第23話 彼女たちの刃
それからより一層、気を引き締めてボディガードの任務に打ち込んだ。
ライブ当日が一日一日と近づくたびに、敵はどんどん増えていく。
だが、それは俺も同じだ。敵の数が増えていくならその分、俺が叩き潰せばいい。
強大な敵が何だ、数多の敵が何だ。
俺はこの手で全部ぶっ潰し、愛染さん達に向けられる刃を俺の足で砕く。
それで十分だ。
「はぁっ…!ハぁぁァァァッ!!」
両腕を真っ赤に染め、ピクリとも動かなくなった人を壁に投げる。
「ふぅ…」
周囲を見回すと人の気配はなく、愛染さん達を狙った人たちを全員ぶっ潰したことを確認。
…ファフニールの方でも、周囲に人がいないことを教えてくれた。
「あと…2日か。はぁ、流石にキツイな」
本番のライブ会場の正面の入り口で敵を潰す。
指一本もこのライブ会場に入れるわけにはいかない。今はリハーサル中だ。
彼女たちには本番の事だけを考えさせればいい。俺は…敵を一匹残らずぶっ潰す。
「夕日の日が…気持ちがいいな」
座り込み、夕日の光を全身で浴びる。
「ファフニール…周囲に人の気配を感じた瞬間、報告してくれ」
そうファフニールに話した後、ウェットティッシュで両腕についた返り血を拭い、消毒液を俺が受けた傷にかけて、ガーゼで軽く拭く。
「…よし」
次に俺はぶちのめした害する者たちを持ち上げて、日陰に持っていき全員の懐をあさる。
情報が得られるのなら何でもいい。
どんな奴らが愛染さんを狙っているのか。依頼主は誰なのか。
その情報の一片でもいい。何かしらの情報が得られるならそれでいい。
しかし…それらしい情報はない。
免許証とかも普通の人の様で、名刺は…なしか。
だが、今日にいたるまで何度も何度も戦って一つ思ったことがある。
(相手の肉体は…筋肉質とはかけ離れている。とてもじゃないが戦う奴の肉体じゃない)
全体的に贅肉がついている奴や少し筋肉が付いているのも居る。
だが、戦って分かる。格闘技やそういう知識がない奴が殆ど。
分かりやすい大ぶりの攻撃ばかりで素人を引きつぶしている感じだ。
まぁ何の同情もないがな。
それから俺は倒した奴を全員纏めてロープでまとめて縛る。
「…はぁ…」
気分が憂鬱になりながらも通信端末を懐から出して、ある人に電話をかける。
『もしもし、東雲だ』
「こちら鴉羽です」
『任務中か?どうした』
「あの…また、お願いしてもいいですか?」
『またか。ライブの当日が近づくたびに増えてきているな』
「本当に申し訳ないです」
『いやいい。気にするな、例えアイドルでも愛染も私の大切な生徒の一人だ。ベストは尽くす』
「では、お願いしても?」
『既に手配済みだ。あと5分程度で付く』
「ありがとうございます…!」
電話の相手は東雲学園長だ。
手配してもらったのはAT学園専用の警備隊だ。
AT学園には専用の警備隊がおり、民間の警察と同様の立場を持つ。
何で専用の警備隊が居るのかというと、単純に立場的にも様々な問題が生じる可能性があるから専用の警備隊があるってことだ。
「はぁ…」
ため息が止まらない。
東雲学園長が言った通り、本当に敵が増えてきた。
お陰様で…俺の肉体も疲労に蝕まれてきてる。傷は…治癒能力で治るからいいが痛い物は痛い。
「ぐ…ク…ソ…!」
「!!」
縛った奴の中で一人、意識がある奴がいた。
マジか。俺も焼きが回ってきてるのか。
「ぼでぃ…ガード、風情…が…!」
「そこまでして愛染さんを手に入れたいのならそれ相応の立場を持て。思いだけじゃ愛染さんは振り向かないだろう。想いを強制させるほど醜いものはないぞ」
「…」
男は黙った。
愛染さんが振り向くのなら、俺はその思いを尊重する。
でも、今回のこればかりは振り向きもしない。
矯正させる想いほど醜い愛はない。
「…教えてくれるか?何で、こんなことをしたんだ」
俺はその男の前に座って質問する。
すると、男はぽつりとつぶやき始めた。
「…愛染ちゃんのファンクラブって知ってるか」
「あれだけ人気ならファンクラブの一つや二つあるだろう、それが?」
「公式のファンクラブと非公式のファンクラブのことは?」
「何が違うんだ?」
「定員と入会金を含めたグッズの先行販売とかだ」
全く話が見えない。
何故ここで公式と非公式のファンクラブの話が出てくるんだ?
