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第22話 力の振るい方


「んん…!」


重い瞼を開ける。

瞼だけじゃない、身体が重い…指一本一本に重りを付けられてる気分だ。


(何が起きた?)


あの男が阿達さんに手を上げたのを確認したと同時に、感情が湧き出て…。


(ま、全く思い出せない…!?)


こんなこと初めてだ。

記憶が一部削り取られたかのように何が起きたのかすら分からないし、これっぽっちも思い出せない。

と、とにかく今は阿達さんとか愛染さんが無事なのかが気掛かりだ。

重い体に鞭を打ち、無理やり起こす。


「あ…え?」


見て理解できた、ここは会議室ではない。

というか…ここは学園の寮じゃないか?しかも俺の部屋だ。


(もしかして夢か?)


そう思い、頬をつねる。

痛い。きちんと痛いことが分かったから夢じゃない。

じゃあ幻覚とかそういうのか?


「あぁ、クソ…!」


確認のためにベッドから降りて、机の上にあったアタッシュケースに触れ、開ける。

このアタッシュケースには禁忌機体の情報が入ってる。それ以外なら…なんて思いながらなかを見たが、中には俺しか持っていないはずの禁忌機体の情報とアタッシュケースの冷たい感触が指先から伝播する。これが幻覚じゃないことを理解し、ここは正真正銘俺の部屋だと理解する。

理解するが…何故俺はここにいる?

最後の記憶では俺は会議室に居たはずだ。

それがどうなって俺の部屋に帰ってくるんだ…?

混乱したまま椅子に座り、息を吐く。


「今、何時だ…?」


混乱したまま備え付けのデジタル時計を確認する。

午後22:34…大体5、6時間くらい寝てたのか。


「何がどうなってるんだ?」


頭を抱えて混乱していると…。


――ピコン。


「ん…?」


携帯電話からの着信音。

確認すると…愛染珊瑚さんからのメッセージだ。

いつ連絡先を交換した…!?

混乱が加速しつつもメッセージを確認する。


「わ、結構な量のメッセージが来てたんだな」


愛染さんからのメッセージを確認すると結構な量のメッセージが来ていた。

全部確認しよう。


珊瑚『鴉羽君、目が覚めましたか?急に連絡先を追加してごめんなさい』

珊瑚『多分、マネージャーから色々な事を聞かれると思うけど…まずはありがとう。私たちを守ってくれて』

珊瑚『鴉羽君のお陰でマネージャーを人質に取っていたあの人は逮捕されたけど…先に緊急搬送されちゃった。あそこまでやらなくてもよかったと思うけど…でも、私も阿達マネージャーに手を出されたらアレくらいキレちゃうかも』

珊瑚『あと鴉羽君の攻撃はやりすぎだとは言われたし、思われてたけど…鴉羽君は任務だし、最近の私たちの被害を見た結果、十分な反撃として正当防衛となったらしいからボディガードから外されるなんてことは無いと思う』

珊瑚『じゃあ私は時間も時間だから先に寝るね。おやすみなさい、また明日。』


そして『おやすみ』と書かれた絵文字がついさっきに来たメッセージで最後のメッセージのようだ。


「あそこまでしなくていい…?」


愛染さんのメッセージを見ても何一つ思い出せない。

俺は…あの男に攻撃したのか、しかもやりすぎなくらい。


(何したんだ俺…!?)


混乱が加速しつつ、呼吸を整えてから愛染さんのメッセージに返信する。

もう寝てると思うけど。


鴉羽『おやすみなさい、また明日』


と返信すると同時に。


――プルルルル!


