第18話 ボディガード
愛染さんが俺にお願いしたいこと。
それは俺にボディガードになってほしいとのこと。
「ぼ、ボディガード?」
「はい」
「何故、俺に?」
「…あまりこんなことを言いたくはないのですが、秘密裏にボディガードの仕事を募集していました。だけど…集まったのは私の地位などを求める人たちや力で支配しようとしただけしか集まりませんでした」
「相当、苦労したんだな。俺には理解できないほどに」
愛染さんの表情が曇る。本当に苦労したんだろう。
「でも何で俺に?俺はボディガードの経験もないし、愛染さんはそもそも俺の事をあまりしらないはずじゃ…」
「勿論知りません。だけど強くて、守る意思があり…今の私が信頼できる人間はあの時に助けてくれた黒と赤のARMORのパイロットしか居ません。どうか、助けてくれませんか?」
「…」
「助けてくれた暁には…私が出来る限りではありますがなんでもしま」
「ストップ」
俺は愛染さんの言葉を止めた。
「愛染さんが悩んだのは分かったが、何でもするって軽々しく言うのはダメだ。いいな?」
「は、はい…」
「多分、何でもするって言おうとしたのは最悪の自体は俺が死ぬ可能性があるから報酬はデカい方がいいって思っていった事だろ?」
「!!」
「図星か」
愛染さんが何でもするほどボディガードになってほしいのは理解した。
それに何でもする程の危険が伴う事も。
本来であれば断るべき事案かもしれないが、俺としては丁度良かった。
「…受けよう」
「え?」
「死の危険性があるのもわかった。でもな、俺は困っている人を見捨てるほど冷たくはない」
「う、受けてくれるんですね!?」
「あ、あぁ。でも君の、えっと…マネージャーでいいのか?関係者の許可が降りたらボディガードになろう。俺は男だしストーカーを変に刺激する可能性もあるからな」
「ありがとうございます…!」
「!」
愛染さんは俺の手を両手で握った。
…あざといでいいのかな、ちょっと勘違いしそうになる。
「では、今日の放課後に私の事務所に行きましょう!」
「きょ、今日なのか!?大体こういうのって事前に話しておいた方が」
「速戦即決です!」
「…マジか」
愛染さんも結構行動力あるんだなと思いつつ、ボディガードの仕事を受けたことを心の中で若干…後悔した。
(…?)
愛染さんと歩いているとファフニールが声をかけてくる。
…何故ボディガードの仕事を受けたのかって?
うーん…ほっとけないっていうのもそうだが、何よりも思ったのはもしかしたら戦闘の経験を積めるかもしれないし、肉体を鍛えるのにちょうどいい口実が出来たって事かな。
俺はファフニールの本気を出す為のリミッター解除で死にかける。
多分、戦いでの情報処理がまだまだ不十分だし、そもそもの肉体が耐えられてないって事だろう。
まぁ対オールイーターとの戦闘はないかもしれないが普通の戦いになれておくのもいいだろ?本当はそんな戦闘は起きないでほしいけどね。
ーーー
それから教室に戻り、滅茶苦茶集中して授業を受けているうちに放課後になった。
その瞬間、愛染さんに手を掴まれて正面橋に止められていた如何にも高そうな車に乗せられ、何処かに連れていかれ…気が付いたら俺は
「…」
「愛染…連れてきたボディガードって男なの?しかもクラスメイトって…」
でっけぇビルの会議室みたいなところで様々な人に囲まれながら面接みたいなことをさせられていた。
…ファフニール、俺が何を言っているかわからねぇと思うが俺が判断するよりも先に事が進んだんだ。俺だってわからねぇよ。
「あ、愛染さん…報告とかは」
「してませんでした。直接、言った方がいいかなと」
「…報連相をちゃんとしましょう」
うん、ボディガード欲しさに焦っているのはわかるが…そこはきっちりしないと。
でないと関係者が死ぬぞ。
「…それで、あなたは?」
愛染さんのマネージャー…でいいのか?
