第28話 今も戦う魔龍へと
この蟷螂がライブ会場を目指しているとなれば、話が変わってくる。
俺はボディガードとしてライブ会場に居る愛染さんや阿達さん達に愛染さんのファンが居る。
そしてARMORに”sとして戦えない人たちを守らなきゃいけない。
(…分かってる)
ファフニールのいう通り前に戦ったムカデに比べてコイツは俊敏かつファフニールのパワーと同じくらいの力を持つ。
何が負け筋に化けてもおかしくない。
常に集中しなきゃいけない。
「ふぅっ…!」
俺は両方の操作レバーを握り直して、頭の中で俺がすべきことを復唱する。
まずライブ会場の死守、これが絶対。
そして時間を稼ぐ。
蟷螂の目的はライブ会場にたどり着くことであり、同時にナンバーズの三人や他のARMOR”sも来る。
それまでは臨機応変にコイツと戦わないといけない。
【キキキャ!!】
「!!」
再度動き出したファフニールの音に反応し、蟷螂の鎌がこちらに振り下ろされる。
それを横にスライド回避しながら、大剣で頭を狙って振り下ろす。
――ガキィン!!
【キキ…!】
「そう簡単には…いかないよな!」
しかし、鎌に受け止められ火花が散る。
――ギギッ…ギギ!
「互角…なのは知っているが、戦いづらい…!」
ムカデと違って一対多数ではなく、一対一のタイマン。
自分の力で何とかしないといけないし、今まで叩き潰してきたオールイーターたちはここまで強くはなかった。
定期的に他のオールイーターとは違う別格な奴がいる。
アイツらは何なんだ?
「そんなこと考えてる場合じゃないか…!」
今はいい、相手はオールイーターだ。
倒す事だけを考えろ!
鍔迫り合いになりながら、レッグで蟷螂の胴体に蹴りを叩き込む。
【キキキッ!!?】
よし、蹴りが蟷螂の胴体を捕えて体勢が崩れた!
このまま…!
「ぶった切る!」
両手で大剣を握りしめて、蟷螂に振り下ろす。
【キキキッ!!】
「ダメージを抑えたか…!!」
想像以上に蟷螂の反応速度が早く、頭部を捉えた大剣の振り下ろしは決まらなかったが…片腕を鎌ごと切断した。
黒い液体が噴き出し、ファフニールの装甲をより黒く染める。
よかった、返り血でカメラアイを染められると本当に困るからな。
「はぁ…っ」
軽く息を吐く。
やっぱり痛い。蟷螂の情報は絶えず今も流れ続けているがまだ耐えられる。
出血とまではいかないが、痛みは身体中に響き渡る。
それでも俺は倒れるわけにはいかない。自分の身体に鞭をうって立ち続ける。
「脆いな、アイツ」
一旦、痛みを忘れて目の前で倒れている蟷螂を見る。
見事に鎌は乖離し、黒い液体が流れ続けている。
このまま頭を切り落とせば終わるだろうと思った。
――ブクブクブク…!
「…?」
蟷螂の切り離した腕の部分の付け根の皮膚が急にブクブクと泡を吹き出すかのように脈動し始めた。
いやな予感がし、少し蟷螂と距離を取る。
すると
【キキ…キキッ!!】
「マ、ジか…!?」
切り落としたはずの鎌が…再生した。
腕から鎌へと少しずつでも何でもなく、一気に元の形へと戻っていった。
「再生能力が高いのはわかったが…高すぎるだろ!?」
まさか切り離した腕を元通りになるまで再生するとは思わなかった。
というか…コイツ、殺せるのか!?
この蟷螂は腕を切り離しても、元通りになるほどの再生能力を有する。
【キキ…!】
「…!」
元通りになった鎌と共に此方に向かって鎌を振り下ろしてくる。
(一撃で致命傷を狙うしかない…!)
それを弾きながら、もう一度大剣を構えて、蟷螂の胴体に大剣を突き刺す。
【キキ!!?】
「うぉぉぉぉぉ!!」
そのまま全スラスターを解放し、蟷螂を建物に叩きつけながら大剣をより深く突き刺し、引き抜く。
反対側が見えるほどの大穴が蟷螂の胴体に出来上がり、黒い液体が吹き出す。
しかし…反対側すら見える大穴はみるみるうちに塞がっていき、気が付けば傷なんてなかったかのように元通りになってしまった。
「マジかよ…」
流石に言葉が出てこない。
生き物なら致命傷につながるはずの傷すらも元に戻せるほどの治癒力は度肝を抜かれる。
…ファフニールも自分が出した指示を一部取り消して、有効打を探す指示に切り替えた。
「…わかった、ファフニールのいう通り有効打を探す」
そういったと同時に
「ぐがあぁぁぁぁ!!?」
激痛が全身を走る。
有効打になりそうな事が全て俺の頭の中に流れ込んでくるが…いつも以上に痛い。
痛みは…慣れるしかないが、何でこんなに痛いんだ…!?