「おっ!?」


急に通話がかかってきて、携帯電話を落としそうになるが空中でキャッチ。

通話をかけてきたのは愛染さん。あぁびっくりした…というか何で愛染さん起きてるんだよ。

とりあえず着信。


「もしもし?」

『も、もしもし!?鴉羽君、目が覚めたんだよね!?』

「目が覚めてなかったら着信を取らないと思うけど」

『そ、それもそっか…あはは』


愛染さんの乾いた笑いが聞こえてくる。

そんな笑い声出すんだな、愛染さんって。ずっと太陽みたいに笑顔だったから愛想笑いとかしない物だと…。


『…身体は大丈夫』

「…」

『鴉羽君?』

「愛染さん」

『な、なに?』

「俺は今からとんでもないことを聞く。多分驚くし、何言ってるんだコイツって思うかもしれないけど…俺の質問に正直に答えてくれ」

『え?どうしたの』

「俺って…何したんだ」

『えーっと…どういうこと?』

「阿達さんがあの男に殴られたのを見てから記憶がない…全く思い出せない」

『え、えぇっ!?』


俺は愛染さんに今の俺の状況を全て明かした。

阿達さんが殴られてからの記憶が全くないこと、俺がした攻撃すら思い出せない事、どうやって寮に戻ってきたのか分からない事。

その全てを。


『ほ、本当に何も覚えてないの?』

「思い出そうにも、全く思い出せない。そこの記憶だけ削り取られたみたいな感じで」

『…なるほど』

「な、納得できるのか?」

『うん。確かにあの人を攻撃しているときの鴉羽君は様子がおかしかった。例え少しの期間のボディガードだけど私なりに鴉羽君の事を理解してるしね。鴉羽君は優しいし、私だけじゃなくて関係者全員守ろうとするし、仕事はきちんとこなすし』

「お、おぉう…」


真っすぐに伝えられると、流石に俺も少し照れくさいんだが。


『けど…あの時の鴉羽君は怖かった。あの人に攻撃を開始したと同時に会議室全体に鴉羽君の殺意みたいなのが溢れて怖かったし、守るんじゃなくてあの人を本気で殺そうと動いてたから』

「…」

『…私の中の鴉羽君はそんなことはしない。絶対に私たちの事を第一に考えるはずだから、ズタズタにするほど攻撃するなんて考えられない。あの時だけは…鴉羽君の中身が入れ替わったみたいで怖かったし』

「俺は…そんなことをしていたのか」


削り取られた記憶の部分の俺は…あの男に攻撃していた。

愛染さん曰く、ズタズタになるほど攻撃し、ましては…本気で殺そうとしていたらしい。

そりゃ愛染さんもメッセージで『やりすぎ』なんて送ってくるよ。


『本当に…覚えてないんだね』

「あぁ…正直、俺がやったなんていわれても若干、半信半疑だけど愛染さんが言うなら事実なんだろうな」

『うん、というか明日マネージャーにも言われると思うよ。何があったのかとか何であそこまで攻撃したのかって』

「だろうな。はぁ…信じてくれるかな」


こんな夜中だけど、明日が憂鬱になってきた。

絶対明日怒られるし、記憶がないことを信じてくれるかどうかわからない。

なんて頭を抱えていると


『――信じると思うよ』

「え?」


携帯電話の向こう側から、愛染さんの優しい声が聞こえた。

その声は歌声でも雑談でも、今まで聞いた声の中でも一番優しい声。


『私は信じてるし、マネージャーたちも鴉羽君の事を信じる。絶対に』

「な、何で…」

『今までの鴉羽君の行動の賜物って言えばいいのかな。鴉羽君はボディガードとして私たちに降りかかる火の粉を全部一人で振り払った。その姿をみて私は安心して歌えるし、みんなも安心して仕事に取り組める。そんな鴉羽君が謎の理由で暴走し、その部分の記憶が無くなった…なんて言っても皆信じると思う』

「そう…か」

『うん!あ、でも信じられないっていわれたら私が弁護するから!』

「愛染さんはいつ弁護士になったんだ?」

『うーん…今日?』

「思ったよりなりたてほやほやだった」

『ふふっ!でも、そんな事は無いと思うから鴉羽君は私たちを信じて?』

「…あぁ、そうするよ」


愛染さんの言葉に心がほだされていく。

明日の憂鬱が嘘みたいに消えた。まるで雲が張られていた空が太陽の日で晴れ渡り、雲一つない快晴に変わった時のよう。


「それじゃあ、そろそろ寝ようかな」

『え、もう寝るの?』

「貴方はアイドルでしょうが…寝不足は敵なんて聞いたことあるけど」

『一日くらいの寝不足で肌が荒れることなんてないよ!それにいっつもちゃんとケアしてるから』

「すっげぇ反応に困るんだが…」

『とにかくもう少し話したいな?』

「…それは俺がまた別件で怒られる可能性があることを考慮したうえで言ってるか?」

『うん。それに鴉羽君が言わなければいい話でしょ?』

「コイツ…はぁ、わかった。付き合うよ」

『やった!それで私は鴉羽君の話が聞きたいんだけど』

「話したいって言ったのに俺の話題を聞きたいのか!?」


そんな訳で愛染さんのと電話に雑談で華を咲かせていたら、愛染さんの方から規則性な息使いが聞こえてきたので『おやすみ、良い夢を』と聞こえていない事を分かったうえで言ってから通話を切った。


(何か…元気、出たな)


心がちょっとぽかぽかする気持ちになる。

ああいう愛染さんの姿を見て感化された人がいっぱいいるんだろうな。

なんて思いながら…寝ようとした。


(あれ…どうやって俺が寮の部屋に入ったのか聞いたっけ)