俺の向かいに座っているスーツを身に着けた女性が話しかけてきた。
「AT学園、パイロット科の鴉羽零亜です」
「パイロット科?あそこって男子は入れないんじゃ?」
「特例…なんです」
「何があったの?」
「事細かには言えませんが、元々は整備科でしたが。とあるARMORに乗ってしまいそれで戦果を挙げた結果、パイロット科に編入していいという話になりまして、編入を受け入れました」
「ふーん…愛染、本当なの?」
「うん。いろんな人に聞いたけど事実だし、何よりも私たちを助けてくれた黒と赤のARMORのパイロットはこの鴉羽君だから」
「あの時のARMORのパイロットがこの人なの?」
「まぁ…そうですね」
愛染さんのマネージャーさんの反応を見るに、本当にあそこで追われていた人なんだろうな。
「その節は、どうもありがとう」
「お礼はいいです、そんな大層な事をやったつもりもないですし」
「…とにかく本題に入りましょうか。えっと鴉羽零亜君、君はボディガードになりたいと?」
「愛染さんからなってほしいと言われたので」
「愛染から?何か話したの?」
「前の写真を見せた」
「あー…ならボディガードになった際には怪我の危険があることも」
「承知しています。何なら下手したら死ぬことも」
「…それでも受けたいと?」
「はい」
場の空気が一瞬のうちに冷たくなる。
…想像以上に愛染さんを狙ったストーカーの行為は関係者にも多大な被害を与えていると見た。
「…難しいわね」
「な、何で!?」
「愛染さん。俺がさっき言いましたけど、俺は男ですよ?変に刺激したら」
「分かってる!分かってるよ…!」
「!」
俺がボディガードに選ばれない理由を愛染さんに話そうとしたら愛染さんに言葉を防がれた。関係者以上に、愛染さんは追い込まれているんだな。
「一応、聞きたいんだけど鴉羽君」
「は、はい」
「愛染に興味はある?」
「えっ?」
「きょ、興味っていうのは?」
「恋愛感情とかそういうのよ」
流石にないんだが…。
いや、確かに手が届かないからこその感情云々はあるかもしれないがそれが恋愛感情に昇華することは絶対にない。
そもそも愛染さんはアイドルだ。もし恋愛感情を向けて迷惑をかけてしまえば愛染さんのアイドルとしての人生やキャリアをぶち壊すことになる。
そんなことは絶対にできない。
「ないです」
「言い切れるの?」
「勿論です。愛染さんに恋愛感情を向けること自体は否定はしませんが、それ自体がストーカーや本人に被害が及ぶ可能性がある方向へ昇華するなら向けない方がいいですし、何より…俺はあまり愛染さんの事を知らないんです」
「…知らないの?」
「テレビ事体あまり見ませんし、ニュースくらいでチラ見するくらいですし…」
「…」
「ん?」
俺の発言を聞いたマネージャー含め周囲にいる関係者の目付きが一気に鋭くなった。
…もしかして愛染さんを知らないって言ったのがマズかったか!?
そ、そりゃそうか…愛染さんの事を家族の次に考えてそうな人たちだもんな。
知らないっていえば怒るに決まってる。
「愛染」
「は、はい」
「ごめん、鴉羽君はボディガードにできない」
マネージャーさんは愛染さんに俺をボディガードにすることはできないとはっきりと言い切った。
「な、何で…!?」
「愛染が信頼して鴉羽君を連れてきたのはわかるけど…今までのボディガード候補と全然違う事もわかったけど、ボディガードになって私たちに襲い掛かってきた人たちと同じことを言ったのよ?そんな人をボディガードにすることはできないわ」
「そ、それは…」
なるほどな。俺が愛染さんを知らないって言って目付きが鋭くなったのは、襲い掛かった人たちが同じことを言ったからなんだろうな。
ボディガードをする上で一番重要なのは、多分私情に流されない事だろうと思う。
愛染さんを知らない人なら私情に流されることは無いと思うが、もし知っている人で秘めたる思いがある人なら…『知らない』といって近づくのが定石かもな。
…ある意味、俺は正直に言って一番の地雷を踏み抜いてしまったのだろう。
「愛染さん」
「は、はい…?」
「ごめんなさい、俺は期待には添えませんでした」
「鴉羽君…」
愛染さんは罪悪感があるのか、申し訳なさそうな顔をしている。
「であれば、俺は帰ります。関係者でも何者でもありませんしね」
俺はそういってバッグを背負って会議室から出ようとした。
次の瞬間
「…ん」
足を止める。
「どうしました?まさか…まだ何か」
「静かに」
「!?」
気のせいじゃない、か?
