第2話 人機一体
「黒と赤のARMOR…何だ、この機体」
初めてみる。
いや…初めて以上に何なんだこの機体は。
所々鎖のようなもので縛り付けられているが…黒色と赤色の装甲で背面に翼のような大型スラスターが二つ、腰部分にサイドスラスターが二つ。
全体的には曲線を描くシャープな造形だが所々に追加で貼り付けられたかのように増設された装甲が付けられていて通常のARMORに比べると前腕部がやや長く、ヘッドパーツには二角の角のようなものがある。
しかもこのARMOR、ひとりで動いたよな。
ARMORという機体は人が乗って初めて動き出す。というのもARMORの無人化がかなり厳しい。オールイーターの動きに反応し、五体だけではなく、指先や足先の操作も要求されるため、ARMORの完全無人化にはかなりの高度のAIが必要だ。
並のAIじゃ処理が追い付かず、熱暴走する可能性もあり更にはオールイーターに喰われるか破壊されるしかない。
過去に実験用の無人化ARMORでの実践があったが…結果は見るまでもない。
だが、こいつは勝手に動いた。
しかもARMORの装甲や内部の関節部分に錆や傷がある所を見るに誰も整備していないのは一目瞭然で、尚更誰も乗っていないことが明らかだろう。
この機体の謎が深まる。
【キュルルルルル!!】
「そうだ忘れてた!!」
機体の事を考え込んでいたら上からサソリ一匹、棘を飛ばしながら降ってきた。
――カンッ!
「…え?」
また、ARMORは勝手に動き出しサソリの放った棘から俺を守るかのように右手で防いだ。
――ドゴォッ!!
「こ、今度は殴り飛ばした…!?」
棘を防いだ後に右手を握りしめ、サソリを殴り飛ばした。
殴り飛ばされたサソリはそのまま壁に激突し、やや原型を残しつつ…動かなくなった。
何なんだこの機体…?
すると。
「!」
プシューッという音と共に胸のハッチが開き、何度も見て、何度も懇願した…無人のコックピットが姿を現した。
「やっぱり誰も乗っていない…乗れってことか?」
予想通り誰も乗っていない。
このARMORが何なのかはわからないが、俺に乗れと言っている…気がする。
コイツの顔を見ているとそんな気がした。
それにあと二匹のサソリが残っている。今乗り込まないとまた死にかけてしまう。
俺はコイツの左腕を渡り、コックピットに乗り込む。
背もたれに背を預けると同時にハッチが閉まる。
「えっと確か…」
本来、整備科の生徒がARMORを許可なしに動かすのは規約違反だが…緊急事態だ、許してくれ。
操作方法はある程度は知っている。左右の操作レバーを握りしめ…呼吸を整える。
「起動シークエンス、開始」
と呟いた次の瞬間。
「いッ…!?」
操作レバーを握った俺の両手首、両足、首に何かが付けられる。
黒色のブレスレットのようなものだが…。
と考えこんでいるのもつかの間。
「がぁっ…!?!」
膨大な情報が直接、頭に流れ込み続けている。
ARMORの詳しい起動方法、この機体の基本情報、スペック、レーダーの範囲、残りの活動時間、パワーエネルギー残量、シールドエネルギー残量、ヘルスエネルギー残量、このARMORの装甲の状態や損害レベル等々、聞いたことが無い単語も何もかもが理解でき、俺の視界にに謎のパラメーターのようなものが映し出された。
「画面…映像じゃない…?まるで…網膜に直接投影しているかのような…!!」
あまりにも急な事で意識が追い付かず、夥しい量の情報が頭に叩き込まれたせいで鼻と眼から血が垂れ、心臓がバクバクと脈打ち始め左右の操作レバーを握りしめ、痛みに耐える。
「なるほど…お前…『ファフニール』っていうのか…!」
身をよじったりなんだりしているうちに情報は流れてこなくなり、やっと痛みに慣れ始めた。
「はぁーっ…はぁーっ…こんなの乗ってたのか…パイロットのみんなは」
呼吸を整えて顔を上にあげる。
目の前に広がるレティクル、この機体の各エネルギー残量、機体の損傷レベルなどなど。
「…行ける」
頭の中に流れ込んできた情報と謎の感覚に身を預け、左右のコンソールを操作し、設定完了。
最後に両手のレバーに付けられたスイッチやらボタンやらを押して起動準備完了。
黒色と赤色のARMOR…いや。
「まだ死ねない、俺に力を貸してくれ…」
――ファフニールッ!!
