第30話 魔龍の蹂躙
どちらか分からない雄叫びを聞いた愛染はふと気が付いた。
先程の蟷螂の姿が居ない。
コンダクターで周囲をサーチし、蟷螂の位置を把握したが
「え」
言葉を失ってしまう。
そこに居たのは…頭部を握りつぶされ力なくぶら下がる蟷螂の胴体と、その頭部を握りつぶした魔龍が立っていた。
とにかく、該当する大型のオールイーターを討伐することが出来たので愛染は鴉羽とファフニールの元へと歩もうとしたが
『ハァァァッ...!!アァァァァァ!!』
「えぇっ!?ちょっと!?」
鴉羽とファフニールは雄叫びを巻き上げながら何処かへと両翼のスラスターで飛び去っていく。
愛染も追いつこうとするが…
「は、早い!?」
想像もできないスピードでファフニールは飛んでいき、気が付けばもう豆粒くらいの大きさにまでファフニールは小さくなっていた。
「ど、どうしよう…そうだ!今は学園長に…!」
暴走し、何処かへと飛び去ったファフニール。
そのことを東雲学園長に報告しようと考えた愛染は通信端末から直接、東雲学園長に通信する。
『こちら東雲だ。愛染、どうした?』
「お、大型のオールイーターの討伐が完了しました」
『なに、本当か?』
「ですが…討伐が完了したと同時に鴉羽君とファフニールが雄叫びを上げて何処かへと飛び去ってしまいました」
『さきの通信での咆哮は鴉羽零亜のモノか。それはいいが何処に飛び去ったのか分からないのか?』
「はい…」
『ふむ、わかった。こちらで対応しよう』
と東雲学園長が言い切ったと同時に
『あ、愛染!鴉羽に何があった!?』
今度はナンバーズの八神からの通信が来る。
「何があったって…どういうことです?」
『今、鴉羽とファフニール…でいいんだよな!?急に現れたと同時に単騎で全てのオールイーターを引きつぶして大型のオールイーターすらも潰し、雄叫びを上げながら飛び去って行ったんだが!?』
「えっ…!?」
八神からの通信の内容は…あまりにも現実味がなかった。
二機でやっと倒せるくらいの大型オールイーターを今の鴉羽とファフニールは単騎で秒殺している。
しかも、八神のところを解決したと同時に飛び去って行った。
『…なるほどな』
そんな彼らの行動理由の訳に東雲学園長は気が付いた。
「東雲学園長?」
『現在戦闘している全ナンバーズ及びARMOR’sへ告ぐ。暴走状態の鴉羽とファフニールがオールイーター出現箇所に飛来する可能性が高い。総員は二人に巻き込まれぬよう、戦闘領域から距離を取れ』
あの二人の行動理念。
恐らく『オールイーターの殲滅』だと東雲学園長は考えた。
最初は愛染との共同戦線で大型オールイーターを処理した後に、八神の所で戦っていた大型オールイーターを殲滅。そして飛び去ったところを考えるに…全てのオールイーターの殲滅が今の二人の行動理念だと予想した。
やがて、その予想は確信へと変わる。
『あ、アウローラです!東雲学園長の指示通り距離を取ったと同時に鴉羽君とファフニールが飛来し…単騎で全オールイーターを鏖殺し、何処かへと飛び去って行きました…』
『…ソフィーですわ。たった今、鴉羽零亜とファフニールが飛来し全オールイーターを殲滅していますわ』
アウローラの箇所のオールイーターを殲滅した後、ソフィーの箇所で戦闘を開始。
今はナンバーズ三人に別々の個所の大型オールイーターの殲滅を命令していたが、その一つ一つの箇所に鴉羽が飛んでいき、殲滅しているという事は…。
(予想通り、か)
東雲学園長の予想通り、鴉羽とファフニールは大型オールイーターの発生源を目指して飛来し、その場にいるオールイーターを全て根こそぎ刈り尽くしている。
『アァァァァァァァァッ!!!』
「!!」
耳を塞ぎたくなるほどの鴉羽かファフニールのどちらかの咆哮が戦うモノたちの耳に響き。
『…戦闘の終了を宣言しますわ。ファフニール単騎で出現した大型オールイーターの排除及び全オールイーターの殲滅を確認しました』
「あ、あの!鴉羽君は!?」
『雄叫びを上げたと同時に。ファフニールと共に倒れましたわ…ただ』
「ただ…?」
『…コックピット内は見れた物じゃありませんわね』
その一言が添えられ、ファフニールのコックピット内の映像が愛染たちに投影される。
「えっ!?」
コックピットの中は、真っ赤に染まっていた。
