第4話 禁忌機体とは
「禁忌…」
その単語を聞くだけで、俺が乗ったARMORがヤバいということがわかる。
「他の通常機、専用機とは違うこの禁忌機体…まず禁忌と言われる話をしよう。鴉羽零亜、起動シークエンス時に肉体にダメージが出たか?」
「は、はい。今俺の身体についている黒色の枷…みたいなのが付けられると同時にとてつもない量の情報が頭の中に流れ込んできて、その際に鼻血や血涙とか…」
「そう、それだ」
「…?」
「通常機、専用機にない技術が使われている。それは…人と機械を繋ぐ技術。名を『ドラゴンスローンシステム』、別名では『龍の玉座』とも言われている」
「ドラゴンスローン…」
「機械と人を直接つなぐことによりパイロットの直感的な操作や肉体に反応した操作が可能になる」
人と機械を繋ぐシステム。
確かに…心当たりがある。レバーや操作機器を使ってARMORを操作するときに、機械を操作しているとは思えなかった。それに俺の網膜にデータが投影されたり、一体感もあった。
文字通り、繋がっていたんだな。俺とファフニールは。
「『ARMORとパイロットを繋ぐシステム』とだけ言えば聞こえはいいが…あまりにもデメリットが大きすぎる」
「デメリット?」
「お前は実感したと思うが、このシステムは人体に悪影響を及ぼす。それがなぜかも立証されているがな」
「何故…なんですか?」
「この禁忌機体は…『パイロットの生存を度外視する機体』だからだ」
「え?」
「禁忌機体はありとあらゆる事の全てにおいて他の機体を凌駕する。それはパイロットの命なんぞ二の次にして開発した物だからな」
俺は…整備科として言葉を失ってしまった。
パイロットの命を出来る限り守ろうと整備していたが…ARMORがパイロットの命を奪うなんて前代未聞だ。
「機体性能が高すぎるが故に人とつなぐと、機体スペックのフィードバックにより肉体が耐え切れず頭がショートし植物状態になったり、肉体の感覚が狂ったり消失したりもする。そして、最悪…死ぬ可能性もある」
「は…」
「…私も噂程度に聞いていたが、禁忌機体で既に犠牲になったパイロットはいる。文字通り龍の玉座に座り、起動シークエンス中に肉体が耐えきれず龍に喰われた者たちが」
「…」
俺はそんな危ない物に乗っていたのかと驚愕する。
「だがお前は乗りこなした、禁忌機体であるファフニールを」
「…東雲学園長」
「何だ」
「禁忌機体って、誰が作ったんですか」
「…」
「整備科として…いや一人の男として言わせてください。そんな狂った機体を作った馬鹿は何処にいるんですか!?」
「零亜…」
「俺は…パイロットや皆が出来る限り生き残れるように整備してきたんですよ!?こんな…こんな非人道的な機体がどうして存在するんですか!?学園長…まさかとは思いますが、生徒を」
「安心せい、それは絶対にしない」
「なら何故この機体が存在するんですか!!解体でも何でも」
「出来ないんだ…!」
「!」
俺の問いかけに東雲学園長は言う、解体出来ないと。
「何で…ですか」
「理由を話す前に聞いてほしい。まず禁忌機体を誰が作ったのかは不明だ。私にもわからないがデイブレイクから数週間後に作成されたという情報がある」
「デイブレイクから…」
「あの時は世界は混乱状態で正確な情報すらつかめなかった…しかも禁忌機体の情報自体そこまで出回っておらず、ただ乗れば死ぬとだけ」
「…」
「そして解体出来ない理由につながるのだが…もうしたんだ」
「…した?」
「解体だ、だが…翌日には元通りになった」
「は?」
言っている意味が分からなかった。
解体したが元通りになる?それは科学的に機械自体にAIが積まれていて自動的にパーツが組まれる、もしくは誰かがもう一度組みなおす以外ありえない。
「監視カメラで見ても、パーツ同士を離しても、物理的な壁を隔てても…何度も何度も解体してもすぐ元に戻る。しかもそれがなぜなのかすらもわからないくらい情報が無さすぎる禁忌…それが『禁忌機体』」
「…」
初めて乗った時以上にファフニールが分からなくなってきた。
情報という情報もなく、ただ乗れば『死ぬ』。
「そして鴉羽零亜、お前に…無理を承知でお願いしたいことがある」
すると東雲学園長が表情をしかめたまま、俺にお願いがあるといい始めた。
