気ですか!?こんな男をパイロット科に編入させて!!」
「正気も何も事実です。東雲学園長がスカウトし、彼が了承した…ただそれだけですわ」
「ですが!」
「貴方が納得しなくても、鴉羽零亜は我々パイロット科の生徒ですわ。それに彼は自身の潜在能力を十分に示した。見たでしょう?橋での戦闘を」
「くっ…!!」
「これ以上、羞恥を晒すのであればどうぞ学園長へ」
淡々と告げるソフィー生徒会長。
さ、さっきのユーモアあふれる生徒会長から一片、生徒会長の名にふさわしい威圧感、人を引き寄せるカリスマっていうのはこういうことを言うのだろう。
「…なら提案を」
「提案?なんですか?」
「私がその男と戦って私が勝てばパイロット科の編入を取り消してください!」
俺を指さし、宣戦布告してくる鈴木。
「!」
「自分勝手すぎますわ、そんなのまかり通るわけが」
「ソフィー生徒会長」
「何ですか、鴉羽零亜」
「…その宣戦布告、受けます」
俺はその宣戦布告を即座に了承した。
「何故ですの?別に受けなくても」
「まぁ受けるメリットはありませんが…一つ受けなければいけない理由がありまして」
「理由?」
「はい。コイツは整備科の教員の中で群を抜いて生徒に嫌われていまして、まぁ…理由はたくさんあるので省略しますが、こんな自分勝手が自分の意見を捻じ曲げられたとしたら確実にその矛先は俺に向きます」
「ですがパイロット科になる貴方が狙われることは」
「違いますよ。整備科の俺の友達を狙いますよアイツ」
「!」
俺には分かる。
というよりこんな屑がただで引くとは思えない。もしここで俺が了承しなければ矛先は俺に向けつつ刃を…明楽に向けて刺し続けるだろう。
そういうもんだ、屑っていうのは。
「…的を得た発言ですがよろしいんですの?」
「まぁいいですよ。というより早く了承したいというか…」
「…?」
「ファフニールが飛んできそうで…」
「意外と難儀ですのね、新しい私たちの仲間は」
「仲間と言ってくれるだけ嬉しいですよ」
「…ですが何かあった時はすぐに言ってくださいまし、私は生徒会長であり生徒を守りオールイーターを貫く刃でもありますから」
「ありがとうございます」
結構優しい人じゃないか。
厳格そうなのは…戦場だけかもな。
「鈴木先生、その宣戦布告は受けるのでさっさと何処かに行った方がいいですよ」
「ふん、どうだか!さっさと貴様が」
「ファフニールが飛んでくるから早く行け。」
「ふ、ふん…!決闘は明日です!精々首を洗って待ってなさい!」
と鈴木は少しビビった様子で駆け足で決闘場から出て行った。
余程怖かったんだろうなあの鉄の塊に叩き潰されかけたのが。
…それよりも決闘の事を考えよう。現状、俺は一度もARMORと戦ったことがない。
初めての戦闘及びARMORの操作は前の橋の戦いのみだ。
人間のような五体で戦うんだろ?やっぱりパンチとかキックとか?
最悪『心臓』を…。
「行ってしまいましたわね…大丈夫ですの?」
「頑張ります」
「対ARMOR用の戦い方はご存じで?」
「よく分からないですけど…『人間の急所を攻撃』すればいい気がしますが」
「…人間の急所?」
「あ、違いましたか?」
「…いいえ何でもありませんわ、とりあえず今日はこのあたりで。また何かがあればそのつど聞いてくださいまし」
「分かりました、何から何までありがとうございます」
そうお礼を告げるとソフィー生徒会長もARMORの決闘場から出て行った。
…ARMOR同士の決闘かぁ、考えたことなかったな。
やっぱり整備科だったのが影響しているのか対オールイーターしか分からない。
相手がオールイーターならファフニールの事を思い出せばすぐわかるが…対戦相手がARMORってなると難しいな。
「ARMOR同士の決闘なら今やってるし、見てから戻るか」
そう思い近くの椅子にすわり、ARMOR同士の戦いを見る。
「てか…何で俺、人間の弱点とか言ったんだろうな?」
そう一人でつぶやいた。
別に知らねぇのに。
◇◇◇
コツコツと音を鳴らし歩くソフィー生徒会長。
その行く先は…生徒会室。
いつも通りのように扉を開けて中に入る。
「ソフィー生徒会長お疲れ様です、丁度紅茶が出来ましたけどどうですか?」
「ありがたく頂くわ、アウローラ」
黒髪で内側が赤色のメッシュのアウローラと呼ばれる少女の紅茶を軽く飲むソフィー生徒会長。
「どうですか?」
「本当に大した腕前ですわ。八神は?」
「今は校舎付近のパトロール中です、何か御用が?」
「…例のパイロットについて」
「鴉羽零亜の事ですか?」
「えぇ…やはり彼の過去があまりにも不透明すぎます」
「何かありましたか?」
カップを静かに机に置き、話す。
先程の事を。
「彼は整備科、そしてARMORを動かせる。現状は過去の事が何一つわからない…そこまではわかります。ですが…」
「…」
「…何故ARMOR同士の戦い方で『人の急所』を出してきたのか」
「人の急所?」
「まだ足や腕、頭部と部位をいうのはわかります。ですが人間の弱点とはっきり言った…故に謎が深まりますわ」
「確かにはっきり言うのは不自然かもしれませんが…」
「…観察の余地、アリですわね」
ソフィー生徒会長は鴉羽零亜の過去及び彼の経歴を気にし始めた。
…何一つ残っていない彼の歴史を。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




