第25話 夜のとばりが降りた時に
そんなわけで愛染さんとのシュミレーターでの訓練を終えて、日も落ちてきたころ俺は部屋で椅子に座りながら空を見て黄昏ている。
空は日が沈みかけ黒と橙色のグラデーションの空になっていた。
「…はぁ…」
温かいお茶を飲み、軽く息を吐く。
うむ、程よい苦みがいい。
(いよいよ明日か)
愛染さんのライブは明日始まる。
別に俺が歌って踊るわけじゃないけど、緊張する。
正直、本番に愛染さんのライブを潰そうとする元凶が何もしてこないなんて思えない。
絶対に何らかの行動をしてくるのは確実。そして、その行動は今までの比じゃないと予想している。
何かをけしかけてくる、何かを用意してくる。
予想はいくらでも付くが全ては明日で決まる。とにかく俺は害する敵を全てぶっ潰す。
後悔は…終わってからすればいい。
「ん?」
またお茶を飲もうと湯呑を持ったが、既に茶は無くなっていた。
少しため息をつきつつ、急須に入ったお茶を湯吞に注ぎ、茶を飲む。
「はぁ…落ち着く」
爺臭いかもしれないが、こういう行為こそ落ち着く為の布石となる。
すると
――コンコン。
「?」
俺の部屋の扉からノック音が聞こえてきて、一度湯吞を机の上においてから扉を開ける。
「やっほ、鴉羽君」
「愛染さん?」
ノックをしたのは愛染さんだったようだ。
緊急の指令かとは思ったが、別に忙しいとか急用っぽいとかそういう雰囲気は感じられない。
「どうしたんだ、もう夕方だけど」
「そうだね、ちょっと鴉羽君に用事。入っても?」
「別にいいが…」
「…ちょっと明日についての話もしたいし」
「!」
その言葉を聞いたと同時に俺は愛染さんを中に招き入れた。
「おぉ、これが鴉羽君の部屋…何というか」
「何もないでいいよ、そこまで飾るものも無いしな。何か飲む?」
「何があるの?」
「さっき淹れたばっかりのお茶くらい。後は時間はかかるけどコーヒーとか」
「お茶でいいよ」
「ん」
愛染さんはさっきまで俺が据わっていた椅子に座り、そこに新しい湯吞を置いて茶を急須で注ぐ。
俺は元々乗っていた湯吞を持ちながら軽く飲み、壁に体重を預けながら愛染さんの方を見た。
「それで…明日の事がどうした?」
「それについてはこっちが話すから」
そういいながら愛染さんは携帯電話を取り出し、何処かに電話をかける。
すると、すぐにつながったのか愛染さんは携帯電話の画面を操作し、それを机の上に置く。
『鴉羽君、聞こえるかしら』
「阿達さん?」
愛染さんの携帯電話からスピーカーで声が響く。
どうやら相手は阿達さんのようだ。
『今日、学園の方は何もなかったかしら』
「これといった侵入者もなく普通に平和でしたよ。そちらは?」
『不審者の情報はあったけど、基本的に愛染の家の付近でだけね。勿論、全て警備員の方で何とかしたけど』
今の口ぶりからするに愛染さんの所の社長が雇った警備員は相当優秀らしいな。
少し、安心できる。
『それで明日の流れについて話すわ。周囲に人はいる?』
「俺の部屋なので愛染さん以外、誰も居ませんよ」
『…鴉羽君の部屋にいるの?』
「急に愛染さんが来たので…マズかったですか?」
『ま、まぁ良いわ。鴉羽君は信頼できるし』
「???」
一瞬、阿達さんは焦ったような声色をしたがすぐに元に戻った。
『まず明日の入りは06:30。学園の方には6時に迎えを送るからそれに乗って頂戴』
「分かりました」
『それから愛染には前のリハーサルの通りに動くから、そのつもりで』
「はい、分かりました」
『それで鴉羽君。君には社長が雇った警備員との連携の元、ライブ会場の死守及び愛染を守る最終防衛ラインとして動いてほしいの』
「要はいつも通り、愛染さんを含めた全員に降りかかる火の粉を俺が全部振り払えばいいんですよね?」
『一旦はその認識で良いわ。相手はどんな動きをしてくるのか分からない、そこは気を付けて』
「わかりました」
今まで通り変わらず、害するものをこの手で握りつぶす。
ただそれだけでいい。