カメラも、操作レバーも、座席も…ましてはコックピットに座る鴉羽零亜すらも真っ赤に染め上げていた。
「…もしかして!」
愛染はふと思い出す。
鴉羽と戦う際にコックピット内のカメラをオンにしなかった。
その理由は自分が血まみれだからだったのではないかと。
「か、鴉羽君!」
愛染は今の鴉羽に声をかける。
『無駄ですわ、今の鴉羽に意識はありません』
「そんな…!」
『ですが、既に医療班も出動済みですわ。愛染珊瑚、今は彼の無事を祈り、自身を労うべきではなくて?』
「わ、かりました」
ソフィーの言い分は的を得ていた。
確かに今気絶してる鴉羽に声をかけても意味はないし、むしろ目を覚ました方が辛い可能性もある。
そして、忘れていけないのは愛染はライブが終わったばかりであるという事。
自身は自覚していないかもしれないが、身体に響いている可能性もある。
とにかく、大型オールイーターの殲滅戦はARMOR’s側の勝利で幕を閉じた。
その代わりとして、ファフニールという機体に謎が残ったのもまた事実。
「鴉羽君…」
◇◇◇
「はっ!?」
目を覚まし、身体を起こす。
足元に水が張り巡らされ、地平線が広がっている…ここは。
「あの場所か」
前に俺の過去が見えた場所だ。
真っ黒なドラゴンがいて、拍手する奴が居て、俺を撃った奴がいるあの場所。
どういう条件でここに来れるんだ…?
とにかく、また歩くか。
俺は立ち上がって歩き始めようとした、次の瞬間
――ドシィィン!
「くっ!?」
風圧と荒波を起こしながら俺の真横に件のドラゴンが着地する。
何故、この姿に懐かしさを覚えるんだ俺は…?
「お前、俺を知っているのか!?」
前は拍手とか様々な事が起きて何も聞けなかったが今なら聞ける。
この真っ黒なドラゴンは何なのか。何故懐かしい気持ちになるのかを知りたかった。
【カァァァ…】
しかし、ドラゴンは両翼を大きく広げるだけで俺が求める回答は返ってこなかった。
それもそうか。俺の言葉すら理解できているのかどうかも分からず、人の言葉を発せられるのかも分からない。
【…】
「…」
深紅の眼と見つめ合い、このドラゴンは本当に美しい姿だと俺は思う。
黒曜石のような鱗、瞬き光沢を帯びた美しい深紅の瞳。
だが、コイツがした行いを考えるとこの美しさも恐怖へと転移する。
黒い嵐の元凶とも言われているこの黒い龍。
…けど、疑問点があった。
「お前が理解できているとは思えないが、もう一つ聞きたい」
俺は俺の中に生まれた疑問を投げかける。
「何で、愛染さんを助けた?」
愛染さん本人から聞かせてもらった過去の中で、黒い嵐の元凶であるこの龍に救われたという話が合った。
だが、俺が聞いた限りの情報では龍は17年前に起きた黒い嵐で黒い龍と共にオールイーターが出現し、世界は混沌に包まれ、それから1年経ってからは黒い嵐が発生しなくてもオールイーターが出現するようになった。
その理由も分からないが、問題なのは『黒い嵐が発生しなくなったこと』もそうだが…一番は元凶が『人を助けたという実績がある』ということだ。
黒い嵐の元凶が人を助けるメリットは何にもない。
そのはずなのに…助けた実績がある。
それを知りたい。
【…】
すると、俺の言葉が伝わったのかドラゴンは口を閉じて首を下ろし、俺の前に額を向けてくる。
俺は流れるようにその額に手を添える。
【価値ヲ証明シナキャナラナイ】
「!」
【罪ヲ払拭シナキャナラナイ】
「お前…」
【人ヲ助ケナイトイケナイ】
ドラゴンの声が聞こえてきたのも驚いたが、それ以上に気になることも増えた。
ドラゴンは『自分自身の価値を証明すること』と『罪を払拭しないといけない』ことを考えて行動していたということ…でいいのか?
けど、その言葉は前の過去の一片で証明できる。
俺を撃ったあの女性は…
『貴方自身に全てを委ねる。価値を示せ、とは言わないわ。私が願うのは今行っている行為を捨て、自分自身の罪を出来るだけ払拭し…出来るだけ人を救う事』
と言っていた。
尚更、意味が分からない。
自分で黒い嵐を引き起こした理由が分からないし、人助けをする理由もわからない。
まるでマッチポンプのような行為だが…何故そんなことをするのかもわからない。
「…」
俺はこのドラゴンを知っている。
知っているはずなのに、思い出せない。
俺とお前に何の関係があるって言うんだ…?