とりあえず、現状の蟷螂の弱点は『視界不良』という事のみ。
何故、視界だけが悪いのかは気になるがいったん忘れよう。
だからとにかく…!
「今は…蟷螂を切り刻め…!!」
また蟷螂と正面からぶつかり合う。
斬っても切っても再生するのはわかった。なら…再生が追い付かないタイミングや再生できない箇所。そういう弱点が分かればいい。
とにかく、それを闇雲に探し出せ!
なんて思っていたら
『鴉羽!聞こえるか!?』
「八神さん…?」
急に八神さんから通信が入った。
何事だとだと思っていたら、とんでもないことを言われてしまった。
『落ち着いて聞いてくれ!今、三か所で前のムカデのような大型のオールイーターの出現を検知した!』
「!?」
『今、ナンバーズの全員は一か所ずつに割り振られ、そっちの対応に向かっていて他のARMOR’sもそっちの対応に向かっている!それと…鴉羽への援軍にはかなりの時間を要する!何でもそのオールイーターが目覚めてから他の小型のオールオーターたちが鴉羽への最短ルートを塞いでいるようで中々進めないらしい!』
(さっきの激痛はそう言う事か…!)
蟷螂の目覚めに反応するかのように他の個所でもオールイーター達が一斉に目覚めたらしい。それと有効打を聞いた際に生じた激痛は他の個所でもオールイーターが目覚めたからだろう。あぁクソ…!
(痛い…!)
網膜投影を解除し、身体を両腕で覆う。
痛い痛い痛い!!全身から何かが這い出ようとするかのように激痛が外側に向かって伝播する。血が止まらない…!
『それとソフィーから伝言が一つ!他のARMOR’sの増援は無いが…もしかしたら一機だけ増援が来る可能性はある。とにかく頑張ってくれと!』
「わかり…ました!」
『すまない…かなり辛いかもしれないが、頑張ってくれ!こちらもすぐに片づけてそっちに向かう!』
「わかりました、八神さんの方も気を付けて…!」
八神さんの通信を終えて、無理やり呼吸を整える。
増援は見込めないが一機だけ来る可能性がある。
それまで耐えるか、この蟷螂を殺すか…!
「持ってくれよ…俺の身体…!」
◇◇◇
「はぁっ!はぁっ!みんなー!ありがとうー!!」
ライブ会場では愛染が元々のプログラムと同じように全ての歌を歌い切り、同時にアンコールにすら答え…何とか全ての歌を歌い切り、会場は熱狂の渦に飲まれたまま、ライブは終幕を迎えた。
愛染はファンの全員に両手を振りながら、舞台から降りて行った。
「お疲れ様、愛染」
「うん…!」
「ライブは大成功よ、本当によく頑張ったわね」
舞台から降り、控室に戻った愛染を迎え入れる阿達を含めた完成者多数。
歓声を上げ、両手で拍手し、彼女のライブの成功を祝うとともに、自分たちはやり切ったんだと互いを褒め称える。
「本当に折れずにやり切ってよかった…!」
「それもそうだけど、愛染ちゃんも折れずによく頑張ったね」
「ありがとうございます!」
満面の笑みで愛染は賛美をその身で受けるがふと気が付いた。
周囲を見回すと『一人』この場に居ない。
「あれ、鴉羽君は?」
「…まだ帰ってきていないわ」
「えっ!」
「多分、まだ戦っていると思うわ」
鴉羽が出撃してからおよそ2時間ほど経っている。
それでもなお、彼は帰ってこない。
嫌な考えが愛染を含めた全員の頭の中をよぎる。
「ほ、他のARMOR’sは?」
「分からないわ。それに私はARMOR’sの作戦を知れるような人じゃないし、どうなっているかもわからないの…」
「そんな…!」
今も戦い続けているかもしれない鴉羽を考え、胸が張り裂けそうな思いをする愛染。
そこへ。
――プルルルル。
「え?」
愛染の学園から支給された通信端末の方に着信。
すぐさま、その着信に応答する。
『愛染珊瑚、だな?』
「し、東雲学園長!?」
相手はなんとAT学園学園長『東雲南雲』だった。
『この通信を受け取ったという事はライブは完遂したのだな?』
「は、はい…」
『…疲労困憊の中で申し訳ないが一つ、私からの指示を聞いてほしい』
愛染が静かになるとともに控室は静寂に包まれ、東雲学園長からの指示が伝達される。
『現在、ファフニールと鴉羽は一匹の大型オールイーターと戦闘中』
