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第19話 ボディガードの日々を

ボディガードになってから約3日。

ナンバーズとして正式に『愛染珊瑚の護衛任務』という事で取り扱って貰ったので、俺の初めての任務はクラスメイトの護衛。

しかも、現役トップアイドル。

あの時は愛染さんにお願いされたので、重大さに気が付かなかったが…今となって思う。

結構ヤバい任務を受けたなと。


「…」


俺が今、見ているのは本日の愛染さんのスケジュール。

うん…何度も見て思うけど古典の文章問題か何かかな。

もう文字がびっしり。スケジュールを見ても基本的にはレッスンばかりだが、様々な種類がある。トップアイドルというものは常に研鑽を怠らない…なるほど、見習おう。

まぁ俺の方も俺の方で筋トレや肉体強化の為のトレーニングや格闘技を個人的に始めたりした。結構地獄だけど楽しいし、何より人の為になるって思うと頑張ろうってなる。


「うし…!」


気合を入れて愛染さんが所属しているアイドル事務所のこのデカいビルの中に入る。

そのまま受付に行き、受付の横にあるカードリーダーに簡易社員証をタッチする。

初めてボディガードとしてここに来たときに借りたものだ。


「愛染さんは8階のレッスン室に居ます。あちらのエレベーターを使って8階へお願いします」

「わかりました」


言われた通りにエレベーターに乗り込み、『8』を押す。

ゴウンと音が鳴り、上に上がっていく。

しかし、改めて思うけど制服ではなくスーツを着るなんてな。

慣れないな、この感じ。


「…くっ、分かってるから」


またファフニールが頭の中で文句を言ってくる。

俺がボディガードに勤めている間、ARMORに乗ることは殆どない。

如何せん、愛染さんのスケジュール的にもAT学園に行くのは週に2回。それ以外はこっちの建物で過ごすことになる。故にARMORに乗れるのは週に1か0。

あと授業に関しては一条先生が課題と授業用の動画を送ってくれるみたいだ。非常に助かる。

…んで、ファフニールが俺が乗れない事に対する不満が直接、頭の中に流れ込むのは誠に遺憾だけど。


「っと…8階か」


いつの間にか8階につき、エレベーターの扉が開いた。

そのまま降りて左方向に歩いていく。

すると


――…♬~…。


「レッスン中か」


歌声が聞こえてくる。

これは、愛染さんの歌声か?歌が聞こえる方向へ足を進めていき、静かにレッスン室の窓付きの扉から中を見ると…愛染さんや阿達さん、あとはトレーナーがいた。

めっちゃ歌って踊ってる…本当、凄いな。


「…入っていいのか?」


初めてのパターンだなこれ。

いつも俺が付くときはレッスンが始まっていなかったが今回は違う。もうすでに始まっていた。

…これは入っていいのだろうか。

というかボディガードの概念ってなんだ。常に傍にいておくべきなのか、何かあった時に近づける距離に居るべきなのか。

傍にいるならレッスン室に入るべきだろう、しかし今はレッスン中だ。俺が入室したことによってレッスンが中断されるかもしれない。

まぁ何かあった時に助けに行ける距離だ。一旦、レッスン室の前で待っておこう。


「…」


壁に寄りかかりながら目を瞑って静かにレッスン室から聞こえる小さな歌声に耳を傾ける。

なんというか、安らぎの中にある温かさを感じ…時には想いをはせるような切なさを感じる。そんな歌を聴いているうちに少し緊張していた俺の心は自然と波紋一つない水面のように落ち着いて行った。


「良い…歌だな」

「ありがとう、鴉羽君!」

「どわぁ!?」


小さくつぶやいた瞬間、目の前から声が聞こえて我ながら素っ頓狂な声が出て…座り込む。


「あ、愛染さん…!?レッスン中だったんじゃ」

「今は休憩。そしたら扉の先に鴉羽君が見えたからね」

「そ、そっか…」


あー、びっくりした。

急に目の前に愛染さんが現れたし、話しかけられたせいで波紋一つない水面は一瞬の内で大海原の大波と大嵐になった。


「おはよう、鴉羽君」

「阿達さんも、おはようございます…」

「ど、どうしたの?」

「愛染さんが…」

「何でー!?」


俺は座り込みながら愛染さんを指さした。

実際、貴方のせいだからな。


「それにしてもどうしてレッスン室の前で待ってたの?別に入ってきても良いのに」

「愛染さんがレッスン中でしたし、俺が入ったら中断しちゃうんじゃないかって…」

「あー…そういう事ね」


阿達さんが何故俺が入ってこなかったのかを聞いてきたので中断してしまう可能性があると思い入らなかったことを告げると、一瞬目を見開いた後に何か納得したような表情をした。