【カァァァ…】
「ん?」
急にドラゴンは首を上にあげ、俺の手から離れると同時に口を開き、遠くを見る。
俺も共にその方向を見る。
「!」
そこには…俺を撃ったやや水色がかった髪色をする科学者が俺たちを見て居た。
『よかった…1年間の急ピッチの研究だけど、効果はあったみたいね』
「研究…?何だそれは」
『これなら私の願いも、貴方の願いもかなえられるはず…!』
俺の問いかけを無視し、そのまま話し続ける。
声は届いていないみたいだ。
『どうか、そのままの貴方でいて。貴方は黒い嵐の元凶で生まれてしまったせいでオールイーターが現れてしまった。けど生まれることは罪じゃない、貴方は初めて感情を知り、実際に人を救って見せた。証明できるわ、貴方自身の価値を貴方自身が』
話の内容的にこの黒い龍の事だろう。
黒い龍が生まれたことにより、オールイーターが出現したということは事実。
だが、初めて感情を知って人を救って見せたという点。
さっきドラゴンの額に触れたときに流れ込んできた声が感情を持つドラゴンの声であり、人を救ったのは恐らく愛染さんの事だろう。
そして…そんな行動理念を示したのはこの科学者の『何らかの研究成果』であることも分かった。
『そのまま人を助け、価値を示し、自分の足で世界を進みなさい…それが貴方を――』
と会話の途中で周囲が真っ白な光に包まれ、何も見えなくなったと同時に
「…はっ!?」
目を覚ました。
見覚えのある天井、ベッドの周りに広げられているカーテン。
また医務室か…しかも今回は点滴も付けられている。
とりあえず、身体を起こそうとするが
「か、身体が…!?」
指先すら動かせないほど、身体が固まっている。
というか痛い…!
何だこれ、今までファフニールに乗ってきたがここまで痛みの反動が来るのは初めてだ。
てか、何があった!?
声が聞こえて、意識が無くなって、あの場所に行った…それは覚えてるが意識がなくなってから何が起きたのかが分からない。
「…ファ、フニール」
ファフニールに問いかけ、いったい何が起きたのかを教えてくれと願った。
「出現した全てのオールイーターの殲滅…どうやって?」
ファフニールは出現した全てのオールイーターを倒したことを教えてくれたのだが、俺が聞きたいのはそこじゃない。
どうやって、オールイーターを倒したのかだ。
俺はパイロットであり、ファフニールを動かしていたが…そのパイロットが気絶してたんだぞ?
なんて疑問に思ったが、その疑問は俺自身が答えを見つけてしまった。
「お前は…自動で動くんだったな…」
ファフニールは俺の感情を理解し、動く。
そう、コックピットに俺が居なくても動くんだファフニールは。
多分、ファフニールが全てのオールイーターを殲滅したんだろう。
そうなるとパイロットである俺の存在意義って何なんだろうな。
自動で動くのならそれで…なんて悲観的になっていたら
「…え?」
それは違うとファフニールに指摘されると同時に『私のもとに来てください』という言葉も添えられた。
ファフニールの元に行くのは良いんだが…俺の身体は今、ピクリとも動かないんだぞ。
今すぐは無理だ。
…不満を言いつつも分かってくれたようでよかったよ。
とりあえず、今はただ休もう。体は動かないし何もできないしな。
ベッドに身体を預けて、もうひと眠りしようと思っていたら
――シャッ。
「あ!鴉羽君、目が覚めたの?」
「愛染さん?それに…」
「私もいらっしゃいますわ」
カーテンが開き、愛染さんが入ってくると同時にソフィー生徒会長も入ってきた。
「身体は大丈夫なの?」
「体中が痛すぎてピクリとも動かない」
「え!?大丈夫なのそれ…」
「多分…」
愛染さんが心配そうな眼差しを俺に向けてくる。
「大丈夫、治るよ」
「…今はそう信じるしかないか」
なんていいつつ、愛染さんは近くの椅子を持ってきてそれに座る。
「鴉羽零亜」
「は、はい?」
今度はソフィー生徒会長が俺に問いかけてくる。
「貴方、何をしましたの?」
「…?」
「単騎で大型オールイーターを3匹殺し、挙句の果てには出現した全てのオールイーターを殲滅…明らかに普通じゃありませんわ。何をしましたの?」
「わからないんです…」
「分からない?」
「俺は愛染さんと一緒に蟷螂のようなオールイーターと戦って、途中から意識が無くて…気が付いたらここに」
「…気絶していましたの?」
「はい」
「そうですか…」
やはり、ソフィー生徒会長も単騎で全てのオールイーターを殲滅したファフニールと俺の事が気になったのだろう。