ファフニールを動かす。
黒い鎖で拘束された両足や壁から腕につけられた鎖を無理やり引きちぎり…立ち上がる。
ゴウンゴウンと重低音が鳴りながらもファフニールは俺が操作した通りに動く。
「す、すごい」
操作レバーやボタンで操作しているとは思えない!
このARMORが俺の身体の一部のように動く。
しかもファフニールのアイカメラの映像が直接俺の眼に映るせいもあってか俺自身がファフニールになっているかのような感覚。
まるで!
「人機一体…!」
立ち上がると同時に目の前には威嚇するかのようにこちらを見る二匹のサソリ。
さっきまで逃げていたが、今度はこっちの番だ。
右手を上に振り上げて…!
「ふん!!」
――バァンッ!!
虫をつぶすかのように手のひらでサソリを叩き潰した。
潰されたサソリは原型はややとどめてはいるが…ピクリとも動かなくなった。
そのまま叩きつけた右手を左に向かって振り抜きもう一匹のサソリをビンタのように叩いて吹き飛ばす。
「これが、ARMOR…!」
今まで以上に感じる安心感、オールイーターと戦えるこのARMORという力。
俺は、これに守られてきたんだな。
「んん…!?」
一瞬頭にノイズみたいなのが聞こえてきた。
何だこれ…?
「声、か?」
耳から音を拾ったのではなく、頭の中に直接声が聞こえてくる。
まさか、この…ARMOR喋るのか!?
い、いや…そんなことはあり得ない。だってARMORの無人化は過去に失敗している。
パイロットのサポートでシステムが指示を出すのは聞いたことがあるが…頭に直接流し込む奴があるか?
少なくとも整備科の授業でも聞いたこともないし、整備の一環で他の機体を見る機会は何度もあったが…直接頭に情報を流す機体は見たことがない。
「…橋に迎え?」
頭の中に流れ込んできた指示は『正面橋に向かって』。
何故正面橋に…。
「ま、まだ戦ってるのか!?」
コイツ…いやファフニールはまだ橋で戦闘が起きた居ることを知って、そこに向かおうと話している。
俺に、戦えと?
「…いや、今はARMORがある。初めての戦場だが、お前となら行ける気がする」
そうだ…俺とコイツは今回限りの関係なんだ。これが終われば俺はまた整備に戻ってパイロットたちを支える。
だけど、今だけは…懇願したことを叶えさせてもらう。
「行くぞ…ファフニール!」
俺の返事に反応したファフニールが次の指示を俺の頭に流した。
◇◇◇
AT学園避難区画。
「零亜…!」
零亜が一人で何処かに向かって以降、明楽は避難所で零亜を探していた。
正面橋でオールイーターとARMORが戦っていることは明楽だけではなく、この場にいる全員が知っている。
ARMORの強さやAT学園に所属するパイロットや一部の防衛機関のパイロットの強さは分かるが…万が一、撃ち漏らしが起きたら今この場にいない零亜が危ない。
その一片の心配をなくすために明楽は零亜を探している。
「西園寺?何をしている」
「…」
零亜を探す明楽に一人の女性が話しかける。
その女性を見た瞬間、明楽の顔つきが一気に鋭くなる。
この女性の名前は『鈴木康子』。整備科の副担任なのだが…整備科の生徒に嫌われている。
勿論、その嫌っている人の中に零亜も入っている。
何故整備科の面々が嫌うのか?簡単だ、この世界は現状立場としては女性の方が高い。
そんな立場にあやかり高飛車発言で整備科の生徒を無理やり働かせるなどの問題行為が横行している。
しかも、コイツは学園長の前ではこびへつらうため中々この学園から消えない。
「お前に言う事はない」
「教師に向かって何だその口の利き方は?」
明楽と鈴木が衝突しているのを他の整備科や非戦闘員は眺める。
「教師って認めてないからかな、僕は」
「貴様…!」
「当たり前だろ、整備科を人として扱わないような行動している奴を教師なんて誰が言うんだ?」
「ふん、結局はARMORの整備しかできない男風情が」
「お前…!」
と衝突していると。
「何をしておるお前たち…」
「が、学園長!?」
「東雲学園長…」
杖を持ち、スーツを着た老婆が二人の間に入った。
東雲南雲。それがこのAT学園の学園長である。