「別に入ってきてもいいのよ。そのくらいでレッスンが止まることはないわ」

「え、そうなんですか?」

「そのくらいで愛染が止まると?」

「…納得です」


うん、止まらなさそうだ。

変に気にせず、そのままレッスンに打ち込む姿が目に浮かぶ。


「そんなわけだから普通に入ってきて大丈夫。でもボディガードとしては100点の行動ね、相手の事を考えているし」

「あ、ありがとうございます…」

「とりあえず中に入って。それと愛染も、そろそろ休憩時間終わるって」

「はーい」


そんなわけでレッスン室に愛染さんと共に入る。

すぐに愛染さんはトレーナーの元に早歩きで向かい、何か指示を仰いでから軽く歌いつつ、踊り始めた。


「…凄いですね、愛染さん」

「だからこそ、手に入れたい人が多いのよ」


まぁ確かに。歌って踊って、まさに理想のアイドルそのもののような出で立ち。

手が届かない存在だからこそ、欲してしまう。


「鴉羽君」

「はい?」

「一応、ここで軽くミーティングするんだけど…この建物の周囲で何か危ないモノや怪しい人物はいなかった?」

「いつも通りパトロールしてから来ましたから今のところは大丈夫です」

「わかったわ。でもまた来たら」

「その時は俺に任せてください。愛染さん含め阿達さんたちにも指一本触れさせません」

「期待してるわ」


阿達さんや他の関係者の人たちもある程度は俺の事を信用してくれてるって事だろう。

初めて来た時とかまぁまぁ警戒されてたしね。


「…そういえば他のアイドルとかは?」

「各々別件の仕事で別のところにいるわ。今は私たちと社員たちだけ」


おっと…愛染さんに見惚れている訳にはいかない。

あくまで俺はボディガード。いついかなる時でも脅威に備えなきゃならない。

一応、任務という事なので俺の携帯端末には様々な脅威に備えたアプリやソフトウェアが入ってるし、バックの中には護身用の武器や鎮圧用のテーザーガンや不殺弾が装填された銃がある。

もう取り出す暇もなかったらこのバックでぶん殴るけど。

これで殴ったら痛いだろ、流石に。


「…」


レッスン室の構造を軽く見直す。

入ってくるとしたら…非常口、正面、そして窓。

窓は…あり得ないとは思っているが前のAT学園の正面橋で起きたことを思い出すと警戒しておくべきか所になる。例え8階でも登ってきそうなんだよな。

非常口は外からは開けられない物もあるが、開けられるものもある。ただこれは外からは開けられない。

…爆破して開けてきそうな感じがする。


(あぁぁッ!!前の正面橋のせいでとんでもないことしてくる可能性があって頭が痛い…!)


愛染さんのファンの中には執念がすさまじいやつらがいる。

そのせいでどんな手を使って狙ってくるのかが分からな過ぎて頭が痛い。

ありとあらゆる箇所から来そうなんだよな…はっ!?もしかして壁をぶち破ってくるとか!?


「…キリがねぇ…!」


進入してきそうな箇所に目星を付けるが…なんかもうどこからでも来そうな気がしてきた。


「…ん?」


せめて候補を絞れないかと思っていたらファフニールが声をかけてくる。

…エレベーターから誰か来ています?

関係者…いや、ダメだ。怪しく感じてきた。

念のため、阿達さんに聞くべきか。


「阿達さん、ちょっと聞きたいことがあります」

「何かしら」

「出勤って俺が最後ですか?」

「そうね、鴉羽君で最後よ」

「…今日はメンテナンスとかそういう類の物ってあったりします?」

「いえ…今日はそんな予定はないけど、どうしたの?」

「…」


よし、多分敵だ。

だとしてもどうやって入ってきた?でも受付も居たしな、もしかして…通り穴とかある?

いや考えるのはやめよう、鎮圧が先だ。

レッスン室の扉を開けてエレベーターの方を見る。


(何階で降りる…?)