「俺は非公式のファンクラブなんだが…公式のファンクラブには入れない。店員数があるからな」
「それで?」
「…今、非公式のファンクラブを中心に一斉にメールが送られてきてるんだ。差出人は不明だが」
「メール?」
男は脚を動かし、ポケットから携帯電話を外に出す。
俺はそれを拾い、携帯電話の電源を付ける。ロックはかかってないのか。
そしてアプリのメールを開くと、一番上に確かにメールがあった。
そのメールを見ると
『愛染珊瑚を手に入れろ。手に入れた暁には報酬金を含めて愛染珊瑚を自分の物にしていい権利を与える』
と書いてあった。
「…俺は公式のファンクラブに入りたかったが、でも愛染ちゃんが欲しいって考えるとそんなことがどうでもよくなってそれで…」
「そう…か。手が届かない存在を手に入れる気持ちはわかるが」
「あぁ…懲りたよ。俺はしちゃいけないことをしたんだって」
コイツは…反省したのか。
いや反省したな、反省した目をしている。
「だが、非公式のファンクラブ以外にも…愛染ちゃんを狙ってたやつとか居たんだよ」
「どんな奴だ?」
「筋肉質で他を力で黙らせようと画策しそうなやつとか」
「そうか…わかった、情報に感謝する」
俺は縄を一瞬解き、その男だけを立たせた。
「?」
「お前は見逃す」
「え…?」
「反省したんだろ?んで、自分が悪いと自覚した。違うか」
「あ、あぁ…」
「ならいい。ただし、もう同じ轍を踏むな。もしまだ愛染さんを手に入れたいのなら努力しろ。恋愛禁止のアイドルが自分の光を捨てて良いと思えるほどの立場を」
「頑張るが…もう良い気がしたんだ」
「?」
「なんか、吹っ切れたよ。頑張るよ、俺も」
「じゃあ行きな。そろそろ警備隊もつく」
「わかった…ありがとう、愛染ちゃんのボディガードさん」
そう言って男はこの場から去っていった。
何が吹っ切れたのか分からないが、あの男の心情に何らかの変化が起きたんだろうな。
「頑張れ」
俺はその男の背を見送り、俺は警備隊の到着を待った。
ーーー
そして5分後。警備隊たちが到着し、拘束された人たちは連れていかれていった。
「お疲れ様です、鴉羽君」
「此方も何度も申し訳ありません」
警備隊の人が話しかけてきた。
「大丈夫です。それよりも…大丈夫ですか?」
「そうですね、このままいけば本番も」
俺は愛染さんの事と任務の事を話そうとしたら
「違う、愛染さんのことじゃなくて鴉羽君の事」
「え?」
「最近、自分の顔って見た?凄い隈と明らかに元気がないけど」
そういわれながら警備隊の人は俺に手鏡を向けてくる。
その鏡の向こう側には、明らかに疲れ切った顔で瞳から光がともっていない男の顔が。
「こんな顔になってたんですね俺…」
「忙しいかもしれないけど、適度に休みなよ。多分、本番が一番忙しいから」
「わかり…ました」
「…長話しすぎたね。それじゃあ私たちはこの辺で」
そういって警備隊の人たちはライブ会場から去っていった。
「無理をしすぎないように、か」
俺はその場で座り込み、空を見上げる。
確かに、身体は疲労に蝕まれているが…俺は倒れちゃいけない。
俺がボディガードを止めれば、愛染さんたちが危ない。
俺が無理をして彼女たちを守れるならそれでいい。
それだけでいいから…俺の身体よ。
頼む、本番までもってくれと思っていたら
「…!!」