「な、何ですか…?」
「お前は初のARMORの戦闘でとてつもない戦果を上げた。それは…整備科の生徒とは思えないくらいにだ。故に…お前は『整備科』ではなく、『パイロット科』への編入をお願いしたい…あのファフニールと共に」
「!!」
「正直…これをお前に伝えたくはない、脅しのように感じてしまうかもしれないからな。だが話させてくれ」
そういうとディスプレイの画面が切り替わり円グラフやら棒グラフやら色々表示された。
「これは?」
「今の戦場での平均的なオールイーターの数、そして犠牲者の数だ」
見てわかる。
戦場を重ねれば重ねるほどオールイーターの出現数が増えていて…それに伴い犠牲数も増えている。
「今でも、戦いの中で多くのパイロットや一般市民に犠牲が出つつある。それに1年生ではほぼ『単騎』でオールイーターに対抗できる奴は一人もいない。だが、お前は違う。禁忌の力を宿しファフニールにも選ばれた。戦場らしいことを言うなら…『最前線に欲しい人材』だ」
「…」
「同情を誘うような言い方をしてしまうが、頼む。どうかパイロット科に編入し、オールイーターと戦ってほしい」
東雲学園長の考えはわかる。
戦況をひっくり返せるような人材というより、1年生の中で秀でた操作技術を持っているからこそ、その才能を死なせない為に編入を考えてほしいことが。
…そしてもう一つ、これ以上の犠牲を出したくないのだろう。
東雲学園長は数々の犠牲を見てきたのだと思う。
教員、生徒、関係者、一般人。
それを感じ取れるのは…東雲学園長の犠牲者の話の際、若干声が低くなった。
語るのすら、嫌なのだろう。
「…」
どうする、俺…。
正直、この誘いを受けたい。
『整備』しかできなかった俺に新しく『出来ること』が増える。
だが…ファフニールの正体や存在する意味を知ってしまった。俺はあの龍の玉座に座り、引っ張られてはいたが、動かすことはできた。
しかしその分、俺が死ぬリスクも格段に上がっていく。むしろ乗り続けたら続けたで何かしらのデメリットが発生することもあるだろう。
どうする…!
(いや…違うな)
今、一瞬俺は自分の命を考えた。
それは…『整備科』としての考えだ。パイロットらしい考えではない。
戦場に死は付きまとう。漫画でもアニメでも現実でも何度も聞いた言葉だ。
自己犠牲の精神は持ち合わせていないが…このチャンスは無駄にしたくない。
「東雲学園長」
「なんだ」
「…編入を受け入れます」
「零亜…?」
「俺は、このファフニールと共にパイロット科に編入します」
「零亜!?」
「…何故か聞いてもいいか?」
俺が編入を受け入れる理由。
それは…。
「俺は男でありながらパイロットになりたいと望んでいました。整備科として…どうしても他のパイロットが傷つく姿を見てしまいます。戦場に赴くパイロットに対して俺に出来ることは整備だけでそれ以外には何もない。でも…何の因果かわかりませんけど俺はこのファフニールに乗れましたし、編入するチャンスを得ました。それなら…『整備』しかできなかった俺に『パイロット』という新しい選択肢を追加したいんです。自分の為にも、他のパイロットや…友人の為にも」
「…」
「だから俺は編入を受け入れたいんです」
「…ふふっ」
「?」
理由を話すと東雲学園長は微笑んだ。
「なるほどな、素晴らしい理由で一瞬笑みがこぼれてしまった」
「す、素晴らしいんですか…?」
「あぁ、理由を聞く限りお前は『何かの野望を持った心優しい少年』だとわかる」
「…」
「一応で聞きたいがその野望はなんだ?」
「…俺は一部の記憶がないんです」
「…記憶が?」
「正確にいえば中学生より前の記憶です。今の俺は気が付いたら中学生になっていた、みたいな感じで…」
「何も思い出せないのか?」
「はい。どこで生まれたのか、誰のもとで育ったのかすら。だから俺は過去を知りたい」
「…なるほど」
結局俺がこのARMORに乗り続ければ記憶が戻ってくる、ということは無いだろう。
だが、俺がこれに乗って戦い続けて少しでも終戦に進ませることが出来たら…記憶の一片でも見つかるだろうと思っている。
…何も得られないかもしれないけど、現状を変えることが出来るなら何でもいい。
それが、今の俺にできる最善手なのだから。