何故か知らんが、この会議室の扉の先に3人ほど人の気配がする。
…いや、気のせいじゃない。ファフニールが言ってくれた。この扉の先に3人いて会議室の人たちを狙っている。
ファフニールが俺の枷を通じて危機的状況を読み取ったみたいだ。
「…」
俺は近くにあったパイプ椅子を折りたたんで、右手で握りこみ構える。
そして左手でドアノブをひねり、勢いよく扉を開けた瞬間
「そぉら!!」
「ぶっ!?」
扉の先に構えていた男を目掛けてパイプ椅子を投げつけ、足でパイプ椅子ごと壁に踏みつける。
見事に命中し、正面からは椅子、後方からは壁の板挟み状態になり一人は倒れた。
「えっ!?」
「な、なっ!?」
急な出来事に情報処理が追い付いていない2人は唖然としている。
「ARMORに乗っててよかったよッ!」
ある程度はファフニールのお陰でキックとかパンチの心得はあるし、格闘技は記憶を取り戻す一環で習ったことがある。
手軽に鎮圧させてもらおうか。
壁とパイプ椅子に挟まれ気絶した奴の足首を思い切り握り締め、他の2人を目掛けて投げつける。
吹っ飛んできた奴とぶつかって体勢が崩れた瞬間
「胴ががら空きだ!」
「がはっ!?」
一人の鳩尾を目掛けてハイキック。
ものの見事に俺の足はソイツの胴を捉え、白目をむいて気絶した。
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
急な乱入及びよく分からない男が二人を気絶させたので、残りの一人が半泣きになり、腰が抜けたまま逃げていく。
「何処へ行くんだぁ…?」
俺はソイツの足首を掴み、捕まえる。
「ひっ!?は、離せ!?」
「断る。何故ここにいる、関係者か?」
「そ、そうだ関係者だ!だから手を」
「じゃあその右手に持っている縄はなんだ?」
「…あ」
…まぁどちらにせよ。
逃がす気はさらさらない。
「ふんッ!!」
床に押さえつけながら顎辺りを狙って強烈な右フック。
ズゴォッ!!と言う音が廊下中を響き渡り、三人の鎮圧は完了した。
「…痛い」
な、殴った側もこうも痛いモノなんだな…殴る方も痛いんだよって事実だったんだ。
とりあえずさっさと拘束して後はここの人に任せるとしよう。
「鴉羽君!今、何が起きて…!」
先程の会議室から愛染さんとマネージャーさんを含めた関係者が顔を出し、此方を見てきた。
「どうやら侵入者のようです」
「し、侵入者…!?」
「関係者かと思ったが服装が愛染さんを除いた人と明らかに違う。清潔感の無い服装、髪色、証である社員証がない。そして何よりも縄、スタンガン、バットをもっている。どう考えたってこんな場所に必要ないものばかり。なので鎮圧しました」
「す、凄い…!」
「…凄いのかこれ」
何て話しつつ三人を縛り上げて、身動きが取れないようにした。
これにて俺のやることは終わりだ、さっさと帰るとしよう。
そう思い、拳についた血をふき取りバッグを手に取って戻ろうとした。
しかし
「待ちなさい!」
「!」
俺を止めたのは愛染さんではなく…愛染さんのマネージャーさんだった。
「何故俺を止めるんです?俺はボディガードになれないはずですが」
「…その言葉は撤回させて頂戴」
「へ?」
「貴方のボディガードを受け入れたいの」
さっきとは打って変わって俺のボディガードを受け入れたいと言い始めた。
「な、何で…?」
意味が分からない。俺をボディガードにすることによって起きるであろうリスクの方が大きいだろうに。
「…色々話したいからもう一度、会議室に入ってくれない?」
「わ、わかりました?」
色々と煮え切らないが、言われた通りに会議室の中に入り先程と同じ席に座る。
勿論、向かいにはマネージャーさんで隣には愛染さんが座った。
「さて、まずはごめんなさい。呼び止めてしまって」
「それは構いませんが…何故俺を?」
「先程の行動で確信したの。貴方は愛染だけではなく私たちも信頼できる立場であるという事に」
「???」
言っている意味が分からないんだがと思っているとマネージャーさんから書類と写真が机に広げられる。
広げられた書類は契約書だとわかり、俺が記入するわけではなく既に全て署名済みの契約書だ。その契約書にはクリップで写真が付けられていて、写真に関しては愛染さんから見せられたものとは違う物が写っている。
「…?」
書類を手に取ってみてみる。
記入されている名前に関して黒く塗りつぶされている。プライバシーとかで引っ掛かるから黒く塗りつぶされているんだろう。
んで挟まれている写真は3枚。全て更衣室の前の扉が写っていてそこに入っている男性が写っている。
「これは?」
「愛染の更衣室に侵入したボディガードの証拠ね」
「はぁっ!?」
何それ気持ちわる!