ファフニールから後ろから人が来ていると報告を受けたと同時に、立ち上がりながら後ろを振り向くと。
「鴉羽君?」
「あ、愛染さん…?」
後ろに居たのは愛染さんや阿達さん達だった。
敵かと思った…ふぅっと息を吐く。
「どうしたの?」
「…また今日も、ですよ」
「そうなんだ…」
今日もまた敵と戦ったことを告げると愛染さんは少し悲しそうな顔をした。
しかし、愛染さんは足を一歩俺の方へと進め、俺の右手を握る。
「鴉羽君、大丈夫?」
「何で…?」
「だって疲れてそうだよ…?」
愛染さんの言う通り、疲れてる。
でも、休むわけにはいかない。
「疲れてるけど、大丈夫だ」
「本当に?」
「…本当に」
「絶対うそでしょ」
説得力はないだろうな、こんな疲れ果てた顔だと。
「でも、心配よ。大丈夫なの?」
「阿達さん…」
阿達さんも心配そうに俺の事を見てくる。
俺は…正直に話す事にした。ここで余計に言わなかったら言わなかったで後々に細かく言われそうな気がする
「正直に言うと…確かに疲労が積み重なっています」
「やっぱり、ね」
阿達さんは予想通りと言わんばかりの反応をする。
すると
――ポン。
「!!?」
俺の頭の上に何かが乗せられた感覚。
それに気が付き、目を見開くと
「ぎ、ギリギリ届く…!」
俺は愛染さんの手が俺の頭の上に載っている事に気が付く。
「か、鴉羽君…ちょっとだけかがんでくれない?」
「え、えぇ…?」
なんて疑問に思いつつ、少し姿勢を曲げた。
それを確認した愛染さんは俺の頭を優しく撫でる。
「…何故俺の頭の撫でる」
「だって、頑張ってくれるから…」
「…」
妙に恥ずかしく、妙に心地が良い。
「スキャンダルになるぞ」
「周囲に人はいないから」
「大体、そういう奴らは隠れてるもんだろ。気持ち悪く汚点を探しに行く奴らっていうのはそういう」
「まぁまぁ…」
「…」
それから俺はずっと愛染さんに撫でられ続けた。
簡単に振りほどけるはずなのに、何故かそれを受け入れてしまう俺がいる。
「鴉羽君」
「はい?」
「一旦撫でられたままで私の話に耳を傾けて頂戴」
「なら愛染さんを止めてくれませんか?」
「無理ね」
「…」
撫でられながら阿達さんの話に耳を傾けるって…はたから見たらどんな光景だよってなる。
「まず明日について何だけど」
「リハーサルでは?」
「いや前日はライブの最終準備が始まるからむしろリハーサルは無いわ。愛染にはきちんと休んで欲しいしね」
「…俺は?」
「勿論、休みよ」
「わかり…は?」
一瞬、聞き間違いかと思ったが…明日は俺も休みらしい。
「な、何で…」
「まず鴉羽君。今の私たちの状況を簡潔に言えるかしら」
「えっと…よく分からない人たちがライブを邪魔しに来ています」
「色々端折ったけど十分ね。プラスで今の私たちを守ってくれるのは鴉羽君のみ。逆を言えば全ての守りを鴉羽君一人に押し付けてる状態よ」
「…」
「私としてもこの状況は無視できない。仮に鴉羽君の任務が終わった暁にはより狙われる可能性も上がるわ…だからこそ私たちもそろそろ自立しないといけない」
俺は阿達さんの話に何一つついていけていなかった。
「鴉羽君が沢山戦ったお陰で、社長が動いたのよ。君の頑張りを見て」
「社長…?」
「私たちの事務所のね。結論から言うと警備員を雇ったの。しかも…全員信頼できるおまけつき」
「!」
「鴉羽君は心配かもしれないわ。勿論、今まで何人の人間が内側から私たちに刃を向けてきたのか分かっているからね」