俺だって一緒だ。気絶している間に何が起きたのか知らないから気になっている。
「とりあえず、今は休んでください。また元気になった時に詳しく聞きますわ」
「わかりました」
そう言い残し、ソフィー生徒会長はこの場から去ったのだが…愛染さんは椅子に座ったまま、俺をジッと見て居た。
「ど、どうした?」
視線に耐えきれず、俺は愛染さんに聞く。
「…」
返答はなく、愛染さんは静かに俺の力が入らない手の上に自分の手を重ねた。
「鴉羽君」
「な、なに?」
「あの暴走は驚いたけど、私『たち』から言わないといけないことがあるの」
「私たち?」
「私たちを守ってくれてありがとう」
「!!」
愛染さんは優しく微笑みながらそう言った。
「鴉羽君がボディガードで、ライブの日までずっと私たちを守ってくれたおかげで誰も傷つかず、碧海への歌も送れた…本当にありがとう」
「礼には」
「及ぶよ、十分に」
「そう…なのか」
「うん」
俺の頑張りは無駄じゃなかったって事だろう。
相対する敵を完膚なきまでに叩き潰し、蟷螂という最終兵器すらも倒した。
今回だけは自分の頑張りを誇ってもいいかもな。
「そういえば、愛染さんの親の二人は?」
「捕まったよ。今はAT学園上層部と警察が事情聴取をしてるみたい」
「そうか…」
「正直、私もある意味犯罪者の親の子供だからさ炎上とかするのかなって思ったけど…想像以上に皆は寛大だったよ」
そういいながらスマホを操作し、SNSを俺に見せてくれた。
愛染さんの言う通り、親の二人は本当にとんでもないことをした。
大型オールイーターを目覚めさせ、そのせいでどんな被害が出てもおかしくなかったが、その責任を愛染珊瑚さんが背負う必要はない。
それが世間の愛染珊瑚さんへの言葉だった。
「はぁ~…私も、やっと肩の荷が下りるよ」
「ある意味、自由にもなったし願いもかなえたしな」
「まぁね。でもアイドルとしての夢は絶対に諦めないから。もっともっと上を目指すよ?」
「流石の一言…てか、思ったんだけど」
「うん?」
「俺の任務は完遂…ってことでいいんだよな?」
俺の任務は愛染さんのライブまでのボディガード。
気絶したとはいえ、ライブは大成功で終わり、守り切ることが出来た。
「多分、そうだね。阿達さんからの連絡も来ると思うけど…今の鴉羽君じゃ無理だよね」
「少なくとも身体が動くまでは待って欲しい」
「わかった、私から言っておくから」
「助かる」
こんな状態で報告は受けられない。
まぁ身体が治るまではゆっくり休むとしよう。
「…あとね?」
「ん?」
すると、愛染さんは椅子から立ち上がり俺が寝ているベッドに手を添えて
「これは…私個人としてのお礼」
動かない俺の身体を優しく抱きしめた。
あまりにも急展開すぎるあまり、顔が熱くなると同時に焦りが心を支配する。
「はっ!?お、おい…!」
「ごめん、今日だけは許して」
「い、いや…!愛染さんはアイドル」
「アイドルだけど今は…一人の女の子として私の言葉を聞いて?」
「…わかった」
俺は抵抗の意志を隠した。
そもそも抵抗できないが
「本当に私を守ってくれてありがとう。色んな人にボディガードになってもらったけど鴉羽君が一番良かったし、一番うれしかった」
「そりゃ…どうも」
「…それに初めてこんな気持ちにもなったし?」
「初めて?」
「うん」
「その『気持ち』って?」
「…言えない」
「へ?」
「そこは乙女の秘密。それが分かるようになったら鴉羽君が女心が分かる一人前の男の子になるから」
「お、おう?」
よ、よく分からない…愛染さんの初めての気持ちっていうのがな。
それから少したち愛染さんは俺の身体から離れて、そそくさと医務室を後にした。
「ふぅ…あー、びっくりした」
まだ鼓動が収まらない中、誰も居ない医務室で一人で呟く。
(何というか…良い匂い、だったな)
◇◇◇
「…はぁぁぁぁ…!」
私は医務室から出てすぐに壁に背を預けて座り込む。
(私の馬鹿…!)
熱い顔を両手で覆い、さっきの行動を一人で恥ずかしがる。
「後悔は…してないけど…」
アイドルに恋愛をしちゃいけない。
でも、それ以上に…『好き』って気持ちが抑えられない。
顔を見ると、声を聴くと…心臓がトクンと跳ねて気分が高揚する。
この気持ちは伝えられないかもしれないけど、鴉羽君の前にいる時だけは
「…一人の女の子として…」
ただの恋する乙女てして関わらせてね?
もう私のトキメキは止まらないから。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