過去にパイロットであった経験があり、しかも世界最強のARMOR’sとも言われたこともある。
「学園長!聞いてください、コイツが」
「…そこな少年、西園寺だったな」
「学園長!?」
「ずっと見て居たぞ。何かを探しておったが…何を探していたのだ?」
東雲学園長は鈴木の話を無視し、明楽に問いかける。
「…友達を探しているんです」
明楽は零亜を探していることを学園長に告げる。
「友達…はて、ここには全員が避難していると思っておったが」
「い、いや…それは…」
「まさか、確認していないわけではないな?」
「も、勿論です!」
的確に鈴木を鋭く貫く東雲学園長。
「何かあったのかい?」
「食堂で一緒に避難していたんですけど…通信端末で誰かと話した後、何処かへと言ってしまって…」
「その友人の名は?」
「整備科1年2組、鴉羽零亜です」
「なんと…鴉羽か」
その名前を聞いて学園長も他の整備科の生徒や負傷の影響で戦えないパイロットも驚く。
鴉羽零亜という名前は有名なのだ。パイロットにとっても、整備科にとっても。
「学園長、知っているんですか?」
「勿論だとも…生徒一人一人の事は全て頭の中に入っておる。何より鴉羽は整備科の中でもかなり有名人。それがいないのか…何処に行ったのか見当も?」
「はい…」
「ふむ…では探すとしよう」
「い、良いんですか!?」
「学園長!そんな一人の男の為に人員を割くなど!」
「一人の男、といったのかお主」
「え」
零亜を探そうと決断したが鈴木の横やりが入る。
しかし、その横やりを東雲学園長は正面からへし折った。
「学園にとっては男女も関係なく、等しく私の生徒だ。その生徒が危険にさらされているということなれば、教員として助ける…当たり前のこと」
「し、しかし…!」
「元はお前の管理不足だ。避難所に避難した面々の確認を怠らなければこんなことにはならなかった、違うか?」
「…ッ!」
横やりをへし折られ言葉で説き伏せられた鈴木は黙ってしまう。
「最後に見た場所は?」
「食堂前で…零亜が走り去ったところはギリギリ追えましたが途中ではぐれてしまって」
「向かった方向は?」
「校舎や武装用の整備所の方だと思います」
「あい、分かった…その付近の監視カメラを確認するか」
と確認しようとしたところで。
「し、東雲学園長ーッ!!」
今度は別の女性が走りこんできた。
「はぁ…はぁ…」
息を切らし、ショートボブの髪型でやや身長は小さい優しそうな女性。
「一条…何かあったのか?」
「ほ、報告すべきことが二つあります!」
「通信ではなく、直接伝えようとするのはお前のいい所だな…申してみい」
「まず…正面橋のオールイーターとの戦闘が激化し、一部のARMORの破損や行動不能状態、パイロットの負傷など戦況が少しずつ不利になりつつあります」
「なるほど…想像以上の戦力がこちらに来ているのか…もう一つは?」
「…」
「…どうした?」
一条と言われた女性がもう一つの事を報告しようとしたが…一瞬黙る。
「…あり得ないことが起きました」
「あり得ないこと?」
「ARMOR整備所の地下…」
「!」
「あの機体が…動き始めました」
「アレが…?」
ARMOR整備所の地下にある『とある機体』が動き出したという事。
それを聞いた東雲学園長は一瞬驚く。
「誰が動かした?」
「そ、それが…わからないんです」
「わからない?」
「あの機体は通信機器が取り外されており、こちらの指示は何一つ送れません」
「…コックピットのカメラはないのか?」
「地下深くにある影響か映像が届かないんです」
「ふむ…その機体の反応は?」
「こちらに」
そうして大型ディスプレイにマップを開く。
すると、ARMOR整備所の地下にARMORの反応があるのか赤い点が付いている。
「…本当に動いているのか」
「はい…うん?…え、えぇっ!?」
「今度はなんだ?」
「ち、地下の出撃用油圧カタパルトが起動しています!?」
「何…!?」
「搭乗機は…『ファフニール』!」
「映像を」
一条が驚きの声を上げると同時に、指示通り映像が大型ディスプレイに表示される。
その画面には黒と赤色の機体が鎮座しており、射出前の状態で待機していた。
そして…
――ドシュゥゥゥゥンッ!!