今、エレベーターに乗っている奴が何階で降りるのかが分からない。

この階なら俺と正面から会うことになる。そこからどう行動してくるのか分からないが、会うだけでも意味があるが…エレベーターは8階で止まらなかった。

13階で止まったようだ。

どういうことだ?愛染さんを狙ってくる奴なら8階か上下の7か9で降りると思っていたが。


「鴉羽君?どうしたの?」

「…」


まさか本当に関係者か?

…警戒した方がいいかもな。


「ちょっと、行ってきます」

「鴉羽君!?」


俺はレッスン室を飛び出して13階に向かう。

エレベーターはダメだ。関係者か敵なのか分からない奴が逃げ出す可能性も十分にある。

階段を駆け上り、13階についたと同時に周囲を見回す。


(いないか)


階段の周囲に人がいないことを確認し、ファフニールの声を頼りに件の奴がいる所へ足を進める。

というかファフニールが反応したってことは脅威になる人ってことだよな。

…どうやらそうらしいな、ファフニールがそう言ってる。


「…?」


ファフニールの言われた通りに件の奴がいる場所へ向かうと…そこは『電気室』だ。

おいそれとは入れない場所だし、よくみるとドアノブが鍵付きだ。

まさかピッキングで入ったとは思えないし、愛染さんを狙わずわざわざここに入った意味が分からない。

まるで意味が分からんぞ。


「ッ!?」


ファフニールから件の奴が扉に向かっていると言われた瞬間、扉の前から曲がり角まで急いで引き、確認する。


「ふぅ…」

(作業着に、工具箱…それに今電気室の扉を鍵で閉めたな。マジで関係者なのか?)


ちゃんとした装いだし、扉も鍵で閉めた。

関係者の可能性が高くはなったが…阿達さんの発言とファフニールの検知に引っ掛かったので黒寄りのグレーになったってだけだ。

だが…今、鎮圧しても意味がない。証拠もないしな。


(これは…大人しく撤退だな)


ーーー


俺はレッスン室に戻り、阿達さんに事の顛末を話す。

確かに電気室のメンテナンス云々の話は聞いたことがないが、鍵を持っていたことで若干混乱していて受付や別の関係者に連絡していた。

実際、俺も混乱している。何とも言えない奴が来たなと。


「…」


でも警戒しておいて損は無し、いつでも戦えるようにしないとな。


「鴉羽君」

「うん?」


頭の中で状況の整理をしていると愛染さんが話しかけてきた。


「休憩中か?ならしっかり休んだ方が」

「いや今日のレッスンは終わりだよ?」

「…へ?だってまだ昼頃」

「後ろ見て」


愛染さんに言われた通りに後ろを振り向くと…そこには綺麗な夕日が出ている。

…警戒に集中しすぎて物凄い時間がたっていたことに今、気が付いた。


「もうこんな時間なのかよ…」

「そんなに集中してたの?」

「まぁ、うん…任務だし、お願いされたことだしな。本気でやらないと」

「だとしても時間を忘れるほど集中するのも気が張りすぎなんじゃない?」

「…そうだな」


気が張る仕事なんだぞとツッコもうとしたが、やめておこう。

言い負かされる気しかしない。


「鴉羽君」

「はい、なんでしょうか阿達さん」


愛染さんと話していると今度は阿達さんが話しかけてきた。


「ちょっとこの後、色々と確認作業があるから愛染と一緒に1階まで降りて待機しててもらっていい?」

「構いませんが、どうしました?」

「ちょっと今回の鴉羽君が見つけた人についてね。思ったよりもややこしいことになりそうで…」

「わかりました」


本来はもうちょっとレッスンが続くが明日はまた別の予定がある為、早めに切り上げるみたいだ。んで…このまま愛染さんと阿達さん達が退勤したのち警備員と俺で巡回した後に俺が帰るが今回は違い、阿達さんたちは俺が見つけた電気室に入った作業着の男について会議しないといけないみたいだ。

…阿達さんの雰囲気からわかるが、若干焦っている。結構ヤバい問題なのか?