『それで最後に二人に伝えるべきことがあるの。まず元々鴉羽君から貰っていた情報で非公式のファンクラブに送られていた例のメール。その発信元の特定に成功し、メールの発信者は逮捕されたわ』
「!」
『言い方はアレだけど…これ以上、敵が増えることはない。ただ…未だ元凶は何者なのかは不明。どれだけ強大なのか、どんな組織なのかも』
「そうですか」
『だからこそ、鴉羽君に期待しないといけないんだけどね…御免なさい、大の大人が高校生の子に頼ってしまって』
「大丈夫です。別に頼られるのも悪い気はしませんし、俺も愛染さんを支えるという片棒を担いだわけですから」
『本当にありがとう鴉羽君。もし任務を遂行した証には何かお礼をさせて頂戴』
「そ、そうだよ!私も鴉羽君にお礼しないと!何でもするって言ったし出来る限りは何でも叶えるから」
「気が早くないか…?」
愛染さんはもう護衛任務が成功すると思っているようだ。
いや絶対に成功させるけど…それはそれとしてお礼を貰う気はさらさらない。
何なら報酬の為にボディガードになったわけじゃないしな。
「お礼は追々でいいです。任務が成功する確証もありませんし…ただ俺から関係者全員に言えることはひとつです」
俺はお茶を飲んで一呼吸ついてから言う。
「『信じて』…ただそれだけです」
「!」
『!』
「俺にはこれ以上の言葉も持ち合わせていません」
『…そうね。信じるわ、今までも守ってきてくれたように鴉羽君がこのライブを守り切れると』
「わ、私も…」
二人は俺の言葉を信じてくれる。
なら、俺はその信頼にこたえる。
(絶対に守り切ってやる)
それから軽く打ち合わせしてから阿達さんとの通話は終わり、気が付けば日は沈み真っ暗な夜へとなっていた。
「…」
気が付けば急須の中のお茶は完全になくなっており、俺の湯呑にも、愛染さんの湯呑にもお茶は無くなっていた。
「明日か」
「明日だね」
「愛染さんは緊張してる?」
「ちょっとだけ。でも妹の碧海の為って思うと」
「力が湧いてくるとか?」
「そんな感じかも」
愛染珊瑚さんのライブは今は亡き妹の愛染碧海さんの為である。
それで成功させ、碧海さんの夢を叶える。
故にあの時の愛染さんは焦っていた。俺みたいな男にすら何でもするなんて言うほどに。
けど、その夢を叶えさせるために俺がいて、阿達さんを含めた関係者の皆さんがいる。
夢を叶える段取りはついている。後は…
(愛染さんがその夢を掴み、碧海さんに送れば終わりだ)
俺が道を作ればいい。
ただそれだけだ。
「そういえば鴉羽君は夕飯どうするの?」
「正直、学食で食べようかなって思ってたけど…」
「あー…しまっちゃったか」
阿達さんとの電話をしている間に食堂の営業時間は終了していて、もう閉まっている。
「だから何か作る」
「え!鴉羽君、料理できるの!?」
「多少はな。てか愛染さんは夕飯どうするの?」
「…食べて行ってもいい?」
「別にいいよ」
「何から何までありがとね」
そうして俺は冷蔵庫を開ける。
学食はあるが定期的に料理もしてる。だから常に冷蔵庫をあければ何かしらの食材はある。
問題は何を作るかだ。
「愛染さんは何か食べたいものある?」
「うーん…脂っこいモノ?」
「え”」
予想外の回答に俺は濁点の付いた声を出してしまう。
「あぁそんなにこってりしてるものは求めてないよ。その…揚げ物が食べたいなって」
「揚げ物か…パッと浮かぶものなら唐揚げとか?」
「あ、いいね唐揚げ!」
「じゃあ唐揚げにするか、野菜もちょっと多めで」
「わかった」
そんなわけで唐揚げになった。
丁度よく鶏もも肉があったし、これを使うとしよう。
まず鶏もも肉を一口大の大きさに切って、フォークでプスプスと刺してからボウルに入れる。
そのボウルに醤油100ml、おろししょうが、おろしにんにく、ごま油を一周、料理酒を入れて手でこねる。
ある程度こね終わったらラップをかけて、冷蔵庫に入れて少し寝かせる。
その間にご飯の準備。
普通米を洗って濁った水はシンクに流す。本当は米の残り汁とかで角煮とか作ると美味しく仕上がるが…今回は違うので渋々捨てる。