ーーー


翌日。

いつも通りに事務所に向かい、周囲の確認をしてから出社し会議室に向かうと予想通り阿達さん達に呼び出され、昨日の事を聞かれた。

会議室には愛染さん以外全員の関係者が集まっていたので、俺は愛染さんに話したことと同じことを阿達さん含めた関係者全員に話した。


「記憶ね…思い出せないの?」

「本当に全く覚えてなくて…」

「このケースは初めて?」

「はい…今までこんなことはなかったです。過去を思い出せないのは前にも言った通りですが、特定の個所の記憶だけが抉り取られるみたいなケースは初めてです…」

「…なるほどね」


阿達さんが少し悩んだような素振りをする。

すると


「まぁ思い出せないならしょうがないわ、今日もいつも通りにボディガードをお願いするわね」

「え?」

「え、ってどうしたの?」

「あ、いや…愛染さんから聞いたんですがズタズタになるまで攻撃したんですよね俺って」

「あぁ聞いたのね。まぁ確かに過剰ともいえる攻撃だったけど…こちらでも被害の話や今後のライブの事、そして負傷者が出かけた事。それを考慮した結果、正当防衛として処理してくれたから」

「あぁ…」


昨日、愛染さんが言った通り本当に正当防衛として処理されたようだ。

信じてよかった。


「…それと何だけど、もう一つ分かったことがあってね」

「?」


阿達さんは俺に紙の束を手渡す。

また文字だらけ、なんて思っていたが


「鴉羽君がズタズタにしたあの男なんだけどね…色々と進展したのよ」

「し、進展したっていうのは…?」

「男は全ての事を吐露したわ、君に恐怖してね」

「うっ」

「別に責めてるわけじゃないの、それ以上の情報も得たから」

「それって…?」

「…愛染のライブを邪魔しようとする連中が確実にいる事」

「!!」


俺はその言葉を聞き、目を見開く。


「目的は愛染のライブを強制的にやめさせること。動機やその他は全く分からないけど…何らかの元凶が居ることは確定ね」

「…」

「実際に今まで襲い掛かってきた人たちの殆どが関係があるという事も確定したわ。正直…予想外ね」

「そう、ですか…」

「…それで鴉羽君。君に最後の確認を取りたいの」

「最後の…」

「私たちは絶対に愛染のライブを成功させたい、でも…愛染の身体が一番大切。このままライブを続行したらどんな被害が出るかもわからないし、相手がどれくらい強大かもわからない。そんな私たちに付いてくる気はあるかしら」

「!」


阿達さんは俺の両目をみて、そうきっぱりと話した。

これはあくまで『俺』という人間の立場を気にかけた結果の言葉かけなのだろう。

社内の人間ではないが、全員との関わりは濃い。

いばらの道に付いてくる覚悟はあるのかって事だろう。


「多分、今まで以上に鴉羽君自身の命がかかるかもしれないわ。それでも」

「俺の答えは決まってますよ」

「え?」

「俺は皆さんを守ります、ボディガードとして。それと、もう一つ宣言させてください」


俺は阿達さんの前に俺の開いた右手を向けて、握りしめる。

そして話した。


「相手がどれだけ強大でも、ここから先がどれだけいばらの道でも、これから俺の命がかかっても関係ないです。俺は貴方たちの盾であり、貴方たちの矛でもあります。故に言いましょう」


「――そんな敵共、俺の手で捻りつぶしてやる。」

「!!」

「大胆不敵、向こう見ずかもしれませんが…俺は本気です。相対する敵どもを一匹残らず、ぶっ潰す。」


この言葉が阿達さんたちにとっては恐怖に見えるかもしれない。

だが…俺は『本気』だ。

今回の件で俺は守るだけではいけないと知った。ARMORに乗っているときもそうだ。

世界を平和にするためにはオールイーターを全て潰さなきゃならない。それは守る力かもしれないが、同時に敵を殺す力ともなる。

俺は…理解した。

あの男を見て、元凶が居ることを知ったこと。

そして、守るだけでは…事態の収縮にならない。

だからこそ、俺は今日をもって力の使い方を変える。

この場に居る人たちを『守る力』ではなく、敵を鏖殺する『潰す力』へ。

守るより先に、相手を倒せばいい。


「か、鴉羽君?その…もしかして怒ってる?」

「ちょっと、ですね」


俺は…俺自身の力でいばらの道をかき分け、手が血だらけになっても気にせず、道を作る。

愛染さんたちの願いを叶えるために。

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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