「今もですか?」
『今もだ。戦闘を開始してから大体2時間近く経とうとしている。それと援軍が到着する…はずだったが』
通信端末から日本列島の地図が3Dで表示されるとともに、他に3か所赤いマーカーが強調されている。
『マーカーの位置にムカデのような大型のオールイーターが目覚めた』
「!」
『鴉羽を除いたナンバーズは各一か所に向かうとともに出撃しているARMOR’sもそちらの対応に向かっている。そして鴉羽の援護に向かっているARMOR’sなのだが最短距離の道で小型のオールイーター達が出現し、未だ援護に迎えていない状況だ。そこで頼みがある』
「…」
『…鴉羽の援護に向かってほしい』
それはAT学園の学園長として、ナンバーズの司令官としての『指示』だった。
『他の者も向かえず、ただ一人で戦っている彼の援護を愛染珊瑚。お前に命じたい』
「…それは」
『無論、この命令は断ってもいい。愛染はナンバーズではなく、実戦経験もないのも承知の上だ。だが…今の状況的に今すぐに出撃が出来て、すぐに援護に迎えるのが愛染しかいないんだ』
「…」
学園長は愛染に命令を受諾するのか否かを問う。
ライブが終わったばかりで疲労もたまっている乙女に今すぐに戦場に出てほしいと告げる。
拒否権はあるが…愛染の答えは決まっていた。
「出撃したいです」
「愛染…」
受諾、それ以外はなかった。
「私…いや私たちはずっと鴉羽君に守ってもらえたからライブだって成功を収めた。それでも鴉羽君はまだ一人で戦ってるし、見殺しになんて出来ない…助けに行きたいです!」
『…後悔はないな。かなり地獄を見ることになるぞ』
「大丈夫です!」
『あい、わかった。なら覚悟を決めてからライブ会場のアリーナの裏口から出てくれ』
「わかりました…!」
そういって東雲学園長との通信を終えた。
「愛染、大丈夫なの?」
「うん、身体はまだあったまってるし体力も十分に残ってる」
「…なら頑張ってきなさい。私たちは愛染と鴉羽君の二人の帰りを待ってるから」
「はい!」
愛染は阿達に背中を押されたのち、ひとまず衣装を着替えて愛染珊瑚専用機用のパイロットスーツに着替えてからアリーナの裏口から外に出ると、そこには
「こ、コンダクター!?」
膝を折り曲げ、座り込んでいる一機のARMOR。
愛染珊瑚の専用機『コンダクター』がそこに鎮座していた。
特殊型ARMOR『コンダクター』。
全体的に白い装甲色に加え、スカート部分の装甲はピンク色で両足の先はブレードのように鋭く、背中には翼のようなジェット機構が備わっている。
武装はスカートに内蔵された『チェインファンネル』と両足のレッグブレード。
しかし、コンダクターの本領は武装ではない。
愛染珊瑚の動きをキャプチャーして動くリンク操作に加え、専用アビリティ『ホープウェーブ』が愛染の歌や行動に合わせて武装の換装や形状変化。
ありとあらゆる事象に対して適切に動けるのが愛染の専用機であるコンダクターの本領なのだ。
「…また、よろしくね!」
レッグを渡り、コンダクターのコックピットに乗り込んだ愛染はハッチを閉める。
「コンダクター起動」
愛染の声に反応し、コックピットの中に光がともりコンダクターが動き出す。
リンク操作が施されたコックピットの中には通常のコックピットとは違い、座席が無くモーションをキャプチャーする為の土台があり、パイロットの走る、飛ぶ、殴る、蹴るといったモーションに連鎖して動く。
そのたびにコックピットは振動や衝撃が伝播しないように最先端の耐衝撃システムが搭載され、パイロットの動きを阻害されないようになっている。
「ふぅ…」
愛染が両手を開いて閉じてを繰り返すと、それに連鎖するようにコンダクターのアームも開いて閉じてを繰り返す。
「準備万端!リンクモードを一時的に解除し、飛行形態に移行」
リンクモードを解除すると同時に、操作レバーがコックピット内に展開され、それを握りしめて愛染はコンダクターと共に空へと舞い、今も戦い続ける彼らの元へと向かう。
「待ってて鴉羽君…今行くから!」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