炊飯器の釜に洗った米を移し、目盛りまで水を張り30分ほど水に浸す。
本当は1時間とか浸しておきたいが気温も上がってきて夏が近くなってきた。
つけすぎもよろしくないので今回は30分だ。
次に油の準備。明日の事もあるしヘルシーな油にしておこう。
油を鍋に注ぎ、160℃から170℃くらいまで熱する。
その温度になるまでに今のうちにサラダの準備だ。
レタスを洗って水気をふき取り、大きいお皿にそれっぽく広げる。
「…よし」
30分が経ち、炊飯器のスイッチを入れると同時に冷蔵庫から付けておいた唐揚げたちを取り出す。
きちんと漬けられているようで安心したし、油の温度も160℃くらいになっていたので早速揚げて行こう。
平べったいボウルに片栗粉を広げて、そこに漬けておいた鶏もも肉を投下して片栗粉をまぶしていく。
片栗粉の付けすぎでだまにならないよう軽く片栗粉を落としてから橋で持ちながら油へポーン。
――ジュワァァァァァ…。
「ふふっ」
揚げ物音が部屋を響かせる。
これこそ、食欲をそそる前奏曲。
美味しく仕上がるという事実はまさに運命
(何を思ってんだか…)
料理が楽しくなってしまい、おかしくなってしまった思考回路を元に戻し、鶏もも肉たちが良い感じのきつね色に変わったら、バットの上で少し休ませる。
ついでにここできつね色になった衣を少し叩く。
こうすると次にやる工程の効果が更に上がる。
最後に…禁断の二度揚げ。
油の温度を180℃に揚げて、もう一度揚げる。
ここの二度上げに関しては少しだけで大丈夫だ、むしろあげすぎると衣が硬くなりすぎてサクッとした食感が死んでしまう。
そして、叩いたお陰で生じた衣の傷から高熱の油が侵入し、より中に火が通りやすくジュワっとした食感が出来ること間違いなし。
それで無事、二度揚げも完了し…広げたレタスの上に良い感じに乗せたら
「唐揚げは成功」
と同時に炊飯器から米が炊けた音が鳴り、炊飯器の蓋を開けると湯気が上がりきめ細かなお米たちが輝いて見える。
「米も、良い感じだ」
しゃもじで軽く混ぜてからお椀にご飯をよそって…完成。
「愛染さん、出来た」
「わぁ…!」
「…よ?」
完成したので愛染さんに報告しようと後ろを振り向くと、もうすぐそこに愛染さんが居て目が輝いている。
そ、そんなにお腹空いてたのか…?
とにかく、俺もお腹が空いたし食べることにしよう。
机を持ってきて椅子を置き、その向かいにもう一脚の椅子を持ってきてから机の上に唐揚げとご飯がよそわれたお椀を机の上に置く。
ついでに、お茶も追加で。
「すごいね、鴉羽君。料理もできるなんて」
「色々やってたんだよ。記憶をなくしたやつなりにな」
「そっか…」
「さ、冷める前に食べよう」
「うん!頂きます」
「頂きます」
そんなわけで揚げたての唐揚げを二人で食べ始めた。
「うむ…」
サクッとした食感に、ジュワっと肉汁が溢れるとともに旨味が襲い掛かる。
「お、美味しい!」
「まぁ美味く仕上がったな」
「いいな鴉羽君…私も料理できるようになりたいな」
「そこは頑張らないと」
唐揚げを頬張りつつ、愛染さんを見る。
(頑張らなきゃな、明日)
口から広がる旨味を味わいながら明日への決意を胸に灯すのだった。
◇◇◇
深夜、ある建設現場跡地。
鉄柱の柱の中間。地面には半分外へ露出している真っ黒な鎌状の腕。
「これか」
「えぇ、これよ。いいから早くこれを付けましょう」
二人の男女がその鎌状の腕の付近に何かを仕掛ける。
四角く、テープで巻かれた物体。いわば爆弾のようなもの。
「…まさか俺たちから逃げた珊瑚があんな立場にいるとはな」
「挙句の果てには使えないファン共だったな、せっかく炊きつけてやったというのに」
「まぁそれも明日までよ。もし私たちの元に帰ってこないのなら…コイツが全てを皆殺しにしてくれる」
「そうだな」
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