「愛染も1階で待機してて」

「はい」


愛染さんは荷物をまとめてレッスン室から退室し、俺も一緒に退室する。

いつの間にかシャワーも浴びていたみたいだ。

集中しすぎだな、俺…。

エレベーターのボタンを押してエレベーターを待つ。


「ねぇ鴉羽君」

「ん?」

「よく気が付いたね、電気室の人」

「あー…」


知らないんだよな、俺がファフニールの声が聞こえるって。

…言っておくか。


「何を言っているかわからないと思うかもしれないけど…俺は黒と赤のARMORであるファフニールの声が聞こえるんだ」

「え、声が?」

「あぁ。あの時にファフニールがエレベーターから上がっていく奴がいるって言ってくれてそれで見つけたって感じだし」

「凄いね、ARMORの声が聞こえるって」

「し、信じるのか?」

「勿論だよ。鴉羽君のことは信用してるし、何よりあの黒と赤のARMOR…ファフニールだよね?そのファフニールに救ってもらったし」

「お、おぉう…」


完璧な回答過ぎて何も言えなくなった。

…ファフニール、ふふんってなんだふふんって。


(お前、感情あるのか…?)


なんて思っているとエレベーターが8階について『チーン』と音が鳴ったと同時に扉が開いた。

愛染さんと一緒に乗り込み、『1』を押すと扉が閉まりゴウンと音が鳴って下に下がっていく。

エレベーターの中が静寂に包まれる。俺はここで愛染さんに聞いてみたいことがあったので聞いてみることにした。


「なぁ愛染さん」

「なに?」

「愛染さんって何でアイドルを目指した…いやなったんだ?」

「き、急にどうしたの?」

「いや答えられない質問なら答えなくていいんだが、気になったんだ」


どんなことにも動機っていうのがある。

それがただ気になった。


「うーん…」

「む、無理に言わなくていいんだぞ?」

「…言ってもいいかな、鴉羽君には」

「え?」


その言葉を聞いたとき、愛染さんの雰囲気が一気に変わった。

今まで明るく、太陽のようなオーラを醸し出していたが…太陽が雲に覆われたよう。

今は明るくない…暗く感じる。


「その、ね。私がアイドルを目指した理由なんだけど」


と愛染さんが語ろうとした。

次の瞬間


――バチンッ!!


「え」

「はっ!?」


エレベーターの中が一気に真っ暗になった。


「何だと…?」


通信端末のライトをつけてエレベーターの状況を見る。

エレベーターは動いておらず、ボタンも反応しない。非常用のボタンを押しても反応なしだ。

どうなってる、まさか故障か?

なんて考えていると


「?」


左手に柔らかい感触。

振り返ると愛染さんが俺の左手を両手で握りしめていた。


「あ、愛染さん?」


愛染さんの反応がない。

けど、分かることがあった。

左手から伝わる震え、握りこまれる痛み…彼女は何かに震え、怯えている。


「愛染さん…?」


エレベーターが動かないのならどうしようもない。

一旦、愛染さんを落ち着かせることにした。


「ご、ごめんね…鴉羽君…私…私…!」

「大丈夫です、俺がいます。怖いのなら手を握っててもいいですし」

「…うん…!」


愛染さんの手を握り返しながら、一緒にその場で座る。

愛染さんの様子がおかしい。さっきのもそうだがさっきよりも暗く、何よりも何かに怯えている。

手を放そうともしない。呼吸も乱れていて、血の気が引いているかのように顔が真っ青だ。

まるで一人でしないでほしいって言っているかのようだ。


「ごめん鴉羽君…もう少し寄ってもいい?」

「…いいですよ」


そういうと愛染さんは手を握りながら俺にピタッとくっつき、身体を預けてきた。

ボディガードとしてはこの行動はダメかもしれないが…流石に今の愛染さんに『ダメ』なんて言えない。

というか今の愛染さんの行動や雰囲気から見てわかる。

彼女は、暗いのが苦手…というより『トラウマ』なんじゃないかって。


「愛染さん、大丈夫ですか?」

「…正直に言うと、ちょっと無理かも。昔を思い出しちゃって」

「昔…?」

「ねぇ、鴉羽君。こんなことを君に言うのはアレかもしれないんだけどね。私は…君が記憶を失ったという事が…ちょっと『羨ましく』思っちゃったんだ」

「え?」

「…私ね」




「親に…『捨てられた』んだ」

「!!」

誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします


感想も待っていますので気軽にどうぞ!


超絶不定期更新ですがご了承ください…

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