おっと…危ない危ない、口が悪くなるところだった。いやだとしても十分気持ち悪いけど。
何で人の更衣室に入るんだよ…。
「…流石にクビになりましたよね?」
「えぇ流石にね。それと、その書類がすべてクビになったボディガードの事に関係するものなの」
「…」
…ゾッと寒気がする。
「それでね…ちょっといろいろと調べてみたの。ボディガードの素性をね」
「は、はぁ…」
「その結果がこれ」
今度は一枚の写真がおかれた。
それを手に取り、確認する。
男性が4人ほど集まっているところだな。しかも場所的に路地裏、まるで秘密の密会みたいだ。
すると
「…ん!?」
その4人の顔を見て、俺は気が付いた。
写真を左手で掴みながら特定の書類だけを出して契約書だけをピックアップして契約書の証明写真のみ確認する。
…一緒だ。写っている4人の顔は契約書の証明写真に刻まれている。
「ぐ、グループで雇ったんですか?」
「いえ、あくまでボディガードは一人のみだったわ」
という事はこの4人は繋がりがあった、というわけか。
しかも、4人のやらかしの証拠の写真を見ると…監視室、レッスン室、更衣室、電気室に進入している。いやレッスン室はギリ分かるが、右下に書かれている時間が23:34と書かれている為、流石に不法侵入だろう。今時の仕事でもそんな時間まで仕事するのはそうそうない…ここがブラック企業ならもしかしたらだけどね。
んで4人は繋がってて、グループで不正行為をしたってことは…。
(そういう事か?)
この四人がしたことは、愛染さんを含めた関係者の行動パターンの調査と愛染さんを攫うための手筈を整えるためにってやつかもな。
その計画性を他で活かせ。同じ男として恥ずべき行為だ。
「はぁ…」
「か、鴉羽君?どうしたの?」
こんな人の人生を自分の自己判断で狂わせるんじゃない、と思いながら愛染さんを見る。
「先程の行為を見てわかったのは貴方はとても強く、誰とのつながりもなく、本気で愛染を含めた関係者を守ったという事実が残った、違うかしら?」
「そうかもしれませんが、そういう計画かもしれませんよ?愛染さんや関係者を守ったことにより生じた信頼を利用して近づけとかそういう…」
「貴方が言った時点で無いわね」
「…」
事実だけど…というか繋がりのある人間がAT学園以外に居ないし。
「それでどうかしら、ボディガードの件は」
「…元々受ける気でしたし、構いませんよ」
「わかったわ、じゃあこれが契約書ね。ここに名前を書いて」
マネージャーさんは机に広げられた契約書をすべて回収した後に無記名の契約書を俺に渡した。
『鴉羽零亜』っと、生年月日…生年月日!?
てか住所!?わ、わかんねぇ…!
「あ、あの…」
「何かしら?まだボディガードに関係する疑問が?」
「せ、生年月日や住所がわからないときはどうすればよろしいでしょうか?」
「…え?」
「か、鴉羽君?何を言ってるんですか?」
「あぁそうか、愛染さんは知らないのか。実はさ…」
俺は愛染さんやマネージャーさんを含めた関係者に俺の記憶がないことを話し、今戦っているのは記憶を取り戻す為だと話した。
「き、記憶喪失なんて本当にあるのね…」
「本当に何も覚えていないんですか」
「あぁ。家族も生まれた場所も、何にも覚えていない」
「…」
「なら生年月日は射線をいれて、住所は今住んでるところにして」
「わかりました」
そういって生年月日には射線を入れて、住所は『AT学園ーパイロット科学生寮ーOZ001』と書き記した。
「…はい、これで鴉羽君は正式に愛染のボディガードになったわ。これからよろしくね、鴉羽君」
「あ、はい!やるからには精一杯やります」
「えぇ期待してるわ。それと私は愛染珊瑚のマネージャーの『阿達泉』。」
「よろしくお願いします、阿達さん」
「やった!これからよろしくね、鴉羽君!」
「うぉぉう!?」
左手で愛染さんのマネージャーさんである阿達さんと握手していたら、右手が愛染さんに握られブンブンと上下に振り回される。
「か、肩が外れる!」
「あ、ごめん…」
改めて思うけど、愛染さんって結構元気いっぱいなんだな。
これに振り回されている阿達さんとかは、ずっと大変そうだなと思った。
誤字脱字、語彙力がほぼ皆無に等しいのでミス等がありましたらご報告お願いします
感想も待っていますので気軽にどうぞ!
超絶不定期更新ですがご了承ください…