「…」
「そしてその警備員が明日のライブ会場の警備を行う。だから休んでいいって事」
「大丈夫、何ですか?」
本当に俺は心配だった。
警備員でも、作業員でも何十人の奴が内側からこちらに刃を向けてきた。
だから…今の阿達さんを含め社長の行動は愚策だと感じてしまう。
「大丈夫と言い切らせてほしいわ。それに明日休んでもらって明後日の本番、多分そこが鴉羽君の山場よ。今、休んでもらわないと私たちとしても困るの」
「…」
「鴉羽君の力は一度として疑ったことはない、言わば鴉羽君は私たちの『刃』よ。けど、信頼できる力ゆえに貴方が折れてしまうと私たちにはもうどうすることもできない。その気持ちはわかるわね」
「はい…」
「だから明日は休んで。それと私を含めた関係者全員は自宅での自粛が絶対。今、外に出て狙われたりしたら鴉羽君が本当に持たなくなるから」
阿達さんは愛染さんのライブの成功を信じると同時に俺の事も心配した。
しかも、俺だけの力に頼らず…自分たちで動こうとしている。
俺は…反論できない。
「分かりました、なら明日はゆっくり休みます」
「そうして頂戴。愛染も一人で軽く練習するのは良いけど、しすぎないようにね」
「はい!」
「…そろそろ撫でるの止めてくれない?」
「ヤ!」
「そうですか。」
すっげぇ感動的な場面なのにいまだに愛染さんに撫で続けられているから雰囲気が台無しだ。
そんなわけで俺は明日一日休みを貰った。丁度、明日は土曜日で授業もない。
英気を養わせてもらおう。
◇◇◇
ロケバスで事務所に戻っている阿達含めた関係者たちと愛染。
そして
「…すぅ…すぅ…」
一瞬で爆睡した鴉羽。
「相当疲れてたんだね…」
「ずっと一人で私たちに降りかかる攻撃を全部叩き潰してきたのよ?鴉羽君だって人間だし疲れるでしょ」
「そうですね」
椅子の背もたれに全体重をかけ、規則正しい寝息を出す鴉羽の横に座る愛染。
勿論、愛染は自分の意思で隣に座っている。
「それに社長が動いたんですね?」
「正確には動かざる負えなかった、かしら」
「?」
「社長は他の業務に取り掛かりつつ、自社のアイドルを守ろうと色々動き回っていた。そのさなか、見てしまったのよ。鴉羽君が一人で自社に突撃しようとした武装集団を薙ぎ倒す瞬間を」
「!」
「その時の鴉羽君は凄かったって社長も言ってたわ。『あの若さであの人数を相手取り、悉く薙ぎ倒していたあの姿に感激した。しかも言い放った言葉も素晴らしい』って」
「何て言ってたんですか?」
「ふふっ…『俺のクラスメイトに手を出すんじゃねぇ!』だって」
「!!」
愛染はその言葉に少し顔が熱くなる。
「発言だと守る対象はクラスメイトである愛染なのに私たちも守ってくれる。あの時から思ったけど変に不器用で、その心は真っすぐで優しい。高校生なのに大人っぽくて自分の犠牲を顧みない…本当にいい子ね」
「そうだよね…」
愛染は阿達の言葉に納得しつつ、今も寝ている鴉羽の頭を優しく撫でる。
「ありがとう、鴉羽君。私…貴方に守られて、貴方に出会えて嬉しい」
そう誰にも聞こえず、鴉羽にだけ聞こえるように小さくつぶやく愛染。
「…すぅ…」
当の本人は寝たままだったが、ほんの少し頬が和らいだ。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