「わかった、では編入を受けるという事でいいな?」
「はい」
「ありがとう、では私の方でも色々と手続きを進めておこう。ひとまず保健室に寄ってから寮に帰るといい。明日、また連絡しよう」
「分かりました」
そういって東雲学園長は俺の横を通り過ぎて行って避難所から出て行った。
「零亜…」
今度は明楽が心配そうに俺に声をかけてくる。
「すまんな、明楽。手当てをさせてしまって」
「それくらいはどうってことないけど…本気なのかい?」
「何がだ?」
「パイロットになるってことだよ、それは」
「まぁ危険だろうな」
「なら…!」
「危険な事くらい編入を受けると回答するときに既に分かっていたさ。むしろ生半可な気持ちで受ければ本気で死ぬとも思ったしな」
さっきの編入を受け入れる時に、覚悟は決めた。
整備科からパイロットになることにより命を失う確率が上がることも。
それに…。
「…」
上を見上げてファフニールを見る。
禁忌機体である『ファフニール』に俺は選ばれた、いや選ばれてしまったが正しいか。
そのおかげである意味世界で禁忌機体を一番知る人間にもなったというわけだ。
そして、俺の両手、両足、首に付けられた黒い輪。
これはそう簡単に取れるものじゃないし…何よりまたファフニールが自動的に動くのを何とかおさめないといけない。
言い換えるなら、俺はファフニールの手綱を握ったというわけだ。
でも手綱と一緒にチャンスも転がってきた、拾わざる負えない。
「頑張るか、こっから」
「零亜?」
「あぁすまん、独り言だ。さて保健室に…っと!?」
「あぁもう、怪我してるんだから…」
「忘れてた…」
普通に立ち上がり、保管室に向かおうとしたが…俺はファフニールの起動シークエンスを完了した影響かかなりの量を出血してしまったので貧血状態だ。
立ち眩みが酷く、膝をついて座り込んでしまった。
「大丈夫かい?」
「正直ヤバい、視界がぐわんぐわんする…」
「はぁ…ほら肩に捕まりなよ」
「すまん…」
俺は明楽の肩を借りて歩き始めた。
「全く…というか医療班とかメディックは?」
「今は最前線で戦ったパイロットの傷の手当てに集中してるんじゃないか?」
「ここにもけが人いるのに」
「それくらいけが人がいるってことだよ」
「尚更不安だよ、零亜のことが」
「長生きできるように頑張る」
「本当に頼むよ…?」
「あいあい…」
そうして俺は明楽に肩を借りながら保健室に向かった。
◇◇◇
月夜の下で照らされるある部屋の中。
その部屋の中でソフィー生徒会長と東雲学園長がお互い座りながら話していた。
「…それで彼の件なのですが」
「あぁ。本当に彼の言う通りかもしれない、ということが分かった」
「どういうことですか?」
「彼の過去や歴を確認してみたが…鴉羽零亜が言っていた通り中学生から今に至るまでの情報が残っているがそこから前は何一つとして残っていない」
「…」
「…だが不自然な点もあった」
「不自然な?」
「何も残っていないのはわかる。だが…『住民票』や『戸籍』すら残っていない」
「!!」
「…だが現状私たち学園側はどうすることもできず、生徒会も同じだろう」
「その通りですが…」
「とにかく彼を見守ろう。あの理由は本気故に信用できる」
「…かしこまりました」
「とりあえず今日はもう休みなさい。私も私で他にも色々調べておく」
「わかりました。では東雲学園長、おやすみなさい」
そういってソフィー生徒会長は椅子から立ち上がり、一礼してから部屋を出た。
(…鴉羽零亜)
コツコツと響く廊下の中、歩きながら新しくパイロットになる生徒について考えていた。
(整備科からパイロットになるケースは前にありますが…男がパイロットになるのは前代未聞ですわ。何より…あの最前線の戦い方)
正面橋でのファフニールと零亜の戦いを思い出す。
戦い方は大型剣を使ったものだが、動きがおかしかった。
整備科で初めてのARMORの操作であそこまで動けるのかと…まるで人間の肉体を巨大化させ装甲を張り付けたかのような動きを出来るのかと。
(私も、彼に接触を試みてみましょう。彼の力を試し、使えるのであれば…)
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