上方向にファフニールという機体が射出され、そのままAT学園正面橋の方へ飛んでいく。
「空中で姿勢制御してる…ということは本当に人が乗っているの…?」
「…もしや」
ーーー
場面は変わり、AT学園正面橋。
そこは戦火の渦にまみれていた。
「く…!コイツ!!」
零亜が整備したARMOR『紅』。
そのパイロットは今もなおオールイーターと戦い続けていた。
1年生2年生がAT学園を守り、3年生は市街地にて戦闘している。
『赤月!私の事は良いから下がって!武器も破壊されたら…』
「うるさい!黙って!」
紅はレフトレッグが抉られた機体を懸命に守っている。
その機体の中には赤月と言われる紅のパイロットの友人が入っている。
彼女は家族を守るためにこの学園に来た。
友人も守れないのは嫌だと頭の中に言い聞かせ、大型のオールイーターに対して素手で戦っている。零亜が整備したアサルトライフルは別のオールイーターに銃身ごと裂かれてしまいもう撃てない。
しかも武装が無くなってしまった機体は赤月だけではない、他のパイロットもそうだ。
損傷機体や負傷パイロットの退避、弾切れや武装の変換…そして物量でオールイーターに押されている影響で少しずつAT学園の戦線が下がりつつある。
「こんな後続まで攻撃が来る…このままじゃ!」
『赤月!良いから私を置いていって!』
「くっ…このまま引くくらいならアンタも一緒だよ!」
『ちょ、ちょっと!?』
「紅!損傷機を戦線から下げる為一時的に戦線を離脱する!」
正面から殴り合っていたオールイーターを蹴り飛ばして、橋からつき落とすと同時に損傷機体を担いで戦線から離脱する。
しかし。
『赤月後ろ!!』
「えっ!?」
突き落としたはずのオールイーターが橋の下から這い上がり赤月の機体を後ろから切り裂いた。
「!?」
バチバチと火花が散り、ARMORの装甲の破片が飛び散り紅は倒れてしまう。
「紅!きゃっ!?」
その倒れた紅に向かっていくオールイーター。
【キュルルルル!!】
口が六方向に開き、紅を捕食しようとしている。
「紅!動いて!」
『早く逃げてッ!!』
「…あ」
画面に少しずつ大きく広がっていくオールイーターの開いた口。
「ごめん…」
『赤月ィッ!!』
このまま喰われると感じた赤月は…家族や友人に謝罪した。
「ごめん、皆…!」
そこへ。
――ドゴォォォォンッ!!!
「なに…?」
謝罪をしている紅とオールイーターの境目に『何か』が降ってきて、オールイーターを踏みつぶした。
相当の重量があったのか辺りに瓦礫と肉片が舞う。
【キュルル!!】
踏みつぶされたオールイーターは半分以上、原型が残っていない状態でもお構いなしで口を開き、降ってきたARMORに噛みつこうとする。
しかし…舞った瓦礫の中から出現したのは黒く先端が赤色の大型の剣。
その剣は舞った瓦礫諸共オールイーターを斜めに。
――グシャァァッ!!
叩き切った。
再度飛び散るオールイーターの肉片、血しぶき。
「嘘…一撃…!?」
目の前に映る機体が何なのかすら分かっていない赤月。
それもそのはず、ARMORの整備所にこんな機体はなかった。
「あ、ありがとう…おかげで助かったよ」
とにかく助けてくれた機体に感謝を伝えるが。
「!?」
何の返答もせずに黒と赤色の機体は後続まで来ていたオールイーターたちを一匹一匹懇切丁寧に大剣で叩き潰しながら前へ前へと突き進んでいく。
【キシャァァァ!!】
オールイーターもただでやられないように攻撃を仕掛けたり、物を投げたりするが…そのARMORはひらりとかわし次のオールイーターも叩き潰す。
まるで動きが分かっているかのように。
「す、すごい!」
大剣で的確に潰す力にも惚れ惚れするがそれ以上に凄いのがあの機体のパイロットの操縦技術。精密操作も何のそのと的確にオールイーターからの攻撃を躱しつつ、的確に攻撃を与える。
そしてあの黒と赤の機体の参入もあってか後続にいたオールイーターは全て駆逐され、損傷機体や負傷したパイロットは最前線を離脱でき、AT学園の正面橋の門の下まで避難することが出来た。
『乗っているの誰なんだろう…』
「誰なのかはわからないけど命の恩人であることは確かね」
『赤月は大丈夫なの?』
「かすり傷だから」
他の避難者と共に橋の向こうを見る赤月。
今も、あの黒と赤色は最前線よりも先に立ち、敵をなぎ倒している。
その姿は。
「…」
最前線に立っていた『学園最強』も眼にしていた。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




